クレディセゾンはセゾン投信を破壊して顧客を裏切るのか

クレディセゾンはセゾン投信を破壊して顧客を裏切るのか

森本紀行
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クレディセゾンは、積立王子こと、セゾン投信代表取締役会長の中野氏を解任します。この、顧客の全幅の信頼を集め、業界に新風を吹き込んだ著名な革命児を解任することは、顧客無視の許されざる暴挙です。
 
 セゾン投信は、5月31日の取締役会において、6月28日の株主総会に諮る議案を決議しましたが、その取締役候補案には、現在の代表取締役会長である中野晴啓氏の名前はありませんでした。この件について、中野氏は、自身の見解として、不本意である旨を公表しています。つまり、中野氏は、親会社であるクレディセゾンによって、解任されるわけです。
 
著名な中野氏ではありますが、念のため、人物像と業績を確認しておきましょうか。
 
 中野氏は、1987年にクレディセゾンに入社し、資産運用の業務に従事するなかで、全く新しい個人向け投資信託事業を構想します。そして、2006年6月、クレディセゾンは、その構想を採用し、100%完全子会社として、セゾン投信を設立し、営業開始にあたり、2007年4月に、中野氏を代表取締役社長に就任させます。要は、中野氏は、セゾン投信の創業者なのです。
 その後、中野氏は、事業開発に自身の全ての精力と情熱を注ぎこみ、驚嘆すべき精励刻苦のもとで、セゾン投信を成長させ、2020年には、運用資産総額3000億円突破を達成します。こうして、斬新な事業構想を掲げたセゾン投信は、起業段階を脱し、業界内における独自の地位を確立するに至ったわけです。
 そこで、中野氏は、セゾン投信の次の段階の経営課題に取り組むべく、2020年6月に、現職の代表取締役会長に就任します。直近のセゾン投信の概況は、運用資産総額が約6000億円、顧客数は約15万人ですが、何よりも特徴的なのは、運用する投資信託が僅かに3本しかないことです。
 
投資信託が3本しかないことは、セゾン投信の独自の事業戦略と関係があるのですか。
 
 中野氏の構想の斬新さは、若い勤労層に対して、投資信託を使った長期積立による資産形成を提案したことです。その理論的背景は、同じ投資信託に、若いときから長期間にわたって、継続的に少額を積立投資していくと、市場の上下変動に対しては、時間分散の効果が働き、更に長い時間の複利効果が働いて、効率的に資産形成できるというものです。
 こうして、セゾン投信においては、顧客が同じ投資信託に投資し続けるのですから、投資信託の数が少ないのです。また、販売会社への無駄な販売手数料を省くために、投資家に直接販売を行い、更には、弛まぬ経営努力によって、信託報酬を低廉にとどめるなど、顧客本位の徹底、即ち、真の顧客の利益の追求がなされているわけです。
 
業界の現状からすれば、画期的な事業戦略ですね。
 
 投資信託業界の悪弊は、セゾン投信の創業時も、今も、変わりありません。即ち、既に形成された資産をもつ高齢者等に対して、その時々の投資環境に応じて、販売会社にとって売りやすい投資信託が作られ、大きな金額を単位として販売されているのです。その結果、常に、新しい投資信託が作られ、それらが短期間で解約されていき、金額の小さくなった大量の投資信託が残存する事態となっています。
 つまり、現状の業界の主流においては、投資信託は、国民の安定的な資産形成手段として機能していないばかりか、販売会社が手数料を稼ぐための道具に堕している側面すら否定し得ないのです。これに対して、2006年という早い時期に、投資信託のあるべき姿を構想し、それを業界の一翼に存在感あるものとして定着させた中野氏の功績は極めて大きなものです。
 
中野氏の構想は、現在の金融行政の先取りであったわけですか。
 
 金融庁は、国民の安定的な資産形成を最重点施策に掲げて、投資信託を含む投資運用業の全体を抜本的に改革しようとしていて、そのなかでは、顧客本位の徹底が最重要視されています。セゾン投信は、金融行政に追随してきたのではなく、顧客の資産形成支援と顧客本位の優れた実例を示すことで、金融行政を主導してきたのです。
 また、中野氏は、投資信託協会副会長の職にあって、業界の内部からの改革にも熱心に取り組んできました。業界団体の副会長という要職に推されることは、既に、業界においては、セゾン投信の事業哲学こそ同業者の模範であると広く認知されている証拠です。
 
それほどの大きな功績のある中野氏なのに、なぜクレディセゾンは解任するのでしょうか。
 
 誰しも上記の説明から理解できるように、クレディセゾンが中野氏を解任する理由が何であれ、それが理不尽なものであり、合理性を完全に欠落させたものであることは明らかです。不合理なものは、推測不可能ですが、敢えて憶測すれば、事業の収益性の問題です。実際、長期積立という事業戦略が普及しない理由として、事業の利益化までに長い時間を要する点が指摘されてきたのです。
 しかし、セゾン投信の場合、この困難な長い時間を耐え抜いて、利益化に成功していたのです。この間、株主としてセゾン投信を支援し続けたクレディセゾンは称賛されるべきだとしても、利益化した段階で、その利益化に貢献した創業経営者を更迭する合理的理由はありません。
 
クレディセゾンは、利益化の次の戦略として、規模の急拡大を志向しているのではないでしょうか。
 
 セゾン投信が事業戦略を変更して、強引に規模の拡大を志向すれば、多大な労苦のもとで形成してきた顧客の熱烈な支持を失い、顧客流出を招くのは確実です。そうなれば、顧客に対する背信行為となり、裏切りとなります。セゾン投信の企業価値の全ては、顧客からの厚い信頼に基づいています。自らの手で、その高い企業価値を破壊するのは愚かですし、そもそも、現在の事業戦略のなかには、自然な規模の拡大が構造化されているので、事業拡大策自体が不要なのです。
 
セゾン投信に中野氏個人の色彩が強い点を問題視している可能性はありませんか。
 
 中野氏は、創業来、全国各地を隅々まで訪ね歩き、顧客に直接に長期積立投資の意義を説いてきました。そのこと自体、極めて高い社会的意義のあることですが、その過程で、中野氏は、積立王子の異名を確立し、業界の著名な革命児として認知されるわけですから、そこに中野氏の個人色が強く出たことは否定できません。しかし、起業は必然的に創業者の個性に依存するものです。
 この点については、中野氏には冷静な判断があって、起業段階を終了し、次の成長段階に移行したとき、代表取締役会長に転じて、また同時に、投資信託協会副会長としての役割にも力を入れるようになったのです。こうした自覚が中野氏にある以上、クレディセゾンとしては、中野氏の個人色の計画的な逓減自体、中野氏に委ねるべきです。
 
投資信託協会は、中野氏の副会長再任を内定しているようですが。
 
 投資信託協会は、6月30日に総会を開きますが、中野氏は、理事候補になっているほか、理事選出後の理事会において、副会長に選任されることが内定しています。その直前の28日に、セゾン投信の株主総会において、クレディセゾンが中野氏を解任し、協会の人事案を覆すような暴挙は、社会通念上、許されないことです。
 
日本郵便もセゾン投信の株主のようですが、どう対応するのでしょうか。
 
 2014年10月、日本郵便がセゾン投信に資本参加していて、現在の株主構成は、クレディセゾン60%、日本郵便40%となっています。仮に、日本郵便が人事案に反対しても、中野氏の解任は成立しますし、株主間協定によって、日本郵便は人事案に反対できない可能性もあります。しかし、日本郵便としては、中野氏あっての資本参加だったはずで、何らかの方法で、中野氏支持を表明できないのでしょうか。
 
要は、クレディセゾンは、セゾン投信のベストオーナーではないということですか。
 
 ベストオーナー論は、まだ新しい企業経営論ですが、事業再編においては、事業の所有者の適格性が評価され、事業は、ベストオーナー、即ち、事業価値を最大化する能力の最も高い企業に譲渡されるべきだというものです。要は、クレディセゾンは、セゾン投信の所有者としての適格性を欠いたワーストオーナーなのです。
≪ 関連する論考をご紹介いたします ≫
セゾン投信で顧客本位を学べ (2017.5.18掲載)
セゾン投信は弊社とともに業界に先駆けて「フィデューシャリー宣言」を公表しています。そこにはセゾン投信の信託報酬や手数料などに関する厳格な思想、哲学が表されおり、質で勝負する姿勢がうかがえます。

顧客に甘える金融機関は淘汰される (2017.6.29掲載)
商業の基本として、顧客の期待に応えることが挙げられます。資産運用においてはこれが顧客本位と表現されますが、競争原理と自律的な高度化の相互作用の中で達成されます。

顧客本位が儲からないのは顧客本位でないからだ (2021.7.14掲載)
顧客本位のビジネスモデルを構築している金融機関は、今後、より情報が開示され、顧客が各々適切な判断を下せる環境下では、競争上優位に立てるはずです。
(文責:岸野)

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森本紀行

森本紀行(もりもとのりゆき)

HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長

東京大学文学部哲学科卒業。ファンドマネジャーとして三井生命(現大樹生命)の年金資産運用業務を経験したのち、1990年1月ワイアット(現ウィリス・タワーズワトソン)に入社。日本初の事業として、企業年金基金等の機関投資家向け投資コンサルティング事業を立ち上げる。年金資産運用の自由化の中で、新しい投資のアイディアを次々に導入して、業容を拡大する。2002年11月、HCアセットマネジメントを設立、全世界の投資のタレントを発掘して運用委託するという、全く新しいタイプの資産運用事業を始める。