しんぱちを超高値で買収したすかいらーくの味覚は確かか

しんぱちを超高値で買収したすかいらーくの味覚は確かか

森本紀行
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<毎週木曜日 11:30更新>

資さんはEBITDAの17倍、しんぱちは30倍、すかいらーくは、高値をいとわない買収戦略のもとで、いずれ、業界全体のカニバリゼーションを引き起こすのではないか。
 
 外食産業大手のすかいらーくホールディングスは、3月24日に、「株式会社しんぱちの株式の取得(子会社化)に関するお知らせ」を公表しています。これによれば、しんぱちは、「炭火焼の干物を中心とした伝統的な日常食を高品質かつリーズナブルに提供する「しんぱち食堂」などを運営する企業で、全国で108店舗(直営・FC、2026年2月末現在)を展開しております」とのことです。
 買収理由の第一は、店舗立地の多様化です。すかいらーくは、現状、店舗の「約7割がロードサイドに位置」しているなかで、今後の戦略として、「将来の人口動態を見据え「都心・駅前・市街地」への出店強化」を図ってきたのです。この点、「しんぱちは、都心部の狭小立地において極めて高い坪効率と収益性を両立する独自のビジネスモデルを確立」しているので、「本件取引により、当社が推進する都市型出店戦略を飛躍的に加速させ、立地リスクの分散と収益構造の最適化」を図ることができるというわけです。
 第二の理由は、業態の多様化です。すかいらーくは、現状、「中価格帯のテーブルサービスレストランを中心に強固な事業基盤」をもっていますが、今後の戦略として、事業基盤の多様化のために、「日常利用動機である低価格帯領域の拡充」を図るというわけです。しんぱちは、この分野において、「圧倒的な顧客支持」をもつとのことです。
 
しんぱちは、干物で有名のようですね。
 
 すかいらーくによれば、「しんぱちの主力商品である干物は、他社の追随を許さない高いクオリティと競争力を備えており、その源泉となる開発ノウハウおよび調理技術の獲得は、グループの商品力底上げに直結します」とのことです。この「しんぱちの唯一無二で最高品質の干物」を手に入れることに、買収の第三の理由があるわけです。
 要は、買収理由を総括すると、しんぱちは、「「都市型立地の開発力」「店舗デザイン力(空間設計)」「高度に最適化されたDXソリューション」といった独自の強み」をもっていて、すかいらーく全体で、それを「共有・活用することで、既存事業との多面的なシナジー創出を目指します」となるようです。
 
すかいらーくは、しんぱちを絶賛しているようですが、それほどに優れた企業なら、業績は絶好調なのでしょうか。
 
 すかいらーくが開示した資料によれば、確かに、しんぱちの売上高は、2023年10月期3,522百万円、2024年10月期4,871百万円、2025年10月期6,452百万円と、急成長しています。しかし、利益面では、成長のための投資が先行するので、当然かもしれませんが、2025年10月期こそ、130百万円の利益を計上していますが、それ以前は赤字基調のようです。なお、EBITDAは、直近の三期、235百万円、256百万円、366百万円と推移しています。
 
すかいらーくは、いくらの取得価額で、しんぱちを買収したのでしょうか。
 
 開示されている取得価額は、なんと、11,039百万円であって、直近のEBITDA366百万円の30倍です。直近の純資産1,426百万円と比較しても、その7.7倍であって、いかに成長性を高く評価したところで、著しく割高であることは明らかです。おそらくは、すかいらーくの開示資料の論調として、過剰なほどに、しんぱちの事業内容を絶賛しているのは、この極端に高価な取得価額を正当化するためだと思われます。
 また、すかいらーくは、しんぱちの事業特性について、既存事業のものとは異なっているが故に、優れた補完関係のあることを強調し、更には、「既存事業との多面的なシナジー創出」を掲げているわけですが、これは、すかいらーくにとっては、しんぱちは唯一無二の絶対的価値をもつものなので、高価な取得価額は正当化されるとの主張だと想像されます。
 
資さんを買収したときよりも、更に割高な取得価額ですね。
 
 2024年9月6日に、すかいらーくは、「株式会社資さんの株式の取得(子会社化)に関するお知らせ」を公表しています。資さんは、うどん店の運営会社で、主に北九州方面で展開していて、そこでは非常に高い知名度をもっているのです。
 買収理由は、「当社では地方ロードサイドの自社カニバリ解消のため、業態転換候補としての新ブランド開発を実施しておりますが、幅広いお客様に支持される高い集客力のあるブランドを必要としております」とされていました。カニバリは、カニバリゼーション、即ち、共食いのことで、自社カニバリとは、新店を出しても、自社の既存店の顧客を奪うだけで、顧客が純増加しない現象を意味します。いうまでもなく、今回のしんぱちの買収は、資さんの買収の自然な延長線上にあるわけです。
 資さんの取得価額は、直近のEBITDA1,406百万円、純資産2,495百万円に対して、24,000百万円でしたから、EBITDAの17倍、純資産の9.6倍というように、割高でした。しかし、すかいらーくにとっては、資さんは、「幅広いお客様に支持される高い集客力のあるブランド」であること、自社カニバリを起こさないこと、一定の事業規模に到達していることなど、唯一無二の高い絶対価値をもつものとして、割高な取得価額に見合うとされていたわけです。
 
資さんの買収は成功しているのでしょうか。
 
 すかいらーくにとって、資さんは、「地方ロードサイドの自社カニバリ解消」を目的としたときに、「業態転換候補としての新ブランド」として、しかも、「幅広いお客様に支持される高い集客力のあるブランド」として、位置づけられていました。そして、実際に、既存店を速やかに資さんに業態転換してきた効果は、すかいらーくの直近業績に既に反映しています。そもそも、こうした資さん買収の成功がなければ、しんぱちの買収はあり得なかったはずです。
 
しんぱちの買収も成功するのでしょうか。
 
 資さんについては、買収後の戦略が非常に明確で、故に、短期間で買収の効果を発揮できたのです。しかし、しんぱちについては、低価格帯の強化という方向では、資さんとの連続性があるものの、都市型出店戦略の急速な展開という方向では、新しい取り組みになるのであって、資さんの成功が簡単に再来するとは限らないのではないでしょうか。
 むしろ、懸念されるのは、すかいらーくは、「先般の「資さん」買収に続き、圧倒的な顧客支持を持つしんぱちをグループに迎えることで、低価格帯ポートフォリオをさらに強靭化し、あらゆる消費シーンをカバーする多角的なブランド展開を実現します」としていることです。
 第一に、「あらゆる消費シーンをカバー」しようとすれば、かえって、固有の領域における差別優位が失われるのではないか。第二に、上場企業としては、戦略の実現に時間をかけられないので、今後も、EBITDAの30倍というような著しく割高な買収を続けることに追い込まれていくのではないか。第三に、同様の戦略は、吉野家ホールディングスがラーメン事業を重点戦略分野に掲げているように、同業の大手上場企業にも広がっていくとしたら、自社のカニバリゼーションが解消しても、業界全体でカニバリゼーションが起きるのではないか。さて、こうした疑問に、すかいらーくは、どう答えるのでしょうか。
 
上場株式投資よりも、プライベートエクイティ投資のほうに妙味がありそうですね。
 
 資さんは、ユニゾン・キャピタル、しんぱちは、J-STARの運用するプライベートエクイティの投資ファンドによって、所有されていました。故に、すかいらーくは、両社を速やかに買収できたのです。
 上場企業は、外食産業に限らず、どの業種においても、上場していることの宿命として、常に新たな成長戦略を掲げて、それを短期間で実現しなければならないので、割高な買収に追い込まれがちになります。こうした状況において、投資家の立場からいえば、割高に買う上場企業よりも、割高に売るプライベートエクイティの投資ファンドのほうに、大きな魅力を感じるのは当然ではないでしょうか。
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(文責:翁)

次回更新は、6月4日(木)になります。
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森本紀行

森本紀行(もりもとのりゆき)

HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長

東京大学文学部哲学科卒業。ファンドマネジャーとして三井生命(現大樹生命)の年金資産運用業務を経験したのち、1990年1月ワイアット(現ウィリス・タワーズワトソン)に入社。日本初の事業として、企業年金基金等の機関投資家向け投資コンサルティング事業を立ち上げる。年金資産運用の自由化の中で、新しい投資のアイディアを次々に導入して、業容を拡大する。2002年11月、HCアセットマネジメントを設立、全世界の投資のタレントを発掘して運用委託するという、全く新しいタイプの資産運用事業を始める。