公共施設の照明のLED化という簡単なことについて、沼津市は敢えてPFI事業を採用したわけですが、その背後には様々な事情があったのだと考えられます。
沼津市は、3月18日に、「沼津市公共施設照明LED化事業 事業契約の締結について」という文書を公開しています。これは、沼津市の77ヵ所の公共施設の照明を LEDにする事業について、事業者を選定して、契約締結した旨を公表したものです。この事案は、少しも珍しくないようですが、注目すべきなのは、「民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律」のもとで、いわゆるPFI事業としてなされていることです。
この長い名称の法律は、略してPFI法と呼ばれていますが、PFIとは、プライベート・ファイナンス・イニシアティブ(Private Finance Initiative)の略であって、公共施設等の整備において、プライベート・ファイナンス、即ち、民間部門による資金調達を活用し、イニシアティブ、即ち、事業遂行全体における民間事業者の主導的役割を認めることです。要は、この法律の目的は、民間部門の創意工夫によって、公共施設等の提供するサービスの質の向上を図ると同時に、費用効率を改善することにあるわけです。
照明のLED化という単純なことについて、なぜ沼津市は敢えてPFI事業を採用したのでしょうか。
照明のLED化に何の新奇性もないのですが、背景の事情として作用したのは、2027年末までに一般照明用の蛍光灯の製造と輸出入が禁止されることだと想像されます。おそらくは、期限が迫るなかで、沼津市では照明のLED化が進んでおらず、故に、この時点で、一度にまとめてLED化が実行されることになったのだと考えられます。
しかし、77ヵ所もある公共施設について、一気に照明のLED化を行えば、極めて大きな金額の財政支出になります。実際、沼津市の公表している文書によれば、PFI事業の契約金額は、なんと44億7500万円なのですが、沼津市の財政事情において、これだけの金額を一度に支出することは困難なので、PFI事業が選択されたのだと思われます。
PFI事業にすると、財政支出が繰り延べられるのでしょうか。
このPFI事業では、民間事業者が自分で資金を調達して、LED化のための事前の調査から施工までを一貫して行います。設備の所有権は、工事中は民間事業者にあって、完工後に沼津市に移転されるのですが、民間事業者は、完工後も、設備の維持管理業務を請け負います。そして、契約期間は13年間となっているので、民間事業者は、契約終了時に、維持管理業務を沼津市に引き継ぐわけです。
沼津市は、資金調達から、設備の企画設計、施工、維持管理まで、全ての費用を民間事業者に先行的に負担させるのですから、当然に、後で民間事業者に費用の支払いを行うのですが、それは、契約期間に対応して、分割してなされます。いわば、民間事業者が先に立て替え払いを行い、沼津市が後で分割して弁済するのであって、こうすることで、沼津市は、財政支出の平準化、少し悪い表現を用いれば、将来への繰り延べができるわけです。
平準化に加えて、財政支出の削減効果もあるわけですね。
PFI事業であるためには、必ずVFMがなくてはなりません。政府の「VFM(Value for Money)に関するガイドライン」によれば、「公共が自ら実施する場合の事業期間全体を通じた公的財政負担の見込額の現在価値を「PSC」(Public Sector Comparator)といい、PFI事業として実施する場合の事業期間全体を通じた公的財政負担の見込額の現在価値を「PFI事業のLCC」(LCC:Life Cycle Cost)ということとする」と定義されていて、PSCからLCCを控除した金額がVFMとされています。ただし、通常は、VFMはVFMをPSCで除した比率として表現されます。
沼津市は、今年の1月21日に、「沼津市公共施設照明LED化事業に係る客観的な評価の結果について」を公表していますが、そこには、「本市の財政負担額の削減効果」として、「本事業を本市自らが実施する場合の財政負担額と、優先交渉権者の提案価格に基づきPFI事業により実施する場合の財政負担額を比較したところ、約11.7%削減されるものと見込まれます」と記載されています。この11.7%がVFMです。なお、この客観的評価の公表は法律上の要請に基づくものです。
選定された民間事業者は、沼津市の企業なのでしょうか。
選定事業者は、特定の企業ではなく、企業のグループです。沼津市は、同じ1月21日に、「沼津市公共施設照明LED化事業における優先交渉権者の決定について」を公表していますが、そこには、グループ代表企業として、鈴木電気商会の名前があり、グループ構成員について、「10者(市内電気事業者7者、県内電気事業者2者及びエネルギーコンサルタント事業者1者)」と記載されています。当然に、この優先交渉者が最終的に選定されたのですが、その名称は「エコライティングワークスぬまづ合同会社」となっていて、鈴木電気商会が代表社員になっています。
いわゆるローカルPFIですか。
政府は、2023年6月2日に、「PFI事業実施プロセスに関するガイドライン」を改正して、その「民間事業者の募集、評価・選定」の章に、「地域企業参画に対する評価等」という項目を追加していますが、そこには、「地域活性化の視点を踏まえ、透明性、公平性及び競争性の確保を前提として、落札時の評価において、地域内に拠点がある企業の参画の有無又は当該企業への一定金額以上の業務の発注や、地域経済への貢献について具体的に示していること等を取り入れるといった工夫も想定される」とあります。
ローカルPFIと呼ばれているものは、この地域企業の参画を促進するという視点を取り入れたPFI事業のことで、沼津市は、明らかに、ローカルPFIとなるように、事業者の選定を行ったのだと思われます。なお、ここでの高度な問題は、本来は、事業者は競争すべきなのに、逆に連合を組むのは不当ではないかという点ですが、この点を回避するために、政府のガイドラインには、「透明性、公平性及び競争性の確保を前提として」とあり、また、法律上、客観的な評価と、その評価結果の公表が義務付けられているわけです。
資金調達の面でも、地元の金融機関が関与しているのでしょうか。
沼津信用金庫は、まさしく沼津市の地元の金融機関ですが、6月30日に、「エコライティングワークスぬまづ合同会社とのグリーンローンの契約締結について~静岡県下初ローカルPFIへの融資実行~」と題する文書を公表しています。これによれば、沼津信用金庫は、このPFI事業者に対して、総額37億5800万円の融資を実行するとのことですから、やはり、資金調達でも、地元の金融機関が参画しているのです。
なお、この文書には、「本事業は環境負荷の低減やCO2の削減に寄与する環境配慮型の事業であるとともに、地元事業者の参画を促進する「ローカルPFI」の考え方を取り入れた官民連携事業であり、静岡県内では初の取り組みとなります」とあります。他県で同様の取り組みがあるのかは不明ですが、この事案は、照明のLED化という平凡なもののわりには、意外と斬新な側面をもっているのです。
行政の効率化という面もあるでしょうか。
政府は、法律上、PFI事業の実施について、基本方針を閣議決定することになっていますが、6月16日に、その変更の閣議決定を行い、諸ガイドラインの改正を行っています。この変更点の一つは、地域企業の参画による地域活性化を効果として明示したことですが、別の一つは、PFI事業の目的として、財政の効率と並んで、行政の効率化を加えたことです。
沼津市の事案では、77ヵ所の公共施設には多種多様なものが含まれていますが、それらは、多数の異なる部署によって、管理されているはずです。こうした行政の組織構造は、照明のLED化という組織横断的な事業の遂行には不向きであって、そこに非効率の生じることは避け得ないでしょう。この点、PFI事業にすることで、業務を民間事業者に一元化することができるわけです。
・公共ファイナンスの視座(2014.6.26掲載)
公共施設運営の効率性に着目し、民営化の課題とPFIの違いについて解説しています。
・公共施設の維持運営に民間の創意工夫が不可欠なわけ(2026.7.30掲載)
PFIがそもそも何か、基礎的な部分について解説していますので、こちらのコラムも合わせてご覧ください。
・財政逼迫と人口減少のなかで優良な公共施設だけを残すために(2026.8.6掲載)
公共施設等の整備を効率的になすためには、PFI事業が重要になると述べています。
(文責:林)
次回更新は、8月27日(木)になります。
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森本紀行(もりもとのりゆき)
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
東京大学文学部哲学科卒業。ファンドマネジャーとして三井生命(現大樹生命)の年金資産運用業務を経験したのち、1990年1月ワイアット(現ウィリス・タワーズワトソン)に入社。日本初の事業として、企業年金基金等の機関投資家向け投資コンサルティング事業を立ち上げる。年金資産運用の自由化の中で、新しい投資のアイディアを次々に導入して、業容を拡大する。2002年11月、HCアセットマネジメントを設立、全世界の投資のタレントを発掘して運用委託するという、全く新しいタイプの資産運用事業を始める。
