銀行や信用金庫の本源的な利益源泉は、利鞘、即ち、預金による資金調達の金利と、融資による資金運用の金利との差分ですが、では、なぜ、利鞘が発生するのか。
銀行や信用金庫などの預金取扱金融機関は、事業の基本構造として、預金の形態で資金を調達し、融資という方法で、その資金を運用するものであって、そこでの本源的な利益源泉は、利鞘、即ち、調達金利と運用金利の差分になっています。では、なぜ、利鞘が発生するのか。実は、こう問うことは、金融の本質を問うことであり、いかにして預金取扱金融機関は利鞘を獲得するのかと問うことは、預金取扱金融機関の事業の本質を問うことなのです。
長期金利と短期金利の差は、利鞘の源泉になり得るでしょうか。
資金の調達、あるいは運用においては、必ず期間の定めがあり、その期間に応じた金利が適用されます。では、なぜ金利は期間との関係で規定されるのか。これは経済学における難問の一つです。しかし、事実としては、政府が国債の定期的な発行によって資金を調達するなかで、国債が取引される資本市場においては、残存期間の異なる国債が存在していて、国債の利回り、即ち、金利は、残存期間に応じて形成されているのです。
これらの国債について、満期までの残存時間を横軸にとり、利回りを縦軸にとったグラフは、イールドカーブと呼ばれていて、期間と金利との関係を示す指標として、広く利用されています。イールドカーブの形状は、常に変化しているわけですが、多くの場合、右肩上がりになっています。つまり、通常は、期間が長いほど、金利は高くなるのです。そこで、確かに、理屈上は、資金の調達を短期にして、運用を長期にすれば、利鞘が得られることになります。
しかし、こうした長短の金利差は、決して、安定的な利鞘の源泉とはなり得ません。なぜなら、例えば、日本銀行の金融政策が強めの引締めに転じれば、短期金利は大きく上昇して、長期金利よりも高くなることが十分にあり得るからです。では、そうしたときは、調達を長期にし、運用を短期にすればいいのかというと、そもそも、より本源的に、期間に応じた金利差を利益源泉にすることは、要は、金利変動の主観的予測に基づく投機にすぎず、投機による利益に持続可能性はないのです。
金利差に基づく投機においては、事業に固有の付加価値を創造できないわけですか。
預金取扱金融機関の事業は、製造業に喩えれば、預金によって、原材料としての資金を仕入れ、それを融資という製品にして、販売することです。製造業においては、原材料を加工して、そこに付加価値を創造して、製品にしているように、預金取扱金融機関においても、原材料としての資金に対して、付加価値を創造することで、融資という製品にするのであって、その付加価値こそ、真の利鞘であるわけです。
預金取扱金融機関は、預金に付加価値をつけて融資にするといっても、当然のことながら、資金であるという基本性格を変え得ません。しかし、そこに信用を付加しているわけです。つまり、預金取扱金融機関は、預金の元本を保証しながら、元本を保証され得ない、即ち、元利金の返済が不確実な融資を行うことで、預金者に対して、預金利息を支払っているのであって、要は、預金の元本を保証するからこそ、低い金利で調達でき、元本保証のない融資を行うからこそ、高い金利で運用できていて、その間に、利鞘を発生させているのです。
では、利鞘とは、理論的には、保険から発生する保険料なのでしょうか。
信用損失、即ち、融資先の破綻等による融資債権の価値の毀損については、その発生を統計的に緻密に把握できるわけではありませんが、預金取扱金融機関は、極めて多くの多種多様な融資債権をもっていますから、その集合については、ある程度の精度をもった期待損失の推計が可能です。故に、理論的には、預金取扱金融機関は、信用損失の発生という危険を負担することについて、利鞘という保険料をとることで、自分自身が保険者となって、保険をかけていると考えることができます。
信用損失が期待通りに発生したとき、保険料としての利鞘で吸収できるとしても、それだけでは、預金取扱金融機関の利益がなくなってしまいます。また、他方で、信用損失は、期待を超えて発生し得るので、合理的に推計され得る最大損失を吸収することで、預金の元本保証を守るものとして、自己資本の充実が必須の要件になります。要は、保険には、保険を可能にするための自己資本が必要なのであって、実際に、預金取扱金融機関に課せられている自己資本規制においては、そうした意味の自己資本の最低額が定められているのです。
さて、預金取扱金融機関は、外部の投資家から自己資本を調達している以上、適正な資本利潤を還元する義務を負います。故に、預金取扱金融機関の得るべき利鞘は、理論的な保険料としての利鞘に、資本利潤を加えたものになります。しかし、こうした意味の利鞘は、預金取扱金融機関に共通して、実現されるべき最低限の水準なのであって、預金取扱金融機関が固有に創造すべき付加価値を含まないわけです。
預金取扱金融機関が固有に創造する付加価値は、どこから生じるのでしょうか。
預金取扱金融機関が固有の付加価値を創造する方法は、預金を原資にした融資という事業の基本構造に即して考える限り、理屈上、資金調達費用の削減と、資金運用収益の増大との二つしかないはずです。では、最初に、どうすれば、資金調達費用を低下させ得るのでしょうか。
基本的な論点は、固有の付加価値創造は、預金取扱金融機関相互の競争によって、実現されるのであって、競争環境においては、調達費用と調達能力との間に、相反関係が生じることです。例えば、預金金利の引き下げは、競争のもとでは、自明のこととして、預金の減少を招くわけです。そこで、理屈上は、調達能力を維持しながら、費用を削減する方法は、事務費用の削減と、金利によらない預金吸収力の創造しかないのです。
しかし、事務費用の削減によって、顧客にとっての利便性が悪化すれば、明らかに、金利によらない預金吸収力が低下しますから、やはり、両者間には相反関係があります。そこで、例えば、いわゆるDXの推進というとき、それは、単なる事務の合理化ではなく、顧客にとっての利便性の向上でなければならず、預金の粘着性、即ち、預金が自然に集まって、滞留する仕組みの創造でなければならないわけです。
他方で、預金集めのための積極的な営業活動や、優遇金利によって、調達能力の強化を行えば、不毛な競争を誘発して、資金調達費用の増加を招くだけであって、しかも、そのようにして無理に集めた預金には、決して粘着性は生じないのです。真の競争は知的になされるべきで、体力による不毛な競争は疲弊と消耗を招くだけだということです。
では、資金運用収益の増大については、どのような方法があるのでしょうか。
ここでも、積極的な営業活動によって、融資の総量を拡大させて、運用収益の増大を図ることは、不毛な競争を誘発して、費用の増加を招くだけではなく、多くの場合、融資金利の低下をもたらすだけですから、真の競争は、融資創造の知的な工夫において、なされるべきです。そして、そうした知的な工夫の代表例こそ、事業性融資なのであって、ここでは、過去の財務諸表に基づけば、融資困難な企業でも、未来に向けた現金創造力を評価し、更に、融資後に様々な支援を継続的に行うことで、融資可能にしていくわけです。
また、事業性融資において重要なことは、融資を実行するからこそ、融資先企業の事業が伸びるという点です。つまり、融資は、その対象である顧客の事業の成長によって、真の社会的付加価値を創造するのであって、その価値創造が融資金利に反映されるとき、預金取扱金融機関は、真の意味において、資金運用収益を増大させるのです。
・銀行等は融資削減の努力を徹底して融資を増やすべきだ(2026.6.18掲載)
日本の企業が手元流動性を高めに保持する背景や、昨今の金融行政の課題などを踏まえ、預金取扱金融機関の持続可能なビジネスモデルがどうあるべきかについて論じています。
・銀行は預金に新しい意味を付与することで自己変革する(2026.5.14掲載)
預金から資産運用への転換が進むなかで、預金に新たな意味を与えることで銀行は再生できるのか、金融の未来を考える上で示唆に富んだ内容です。
・金利上昇で預金獲得に努力する銀行は愚かなのか(2026.1.15掲載)
融資の拡大に苦戦する金融機関にとっては、預金の安定性を維持するとともに、取引先企業への理解を深めることが競争力向上の鍵となると説明しています。
(文責:内木)
次回更新は、9月17日(木)になります。
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森本紀行(もりもとのりゆき)
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
東京大学文学部哲学科卒業。ファンドマネジャーとして三井生命(現大樹生命)の年金資産運用業務を経験したのち、1990年1月ワイアット(現ウィリス・タワーズワトソン)に入社。日本初の事業として、企業年金基金等の機関投資家向け投資コンサルティング事業を立ち上げる。年金資産運用の自由化の中で、新しい投資のアイディアを次々に導入して、業容を拡大する。2002年11月、HCアセットマネジメントを設立、全世界の投資のタレントを発掘して運用委託するという、全く新しいタイプの資産運用事業を始める。
