財政逼迫と人口減少のなかで優良な公共施設だけを残すために

財政逼迫と人口減少のなかで優良な公共施設だけを残すために

森本紀行
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<毎週木曜日 11:30更新>

公共部門の財政逼迫と人口減少のもとで、公共施設等の整備は、厳しく必要性と効果が精査され、効率的になされるべきであって、故に、PFI事業が極めて重要になるのです。
 
 「民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律」は、名称が長いこともあって、普通は、PFI法と略称されています。PFIとは、プライベート・ファイナンス・イニシアティブPrivate Finance Initiative)のことで、プライベート・ファイナンスは民間部門による資金調達を意味し、イニシアティブは、施設等の企画設計の段階から、完成後の運営等に至るまで、民間事業者に対して、その創意工夫に基づく主導性を認める主旨です。
 つまり、例えば、従来型公共事業による公共施設の建設では、公共部門は、企画設計から、資金調達、建設、完成後の施設の運営と維持管理に至るまで、全ての段階において、自ら執行するのに対して、PFI法に基づく事業では、民間事業者が資金調達を含む事業の遂行全体を主導して、施設を完成させた後に、どこかの時点で所有権を公共部門に移転して、その後の維持管理と運営を担うわけです。
 
法律の目的は、いわゆるハコモノ行政からの脱却なのでしょうか。
 
 ハコモノ行政という言葉は、従来型公共事業において、様々な公共施設、即ち、ハコモノが積極的に建設されるなかで、建設自体が自己目的に転落しやすい現象を批判的に表現したもので、わかり易い喩えを使えば、ハコに容れるものを考えずに、ハコを建設する愚をいうのです。この批判は、仮に財政支出自体に一定の経済効果があることを認めるにしても、利用者の利便性に反した施設が無駄に作られる可能性、建設費用が過大となる懸念、将来的な維持管理費用の増加等という点では、的外れとはいえません。
 これに対して、PFI法は、目的を定めた第一条において、「効率的かつ効果的に社会資本を整備するとともに、国民に対する低廉かつ良好なサービスの提供を確保し、もって国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする」と述べているのですから、ハコモノ行政批判を意識していることに間違いありません。なぜなら、効果的な社会資本の整備と、良好なサービス提供は、利用者の視点での公共施設の建設を意味し、効率的な社会資本の整備と、低廉なサービスの提供は、財政負担の削減を意味しているからです。
 
いつPFI法ができたのでしょうか。
 
 実は、PFI法は意外に古く、1999年7月に成立し、同年9月に施行されています。しかし、制度の手直しなどを経て、その本来の存在意義が認知されてきたのは最近のことで、当初は、従来型公共事業の延長にすぎないものとして、ハコモノお掃除PFIなどと悪口をいわれていました。お掃除というのは、施設の運営等において、清掃業務等の簡易な業務についてのみ、民間事業者が関与しているにすぎない実態を意味しています。
 つまり、ハコモノお掃除PFIにおいては、旧態依然たるハコモノ行政のなかで、公共施設の建設自体が目的化されていて、単に資金調達の都合から、民間事業者に最小限の関与を認めることで、形式の問題として、PFI事業に構成していた側面があったわけです。
 
財政負担の平準化が目的だったわけですか。
 
 PFI事業として公共施設を建設するとき、その所有権は、建設中は民間事業者にあるものの、完成後には、必ず公共部門に移転されます。移転時期は様々ですが、主流となっているBTO方式では、完成直後に所有権の移転が起きます。BTOは、Build、Transfer、Operateのことで、建設、所有権の移転、運営を意味しますが、移転が運営よりも先にあるので、施設の運営開始に先立って、所有権の移転が起きるわけです。つまり、公共部門は、財政支出を行うことなく、公共施設の所有権を取得できるのです。
 当然のことながら、公共部門は、施設の企画設計、建設、維持管理、運営などに要する費用を民間事業者に負担させるわけですから、それを補償する義務を負います。いわば、民間事業者が先に立て替え払いを行い、公共部門が後で弁済するわけです。この弁済は、事業期間に対応して、分割してなされていて、毎期の支払いは、サービス購入費、あるいは、サービス対価と呼ばれています。
 つまり、公共部門の財政負担は、従来型公共事業では、事業の初期に集中するのに対して、PFI法上の事業では、事業期間全体にわたって平準化するのです。もっとも、平準化といえば、聞こえはいいのですが、悪くいえば、将来への繰り延べでもあります。いずれにしても、ハコモノお掃除といわれたPFI事業においては、この財政負担の平準化、もしくは繰り延べに主眼があったのだと考えられます。
 
しかし、ハコモノお掃除PFIといえども、PFI事業ならば、財政負担の削減効果はあるわけですね。
 
 二つの事業を比較したとき、同一の費用に対して、より価値の高いサービスを提供する事業にVFMValue for Money)があるといいます。あるいは、同一の価値をもつサービスについて、より費用の低い事業にVFMがあるわけです。そして、どのような事業でも、それがPFI事業としてなされる限りは、従来型公共事業としてなされる場合に比較して、必ず、VFMがなくてはならないのです。
 しかし、決定的に重要なのは、こうした相対比較における優位性ではなくて、事業を行うこと自体の絶対的な必要性です。そもそも、利用者の視点で評価したとき、建設する必要性の乏しい公共施設について、PFI事業として建設することで、財政負担削減の効果を得たとしても、事業自体が無駄であることに変わりありません。PFIの本質は、民間事業者の創意工夫のもとで、利用者が真に必要とするサービスについて、より低廉な費用で提供することにあるのです。
 
現在では、PFI事業は、本来の主旨に従って、活用されているのでしょうか。
 
 近年、PFI事業は、量的には着実に拡大してきていて、それに伴い、本来の主旨にそって、質的にも改善が進んでいますから、もはや、ハコモノお掃除PFIは、過去の遺物になっているわけです。そうしたなかで、政府は、この6月16日に、基本方針の変更を閣議決定したのです。基本方針とは、PFI法の第四条の規定に基づいて、政府によって策定され、閣議決定されるものです。この基本方針の前文は優れたもので、これを読めば、簡単かつ明瞭に、PFI事業の本質と意義を理解できます。
 例えば、「国及び地方の財政は非常に厳しい状況にあり、財政の効率性を高めていくために、徹底した無駄の削減と予算の使い途の大胆な見直しが求められている。公共施設等の整備等についても、人口減少による人手不足やインフラの老朽化が進行する中で、経済成長に結びつく投資効果の高い公共施設等や、国民の生活や都市や地域の活力を維持し、環境や防災等の課題に的確に対応した公共施設等など、その必要性を厳しく精査した上で進める必要がある」という箇所は、PFI事業の必要性を端的に語っています。
 
地域経済の振興も、PFI事業の重要な目的なのでしょうか。
 
 新しい基本方針は、PFI事業の効果について、「官民による効果的な対話を通じて、先進的技術・知見を有する民間事業者のノウハウを活用したイノベーションの創出や地域活性化、さらに、そのノウハウを協働する地元企業に伝承することを通じた地元企業の育成という効果が創出されることも想定される。これらの結果、地域に新規産業を創出し、「強い経済」を実現することが期待される」としています。
 実は、PFI事業は、一般に、特定の企業ではなく、異なる専門性をもった複数の企業の連合体によって、担われています。つまり、複数の企業が集って、PFI事業のためのSPC(Special Purpose Company)、即ち、特別目的会社を作ることが多いのです。これは、PFI事業が公共施設の企画設計から、建設、維持管理、運営まで、広い範囲に及ぶことからすれば、当然でもあります。
 そして、地方公共団体の行うPFI事業の場合には、地元の企業群によってSPCが構成されますから、そこに地域経済の振興という側面が出てくるのです。ただし、基本方針がいうように、「地域に新規産業を創出」できるためには、PFI事業の企画に極めて斬新な要素がなければならないでしょう。
  ≪ 関連する論考をご紹介いたします ≫
公共施設の維持運営に民間の創意工夫が不可欠なわけ(2026.7.30掲載)
PFIがそもそも何か、基礎的な部分について解説していますので、こちらのコラムも合わせてご覧ください。

過剰な建造物を捨去って生活圏をコンパクトで効率的にすること(2025.10.2掲載)
人口減少などで不要になった建造物が増えてゆく中、コンパクトシティを導入することで効率的かつ付加価値の高い建造物に集約することができると指摘しています。

地域金融機関の地域への貢献とは何か(2020.7.30掲載)
地域振興においてはその地域を深く理解している地域金融機関が欠かせず、現に地域金融力強化プランなどの施策が打ち出されています。
(文責:岸野)

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森本紀行

森本紀行(もりもとのりゆき)

HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長

東京大学文学部哲学科卒業。ファンドマネジャーとして三井生命(現大樹生命)の年金資産運用業務を経験したのち、1990年1月ワイアット(現ウィリス・タワーズワトソン)に入社。日本初の事業として、企業年金基金等の機関投資家向け投資コンサルティング事業を立ち上げる。年金資産運用の自由化の中で、新しい投資のアイディアを次々に導入して、業容を拡大する。2002年11月、HCアセットマネジメントを設立、全世界の投資のタレントを発掘して運用委託するという、全く新しいタイプの資産運用事業を始める。