銀行等は融資削減の努力を徹底して融資を増やすべきだ

銀行等は融資削減の努力を徹底して融資を増やすべきだ

森本紀行
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<毎週木曜日 11:30更新>

銀行等の預金取扱金融機関は、融資を増加させるために、先に融資の最小化を徹底することで、融資先企業の経営効率を改善させて、その成長を促すべきではないか。
 
 企業が正常に経営されていて、その事業活動は、成長がなくとも、衰退もなく、安定的に推移していて、持続的な利益を創造し続けているとします。こうした状況においても、仕入れ等により先に資金を支出し、販売等により後で資金を回収するという事業活動の基本形態からすれば、資金繰りのために、一定額の運転資金が必要となります。
 このとき、経営効率を最大化するためには、運転資金の滞留を最小化すればいいのですが、その際には、当然に、不確実性を考慮しなければなりません。不確実性とは、様々な予想し得ない理由によって、入出金予定日に異動が生じ、また、決済金額も変動し得るということです。そこで、不確実性を大きく見積もって、運転資金額に余裕をもたせると、経営効率が悪化し、逆に、資金繰りに関する不確実性を小さくするように経営努力を徹底して、運転資金額を最小化しておくと、想定外の異常な事態のもとで、資金繰り破綻の危険が生じます。
 
不確実性は、運転資金の保有額ではなくて、資金調達の弾力性によって、吸収されるべきではないでしょうか。
 
 資金調達が極めて弾力的である、即ち、必要資金が常に即座に確実に調達できるのならば、手元流動性は最小でよく、資産の運用効率を最大化できます。しかし、資金調達は必ずしも弾力的ではなく、金融環境によっては、必要額の調達が困難なこともあり、また、調達できても、時間を要したり、金利が高くなったりする可能性があって、故に、資金需要の不確実な発生に備えて、余剰資金を滞留させておくことがなされているのです。
 
日本の企業の手元流動性の保有については、過剰であると指摘されることがありますが、こうした批判は的外れなのでしょうか。
 
 資本市場の効率性については、様々な定義があるでしょうが、その一つとして、資金調達の弾力性、即ち、短期証券の発行等によって、必要な資金額を、必要なときに、適正な条件のもとで、調達できる程度があります。日本の場合、おそらくは、米国に比較したときに、こうした意味での資本市場の効率性が低いのだろうと考えられます。なぜなら、日本では、金融機能の中核は、依然として預金取扱金融機関によって担われていて、資本市場機能は補完的地位に留まるからです。
 日本の企業において、手元流動性を高めに保持する傾向があるとすれば、その一つの理由は、資本市場の規模が小さく、効率性が低いために、資金調達の弾力性がないことだと考えられます。こうした日米の金融構造の差を考慮せずに、米国の基準から、日本企業の財務行動を評価すれば、見当はずれな批判も起き得るでしょう。
 
では、不時の資金需要に対して、銀行等の預金取扱金融機関が弾力的に対応すれば、企業の手元流動性を最小化できるのではないでしょうか。
 
 ここでは、預金取扱金融機関の本質にかかわる重要な論点が浮上してきます。預金取扱金融機関にとって、融資が本質的な業務であるとすれば、利益誘因は、顧客企業の運転資金の最小化の方向ではなく、逆に、企業の運転資金が過剰になったとしても、融資額を増やす方向に働くはずです。
 これに対して、預金取扱金融機関の本質を再定義して、顧客が必要とする資金額について、必要なときに、適正な条件で、確実に提供すること、即ち、資金供給の弾力性を保証することとすれば、企業の運転資金の最小化の方向にこそ、預金取扱金融機関の社会的使命があることになります。
 あるいは、視点を変えて、預金取扱金融機関の本質的な業務は、融資先企業への経営支援であり、融資は支援活動の一部にすぎないとすれば、その社会的使命は、企業の運転資金の最小化を通じて、経営効率を上げることであると同時に、予想され得ない資金需要が発生したときには、それに確実に応える保証を与えて、決して資金繰り破綻を起こさせないことになるわけです。
 
金融庁のいう顧客との共通価値の創造ですか。
 
 金融庁によれば、預金取扱金融機関の持続可能なビジネスモデルにおいては、顧客の利益の方向に、自分自身の利益の方向が一致していていることになり、顧客との間には、常に共通価値、即ち、共通の利益が創造されることになります。しかし、これは、金融庁にいわれなくとも、また、預金取扱金融機関の業務に限ったことでもなく、近江商人の三方よしに代表されるように、古来、商業の基本とされてきた経営哲学です。
 そこで、企業にとっては、経営の効率化が利益なのですから、預金取扱金融機関にとっても、顧客の運転資金の最小化が自分自身の利益になることになります。しかも、企業にとっては、想定外の事態で、運転資金が不足したときでも、即座に必要額の調達ができることは利益なのですから、預金取扱金融機関にとっても、その需要に確実に応えることは利益でなくてはなりません。しかし、顧客との共通価値を創造するためには高度な工夫が必要であって、金融庁は、預金取扱金融機関に対して、その難問への挑戦を求めているわけです。
 
金融行政の課題として、顧客との共通価値の創造がいわれるのは、現実には、それに反する事態の横行があるということですね。
 
 何事であれ、基本の実践が繰り返し唱えられるのは、基本の実践がなされていないからであり、金融庁によって、顧客との共通価値の創造が唱えられるのは、実際には、顧客の利益と預金取扱金融機関の利益との相反がみられるからです。つまり、預金取扱金融機関の現状においては、融資額の増大が経営課題になっていて、故に、預金取扱金融機関の積極的な融資営業の結果として、運転資金が過剰になっている可能性を否定できないわけです。
 
いわゆる歩積み両建てですか。
 
 歩積み両建てというのは、融資額の一定割合を預金に拘束することであって、かつての預金取扱金融機関によって行われていた悪しき商慣行です。当然に、預金金利のほうが低いので、拘束預金の融資額に占める比率を高くしていくと、融資の実効金利は、表面金利よりも高くなっていきます。わかりやすい例をあげれば、100を3%の表面金利で融資し、そのうちの50を金利のない当座預金に拘束すると、実質融資額である50の実効金利は6%になるわけです。
 歩積み両建ては、預金取扱金融機関にとって、預金と融資の両方の量的拡大を図れるのと、表では、金利を同じにしておいて、裏では、融資先ごとに自由自在に実効金利を操作できることから、古くは盛んに行われていたのです。しかし、融資額の一定割合を預金に拘束することは、明らかに優越的地位の濫用であって、金融庁の発足に伴い、預金取扱金融機関に対する監督が強化されて、消滅したと考えられています。
 
しかし、結果的に歩積み両建てになっている事態はあり得ますね。
 
 預金取扱金融機関にして、一方で、熱心に預金獲得の営業をし、他方で、積極的に融資増大の努力をすれば、意図しなくとも、結果的に、一定程度の歩積み両建てを招くことは、不可避です。つまり、不用な融資によって、運転資金の過剰が生じている可能性があって、その場合には、両建てを清算することで、企業の負債と手元流動性との双方を適正化できる余地があるということです。
 
そうしますと、預金取扱金融機関の真の社会的使命は、融資を最小化することになるのでしょうか。
 
 企業は、一定の事業活動の規模に対して、運転資金を始めとした事業資産の保有を最小化することで、経営を効率化できますから、預金取扱金融機関にとっては、顧客の経営効率化を徹底的に支援するとき、資産の最小化に伴う融資の最小化が課題になるはずです。しかし、最小化というのは、一定の事業活動の規模を前提にしていることで、顧客の経営効率の改善が事業規模の拡大につながれば、実は、融資量は増えるのであって、ここに顧客との共通価値の創造という難問の答えがあるのです。
  ≪ 関連する論考をご紹介いたします ≫
金利上昇で銀行から預金が資本市場に流出するとき(2026.6.11掲載)
国内金利上昇という未知の環境下において、預金取扱金融機関は、預金流出に対する不安感から、預金獲得競争を展開するのではなく、抜本的な事業構造改革により自らの固有領域を確保して、預金に従来とは全く異なる戦略上の役割を見出す必要があると述べています。

総資産利益率が経営効率測定指標の基本であるわけ(2024.9.12掲載)
総資産利益率は、企業の現金創造の実態が適正に表現されるように、会計処理された結果であり、企業の経営効率を測定する指標として最適です。類似の指標としては自己資本利益率や投下資本利益率があり、企業経営を評価する際には、それぞれに対して正確な理解と適切な使用が重要です。

最適資本構成において何が何に対して最適となるのか(2024.7.11掲載)
過大資本は資本利益率を低下させ、過小資本は事業リスクを吸収しえない可能性があるため、最適な資本構成が求められます。事業の特性に見合った最適資本構成の考え方について解説しています。
(文責:広瀬)

次回更新は、6月25日(木)になります。
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森本紀行

森本紀行(もりもとのりゆき)

HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長

東京大学文学部哲学科卒業。ファンドマネジャーとして三井生命(現大樹生命)の年金資産運用業務を経験したのち、1990年1月ワイアット(現ウィリス・タワーズワトソン)に入社。日本初の事業として、企業年金基金等の機関投資家向け投資コンサルティング事業を立ち上げる。年金資産運用の自由化の中で、新しい投資のアイディアを次々に導入して、業容を拡大する。2002年11月、HCアセットマネジメントを設立、全世界の投資のタレントを発掘して運用委託するという、全く新しいタイプの資産運用事業を始める。