成長とはベストオーナーのもとに事業が集積されていくことだ

成長とはベストオーナーのもとに事業が集積されていくことだ

森本紀行
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複数の事業を所有する企業では、その再編が常に経営課題になりますが、事業再編は、所有する企業の立場からではなく、事業自身の視点でなされるべきではないか。
 
 経営者の高齢化にともなって、事業承継が大きな問題になっていますが、事業に価値があれば、必ず承継する者がいて、事業に価値がなければ、誰も承継しないので、承継自体が問題になる余地はなく、事業承継の問題とは、承継されるべき事業の問題ではなく、事業を所有する経営者と同族の問題なのです。
 事業は、一定の成長段階に達した後は、創業者の私物を脱却して、社会の公器としての企業のもとで、経営されなくてはなりません。逆にいえば、企業は、事業の所有を創業者から明確に分離し、事業を社会的存在にするための器であるからこそ、公器と呼ばれるのです。仮に、事業に価値があり、それが公器としての企業によって経営されていれば、事業承継という問題は存在し得ず、単に、企業の承継があるだけです。事業は、企業として経営されているからこそ、承継可能なのです。
 
企業が公器になるとき、創業者は投資家になるわけですね。
 
 創業経営者は、経営を公器としての企業に委ねるとき、その企業の大株主として、投資家になりますが、経営者の立場ではなく、投資家の立場において、自分の事業に価値を見出すとき、その事業は、第三者の外部の投資家にも、価値のあるものになり、また、事業に精通する大株主として、所有する株式の価値を高めようとするとき、株主と経営者の真の対話が成立するわけです。
 実は、事業の所有に執着する経営者は、事業を支配しているのではなく、事業に支配されているのです。これは、人は、住宅を所有することで、住宅に支配され、そこに住み続けようとして、人生の可能性を狭くするのと同じです。事業に支配されている経営者は、投資家に転じることで、新たに開かれる人生の可能性を手に入れるわけです。
 
大企業も、複数の事業会社を所有することで、投資家になっていませんか。
 
 企業経営の規模が大きくなるにつれて、傘下の事業は複数化します。これは、一方で、事業の本質として、事業が成長するのに伴って、内部が多様化して、派生事業を創出するからであり、他方で、企業経営の本質として、一つの事業で培われた技術と経験を他分野で応用しようとするからです。
 事業が複数化するとき、別会社化されるのが普通ですから、企業の機能は、事業を営む機能と、企業を所有する機能とに分解します。そして、この二つの機能を明確に分離し、企業所有の機能を純化させたものが純粋持株会社です。現在では、大企業の多くは純粋持株会社形態をとっていますが、そうでなくとも、中核事業会社を事業持株会社として、その傘下に多角化部門を子会社として所有するのが普通になっています。
 さて、企業経営において、子会社を所有する持株会社の機能に着目したとき、そこに投資家としての側面があるのは明らかです。一般の投資家は複数の企業に分散して投資しますが、その投資先銘柄の集合はポートフォリオと呼ばれるので、企業経営においても、複数事業を傘下にもつことは、投資に譬えて、事業ポートフォリオ戦略といわれます。
 
事業ポートフォリオ戦略が投資的なものなら、当然に、事業の売却や譲受があるわけですね。
 
 事業ポートフォリオは、それが戦略的に管理される限りは、常に変更されるべきものであって、企業経営においては、何かの事業を他社に売却し、何かの事業を他社から買収する検討は、常時、なされています。そして、企業経営の本質は決定と実行にあるのですから、売却するべき事業は必ず売却され、買収すべき事業は必ず買収されなくてはならないのです。
 
意思決定の基準は何でしょうか。
 
 利益率を基準として意思決定することは、経営の基本であり、管理指標として、どのように利益率を定義するかは、経営の技術です。そして、経営の技術は進化し続けているわけであって、現在では、静態的な現在の利益率ではなく、動態的な将来の利益率が重視されています。そもそも、利益率を高めるのが経営の努力なのですから、将来の可能性が重視されるのは当然です。
 
利益率が低く留まる事業については、経営努力の限界を超えているという判断で、他社に売却されるのでしょうか。
 
 日本企業の経営には、様々な視点で批判が加えられてきましたが、利益率の低い事業が温存されているとの指摘は、その代表例です。しかし、ここでは、当該事業の利益率が低く留まることについて、真の批判が向けられているのは、企業としての改善努力の不足ではなく、そもそも、当該事業を経営する適格性の欠如なのです。
 
いわゆるベストオーナー論ですか。
 
 企業経営論において、より具体的に事業ポートフォリオ戦略において、ベストオーナーという概念は新しいものですが、画期的なものです。なぜなら、ベストオーナー論では、事業を主体にして、事業の立場から、所有者の適格性が評価されるので、所有者の立場から、利益率を基準に事業評価してきた従来の視点と比較するとき、そこにコペルニクス的な転換があるからです。
 
事業はベストオーナーを求めて流動化するわけですか。
 
 ベストオーナー論の要諦は、事業の成長余力は所有者が規定するという点です。つまり、事業の成長性は、事業の所有者がもつ人材、技術、経験、製造能力、顧客基盤、資金力、販売力などに規定されますから、企業は、事業の成長に関して社会的責任を果たそうとすれば、常に、自分の所有者としての適格性を反省し、その結果として、自分がベストオーナーではないと判断するときは、事業をベストオーナーである他社のもとに送り出すべきなのです。
 
ベストオーナー論では、従来の発想とは異なって、利益率の高い事業の売却もあり得るのですか。
 
 誰がベストオーナーであるかは、事業の視点に立って、将来の成長性と、その成長性のもとにおける動態的な利益率を考えたときに決まるのであって、現時点における静態的な利益率によって、企業の立場から決まるわけではないので、利益率の高い事業といえども、ベストオーナーのもとへ売却されるべき状況があり得ます。
 
要は、宝のもち腐れが問題なのですね。
 
 何かについて、宝のもち腐れという表現が意味をもつためには、その何かは、社会的には宝である、もしくは磨けば宝になるものでありながら、現所有者にとっては宝ではない、もしくは現所有者が宝の価値を毀損していることが前提になっています。
 このとき、それを現所有者がベストオーナーに売却すれば、当然に社会的価値に基づいて高く売れるのですから、売り手の利益であり、同時に、宝を手に入れた買い手の利益でもあるわけです。こうして、何であれ、ベストオーナーの手に帰することは、資源の最適配置の実現であり、社会の効率化であって、社会的価値を最大化することなのです。
 
事業は、どのようにしてベストオーナーを探すのでしょうか。
 
 事業がベストオーナーを見出すためには、その事業領域において、ベストオーナーとしての社会的地位と名声を確立している企業が存在していて、誰がベストオーナーであるかが社会的に明瞭になっていなければなりません。逆に、企業の成長とは、自分が得意とする分野において、ベストオーナーとして社会的に認知されることで、同業他社の事業を集積して、圧倒的な地位を確立することです。こうして、全ての企業が各自の領域においてベストオーナーになれば、全ての事業において、資源の最適配置が実現するわけです。
 
ベストオーナーは、顧客にとっても、ベストの存在でしょうか。
 
 事業の成長とは、顧客の最善の利益に適うことの自然な結果であるべきです。ベストオーナー論は、事業の成長性の視点から、事業の最適な所有者を考えることですから、その本質において、顧客本位に通じます。逆に、顧客の最善の利益を追求しないものは、どの事業においても、決してベストオーナーにはなり得ないわけです。
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(文責:加藤)

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森本紀行

森本紀行(もりもとのりゆき)

HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長

東京大学文学部哲学科卒業。ファンドマネジャーとして三井生命(現大樹生命)の年金資産運用業務を経験したのち、1990年1月ワイアット(現ウィリス・タワーズワトソン)に入社。日本初の事業として、企業年金基金等の機関投資家向け投資コンサルティング事業を立ち上げる。年金資産運用の自由化の中で、新しい投資のアイディアを次々に導入して、業容を拡大する。2002年11月、HCアセットマネジメントを設立、全世界の投資のタレントを発掘して運用委託するという、全く新しいタイプの資産運用事業を始める。