銀行は預金に新しい意味を付与することで自己変革する

銀行は預金に新しい意味を付与することで自己変革する

森本紀行
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<毎週木曜日 11:30更新>

銀行等の預金取扱金融機関は、その本質を預金にもつのですから、経営環境が大きく変化するなか、預金に独自の性格を付与することで、自己変革できるはずです。
 
 銀行や信用金庫等の預金取扱金融機関は、人々の生活にとって、必要欠くべからざるものであり、誰しも預金口座をもっているのですから、今更、預金とは何かと問うことは馬鹿げているようです。しかし、実は、この問いは、金融の本質について再考を促すものとして、重要な意味をもつのです。そこで、まずは、預金の基本機能を整理すれば、信用創造、現金の存在形態、決済基盤の三つになります。
 
信用創造とは、どういうことでしょうか。
 
 預金取扱金融機関は、預金を原資にして融資を行いますが、融資をすれば、融資額と同額だけ、融資先の預金を増加させます。別のいい方をすれば、融資とは、融資先の負債を増加させることですが、当然のことながら、貸借は対照するわけですから、同時に、預金の増加という形で、融資先の資産を増加させるわけです。このように、預金を原資にして融資をすると、融資の原資である預金が増加しますが、この預金の増幅効果は、信用創造と呼ばれます。
 信用創造のもとでは、例えば、預金取扱金融機関は、原始的に存在する預金100に対して、20%を留保して、融資を行うとすると、100から80が融資され、増加した80の預金から64が融資され、更に64から51.2が融資されるというように、預金と融資が並行して増加していき、最終的に、100は500になります。この仕組みは、国民の蓄積を大きく増幅して、産業界の旺盛な資金重要に応えるものとして、経済成長期には、極めて重要な役割を演じたのです。
 
なぜ信用創造が可能なのでしょうか。
 
 預金による信用創造が可能なのは、預金が現金の存在形態だからです。現金には、物資の存在形態として、紙幣と硬貨があり、情報の存在形態として、預金があります。債権者が紙幣の形態で債務者に融資したところで、信用創造は起きませんし、債権者が預金から紙幣を引き出して、債務者に融資し、その紙幣を債務者が預金しても、預金者の名義が債権者から債務者に変わるだけで、預金は増加しませんから、信用創造は起きません。
 紙幣による融資で、信用創造が起きないのは、紙幣が複製できないからです。それに対して、預金は情報なので、預金取扱金融機関は、それを複製することで、信用創造を行えるわけです。そして、信用創造は、別名、金融仲介とも呼ばれます。なぜなら、預金取扱金融機関は、融資を行うことで、余剰資金をもつ預金者と、資金不足にある預金者との間で、預金を仲介にして、即ち、預金を複製することで、資金を移転しているからです。
 
預金は現金の存在形態だから、決済基盤になるのですか。
 
 資金決済は現金の授受で完了されるのですが、預金は、現金を情報化することで、資金決済を情報の交換で完了させます。こうして、預金は、極めて効率的な資金決済の基盤として機能しているわけです。そして、決済基盤であるからこそ、預金には、決済に備えた予備資金が滞留するのです。
 預金取扱金融機関のなかでは、決済によって、常時、資金が出たり入ったりして、激しく異動していても、預金総量は、全体として、大きくは変動せずに、底溜まります。これが預金の粘着性といわれる事態です。実は、決済基盤としての預金は、自然に資金が集まる仕組みであり、集まった資金に粘着性を付与することで、それを融資の原資として利用可能にするものなのです。
 
なぜ、決済基盤に、自然に資金が集まるのでしょうか。
 
 預金取扱金融機関は、経済圏を基盤として、その経済圏の決済基盤として機能しているので、そこに自然と資金が滞留するのです。経済圏とは、そこに所属する主体間で、相互に密接に関連した商取引が数多くなされる圏域であって、その典型は地域です。地方銀行や信用金庫は、自分が存立している地域において、その経済圏の中心にいるからこそ、そこに預金が自然に滞留するので、その滞留した預金を融資の形態で経済圏に還流させてきたのです。
 かつての都市銀行、今のメガ銀行は、その総体において、日本という経済圏の中心にあって、日本経済全体のなかで滞留する資金を預金として吸収し、それを日本経済に還流させてきました。そして、日本経済がグローバル経済圏の一部と化していくのに応じて、メガ銀行は、必然的に、グローバル経済圏のなかに住処を移していくことになるわけです。
 つまり、預金取扱金融機関の本質は、自分に固有の経済圏に定位し、その決済基盤となって、内部の資金循環を担うことなのであり、しかも、単純に循環させるのではなく、信用創造、即ち、預金と融資の相乗的増幅によって、資金の流れを太くしつつ、経済圏の拡大に寄与することなのです。そして、この本質は、預金取扱業務がある限り、絶対に不変です。
 
経済圏の定義は可変ですね。
 
 インターネット上の商取引基盤、鉄道等の交通網でつながれた圏域、携帯電話という通信手段上に結合された商取引圏、流通店舗網など、多方面の領域において、新しい経済圏を作ろうとする事業者の活動が盛んです。そして、そうした事業者が次々と自分の経済圏のなかに銀行を設立していることは、預金取扱金融機関と経済圏が一体であることを示すものです。
 しかし、こうした新興勢力の銀行では、少なくとも今のところは、決済基盤の提供が主たる業務になっていて、信用創造、即ち、融資によって、決済基盤に滞留する預金を経済圏に還流させることについては、今後の課題になっているようです。あるいは、信用創造を行う意図はないのかもしれず、この点は非常に興味深いところです。
 
地域における経済圏が弱体化するとき、地方銀行や信用金庫はどうなるのでしょうか。
 
 地域の経済圏が流動化するとき、その地域に基盤をもつ預金取扱金融機関は、自己変革と創意工夫によって、新たな地域経済圏を再定義していかない限り、存続し得ないのではないでしょうか。実際、政府は、政策課題として、地方創生を掲げていますが、再生でも復興でもなく、創生という言葉を用いるからには、そこでは新しい地方の再定義が志向されているはずです。
 
成熟経済のもとで、信用創造は必要なのでしょうか。
 
 経済成長に伴い、一方で、富の蓄積が進み、他方で、成長率が低下していって、資金需要が相対的に減退するので、金融の基本課題は、資金の供給から、資金の運用に転じていきます。日本では、既に低成長が定着していて、故に、政府は、ついに、資産運用立国という政策課題を掲げるに至っているわけです。
 こうした状況において、信用創造の必要性は大きく低下していて、そのことは融資総額に比して、預金総額が大幅に超過する事態に明瞭に現れています。資産運用立国によって、この過剰預金は資本市場に移転されるわけですが、資本市場においては、産業界は株式や社債などの発行により資金を調達し、国民は、投資信託等を通じて、資金を運用するので、信用創造は起きないのです。
 
預金取扱金融機関を経由する資金の流れにおいても、預金から決済機能をとり去れば、信用創造は起きないのではないでしょうか。
 
 信用創造が起きるのは、預金が現金の情報化された存在形態であり、故に、支払い手段としての決済機能を有するからです。そこで、預金から決済機能をとり去ってしまえば、信用創造は起きないわけです。実は、今では完全に忘れ去られていますが、かつて、日本振興銀行という特殊な預金取扱金融機関が実在し、決済機能のある預金を取扱わずに、定期預金による資金調達と、それを原資にした融資だけを行っていました。
 この銀行は、統制を完全に欠いた経営のもとで、著しく乱脈な融資を行って、あっという間に破綻したのですが、預金を純粋な資金調達手段にして、定期預金だけを使うことで、極めて簡易な方法で、資本市場からの資金調達に成功した点において、今日でも、再評価に値する意義をもっているといえるでしょう。
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(文責:加藤)

次回更新は、5月21日(木)になります。
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森本紀行

森本紀行(もりもとのりゆき)

HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長

東京大学文学部哲学科卒業。ファンドマネジャーとして三井生命(現大樹生命)の年金資産運用業務を経験したのち、1990年1月ワイアット(現ウィリス・タワーズワトソン)に入社。日本初の事業として、企業年金基金等の機関投資家向け投資コンサルティング事業を立ち上げる。年金資産運用の自由化の中で、新しい投資のアイディアを次々に導入して、業容を拡大する。2002年11月、HCアセットマネジメントを設立、全世界の投資のタレントを発掘して運用委託するという、全く新しいタイプの資産運用事業を始める。