総合商社が強いのは商流設計力のある投資会社だから

総合商社が強いのは商流設計力のある投資会社だから

森本紀行
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<毎週木曜日 11:30更新>

商社の機能、投資会社の機能、この二つを統合した総合商社の機能は、商流上の事業者間にあって、情報を媒介して、創意工夫を促し、革新を生んで、商流を活性化させることです。
 
 商品は、原材料の生産から、最終組み立てに至るまで、分業によって段階的に製造され、流通経路にのせられて、顧客のもとに届けられていますが、この一続きの過程を商流というわけです。商流は、多数の企業によって構成されていて、商流上に隣同士に並んだ企業間の取引によって、順次に結合されています。さて、企業とは、現金を創造する装置なのですが、商流上の各企業は、商流の一段階において、その段階に固有の付加価値を創出することで、現金を創造しているわけです。
 
総合商社とは、商流の支配力をもつ企業のことですか。
 
 仮に、持株会社を創出して、商流上の全ての企業を完全子会社にすれば、商流が創造する付加価値の全体について、現金を創造する企業になります。この企業は、一方では、独立した企業に投資する投資会社であり、他方では、一つの商流を支配する事業会社です。総合商社という日本固有の業態は、その一つの側面において、商流支配力、もしくは商流設計力をもった投資会社だといえるでしょう。
 商流設計力というのは、商流全体を見渡したうえで、強化すべきところを強化し、合理化すべきところを合理化する能力であって、この能力のもとで、商流全体の現金創造を安定させ、更には、創造される現金を増加させることが可能になります。これに対して、商流の一段階を形成するだけの企業には、商流設計力がないのであって、故に、総合商社に固有の存在意義があるのだと考えられます。
 
総合商社は、なぜ日本に固有の業態として成立したのでしょうか。
 
 どのような歴史的事情のもとで総合商社が生まれたにせよ、日本資本主義の勃興期に財閥が形成され、その財閥に総合商社の源流のあることは偶然ではないと思われます。つまり、日本経済の起点において、政府主導のもとで、より具体的には国策を体現した財閥のもとで、経済全体の産業連関の設計がなされ、資源が計画的に配置され、いわば日本経済という一つの大きな商流が設計されたなかに、総合商社の形成につながっていく事業展開の方法が確立されたと考えてよいのでしょう。
 そして、戦後の経済復興において、財閥が解体されたなかでも、改めて資源の計画的配置による成長戦略が必須の要件となったとき、即ち、日本の商流の再構築が求められたとき、総合商社的な商流設計力は、解体されるべきものではなく、むしろ再興されるべきものだったのであって、故に、今日に至るも、総合商社が存続しているのでしょう。
 
商流内の企業を合併して、一つの企業にしたほうが効率的ではないでしょうか。
 
 商流を一つの企業に統合すると、内部に非効率が発生する、あるいは非効率を温存させるかもしれません。つまり、商流が全体として現金を創造していても、全ての段階で現金が創造されているとは限らないわけで、商流を一つの企業にすると、現金を創造していない段階について、改革されずに、放置されるかもしれないのです。しかし、他方で、商流を細分化して分析すれば、現金を創造しない箇所が発見されるのは当然であるといえます。
 そこで、投資会社としての機能が重要な意味をもつのです。投資会社の本質的な機能は、投資先企業の価値を高めるように、より具体的にいえば、現金創造能力を高めるように、その経営に関与して、様々な支援を行うことですから、その過程において、商流全体を合理的に分割して、商流上の各投資先企業について、固有の事業戦略を策定できるはずなのです。故に、投資会社として商流の結合を行うときは、商流上の各企業の現金創造を最大化させることで、同時に商流全体の現金創造を最大化できるわけです。
 
支援は容易に支配に転落しないでしょうか。
 
 総合商社に限らず、商社一般の重要な機能は、売り手と買い手の間を媒介して、両者間に情報の対称性をもたらし、対等で公正な取引を実現することだと思われます。逆にいえば、取引当事者の一方が他方に対して支配力を行使できないように、商社の介在が求められ、そこに商社の社会的存在意義が発生するのだと考えられるのです。商流とは、商流上の各企業が対等の関係で結合されたもので、その結合を実現するものこそ、商社機能なのであって、ここに商流上の結合関係と下請関係との本質的な差異があるのです。
 下請制では、中小受託事業者は、委託事業者の圧倒的な力の優越のもとに従属していますから、固有の営業力と商品開発力をもたず、経営努力によって生産性を向上させても、下請代金の値下げによって、委託事業者に吸い上げられてしまうだけになります。故に、下請関係は常に硬直していて、そこからは革新は生じ得ないのです。これに対して、商流上の取引関係は、情報の対称性のもとで、当事者相互の創意工夫が促されるように機能して、革新を生み、商流を常に活性化させるわけです。
 商社機能は、商流を活性化させる設計力、あるいは情報を対称化させることによる支援力に本質があって、総合商社の場合には、そこに投資会社としての機能を付加することで、更に支援力を強化しているのだと考えられます。こうした支援力が支配力に転じてしまえば、逆に商流を弱体化させてしまいますが、支援は常に支配に転落する可能性を秘めていますから、それを回避することに商社経営の要諦があるのでしょう。
 
商流の設計という発想は、下請制の改革に応用できるでしょうか。
 
 下請制の改革は、取引の公正化を実現するものとして、また革新を誘発するものとして、経済政策上の重要な意味をもち得ると考えられますが、強固に確立しているものを破壊して再構築することには、多くの困難を伴います。そこで、着目すべきは、商流の設計において投資会社の果たす機能です。なぜなら、非公開企業である中小受託事業者には、必ず事業承継という課題が生じて、投資の機会を生み出すからです。
 投資会社として、あるいは非公開企業を投資対象とした資産運用業の枠組みにおいて、こうした企業を買収すれば、企業価値、即ち現金創造能力を高めるように、経営支援するわけですが、それは必然的に投資先企業を下請制から脱却させて、別の商流のなかに再配置することになります。逆にいえば、こうした改革をなし得る可能性をもった中小受託事業者だけが投資先の候補になるということです。
 
商流の設計という発想は、地域経済の再生に応用できるでしょうか。
 
 地域経済とは、要は、地域内に循環する商流のことですが、地域の商流は、日本全体の商流に組み込まれて、その支配下に入ることで、自律性を喪失したのだと考えられます。故に、地域経済の再生とは、地域の商流の復興になるのであって、例えば、その代表的な取り組みとして、規制改革によって設立が可能となった地方銀行の地域商社があるわけです。これは、商社といわれるように、地方銀行の商流設計力によって、地域の商流を創出する試みです。
 しかし、今更、地域の住人の消費行動を変えて、新たな商流を作ることなど、できるはずもなく、なし得ることといえば、現に地域に残されている商流の強化だけです。そして、現に残されている商流は、地域から動かすことができないからこそ、残されているのであって、要は、生活基盤、片仮名でいえばインフラに関連した商流なのです。
 
インフラの多くは公共部門に属していて、民間の商流に含まれないのではありませんか。
 
 地方自治体にとって、上下水道や道路等のインフラの利用効率を高めて、維持可能にすることは極めて重要な課題ですが、その解決には民間事業者との協働が必須の要件になります。そして、絶対に避け得ない帰結は、利用されるインフラしか残し得ないことです。例えば、バスの走る道路しか残り得ないとしたら、バスが高齢者を病院や商店に運び、学生を学校に運び、観光客を目的地に運ぶのだとしたら、その人流こそ、商流の基礎を形成するわけです。
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(文責:翁)

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森本紀行

森本紀行(もりもとのりゆき)

HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長

東京大学文学部哲学科卒業。ファンドマネジャーとして三井生命(現大樹生命)の年金資産運用業務を経験したのち、1990年1月ワイアット(現ウィリス・タワーズワトソン)に入社。日本初の事業として、企業年金基金等の機関投資家向け投資コンサルティング事業を立ち上げる。年金資産運用の自由化の中で、新しい投資のアイディアを次々に導入して、業容を拡大する。2002年11月、HCアセットマネジメントを設立、全世界の投資のタレントを発掘して運用委託するという、全く新しいタイプの資産運用事業を始める。