債券投資の数学的技法の簡単早わかり

債券投資の数学的技法の簡単早わかり

森本紀行
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債券投資の理論は、数学で構成されています。なぜなら、債券から得られる将来のキャッシュフローが確定しているので、それを数学的に現在価値に割り引くことで、債券価値の分析が完結するからです。
 
 投資とは、理論的には、投資対象の資産が創出するキャッシュフローを得ることです。キャッシュフローとは、そのまま日本語にすれば、現金の流列ですが、現金ではなく、現金の流列なのは、絶えることなく、継続的に現金が創造されるからです。そして、投資においては、持続可能性はキャッシュフローの継続性のことであり、成長性はキャッシュフローの将来的な増加のことなのです。
 例えば、株式投資は、直接的には、配当というキャッシュフローを得ることですが、配当原資は発行体企業の事業活動が創造するキャッシュフローなので、株式投資は、事業投資になるわけです。そして、そもそも、事業とは、キャッシュを投じて、投じられたキャッシュ以上のキャッシュフローを持続的に創造し、キャッシュフローを成長させることにほかならないのです。
 
投資におけるリスク、即ち、不確実性とは、キャッシュフローに関する不確実性なのですね。
 
 事業活動が創造するキャッシュフローについては、その時期も金額も不確定であって、ときには、負のキャッシュフローに転じることもあり得ます。この事態が不確実性なのであって、その不確実性はリスクと呼ばれています。例えば、株式投資において、発行体企業の事業キャッシュフローの創出が不安定になれば、配当支払いに疑義が生じて、株価が下落する、こうした事態が株式投資のリスクの顕在化なのです。
 
投資対象の創造するキャッシュフローの現在価値が投資対象の価値ということでしょうか。
 
 投資の基本においては、投資対象の価値は、それが将来に創造するキャッシュフローの現在価値として定義され、将来についての一定の仮定のもとで価値が算定され、算定された価値と、その投資対象が市場で実際に取引されている価格とが対比されて、価値よりも低い価格のもとで、投資実行がなされるのです。
 そこで、投資の基礎技術として、将来のキャッシュフローの現在価値を算定することが極めて重要なものになります。この技術には二段階があって、第一は、確実なものとして確定した将来のキャッシュフローを現在価値に割り引くことであり、第二は、そこにキャッシュフローの不確実性を導入し、不確実性を調整したうえで、将来のキャッシュフローを現在価値に割り引くことです。
 
その第一段階では、債券投資の技術が基礎になるわけですか。
 
 債券においては、将来のキャッシュフローは、確定した利息、および確定した元本の償還で構成されています。債券の発行体には、信用リスク、即ち、利息の支払いと元本の償還を履行できない可能性がありますが、それをないものと仮定すれば、債券の将来キャッシュフローは確実に確定したものになります。実際、国債の信用リスクはないものとみなされているので、国債の将来キャッシュフローの現在価値の算定は、投資理論の基礎を形成しているのです。
 そこで、以下、国債について、将来のキャッシュフローの現在価値の算定方法を検討します。ただし、債券の利息の支払いは、一般的には、年に2回なのですが、ここでは、単純化のために、年に1回としておきます。
 
現在価値に割り引くとは、どういうことでしょうか。
 
 投資の理論では、複利が前提になっています。複利とは、利息の上に利息が発生することで、例えば、100を5%の利息で5年間運用するとき、複利では、100は1.05の5乗倍の127.63になります。利息の合計は25ですから、2.63は利息の上に発生した利息です。つまり、金利5%のもとで、100の5年後の将来価値は127.63であり、5年後という将来の127.63の現在価値は100なのであって、5%の金利で割り引くとは、127.63を1.05の5乗で除して、100の値を得ることです。
 クーポン、即ち、表面利率が5%の5年満期の国債を考えます。将来キャッシュフローは、投資額100について、1年後から4年後までは利息の5、5年後には元本償還を加えて105になり、これらを5%の金利で現在価値に割り引くと、5年間の毎年のキャッシュフローは、4.76、4.54、4.32、4.11、82.27となります。これらの合計は100ですから、債券の価値100とは、将来キャッシュフローの現在価値の合計だと理解されます。
 
そこから、平均回収期間が算定されるわけですね。
 
 投資とは、投資対象に資金を投じ、投資対象が創造するキャッシュフローとして、投じた資金を回収することです。このとき、投資判断の要素としては、回収額と並んで、回収に要する時間も重要ですから、回収期間が算定されることになります。
 さて、5%クーポンの5年満期の国債において、5年とは、最後のキャッシュフローが回収されるまでの時間であって、その手間で4つのキャッシュフローが利息として回収されています。そこで、平均回収期間、英語でいえばデュレーション(duration)という概念が登場するわけです。デュレーションは、各キャッシュフローが回収されるまでの時間に、そのキャッシュフローの現在価値の加重をかけた平均として定義されます。
 実際に計算してみると、1年、2年、3年、4年、5年という回収までの時間について、それぞれ4.76、4.54、4.32、4.11、82.27の加重をかけたうえで、平均値をとると、4.55年となります。当然のことながら、5年の満期よりも前に利息として回収されるキャッシュフローがあるので、5年よりも短くなるのです。
 
デュレーションは、金利変化に対応する債券価格変動の指標として使われるようですが、どのような理屈によるのでしょうか。
 
 5%クーポンの5年満期の国債について、割引金利を変えて、現在価値を計算してみます。6%で割り引くと、各キャッシュフローは、4.72、4.45、4.20、3.96、78.46となり、合計95.79となり、4%で割り引くと、4.81、4.62、4.44、4.27、86.3となり、合計104.44になります。この数値の変化は、金利変動と債券の現在価値変動の関係を表しており、債券の現在価値は価格の指標なので、金利変動に対応する債券価格変動の関係を表しているわけです。
 ここで、金利が1%上昇すると、価格は4.21%下落し、金利が1%低下すると、価格は4.44%上昇しています。これらの数値から明らかなように、価格変動幅と4.55というデュレーションとの間には、数学的な関係があります。煩瑣な数学の証明を省略しますが、債券投資の理論では、修正デュレーション、即ち、4.55を1.05で除した値である4.33が金利変化に対応する価格変動の指標として用いられているのです。
 
修正デュレーションが長いほど、金利変化に対応する価格変動が大きくなるわけですね。
 
 市中金利が変化しても、債券のクーポンは変わらないので、クーポンと市中金利との差は、償還時の差損益で調整されることになるために、価格が変動するのです。例えば、年率1%の金利を価格変動に換算すると、単純に考えて、5年債ならば5、10年債ならば10に相当するのですから、直感的に、満期が長いほど、金利変化に対する価格変動の大きくなることが理解されます。修正デュレーションは、ただ単に、この理屈を数学的に精緻化させただけのものです。
 
価格変動の指標としては、修正デュレーションの誤差が大きいようですが。
 
 縦軸に債券価格、横軸に金利をとると、金利が上昇すると価格は下がり、金利が低下すると価格は上がるのですから、右肩下がりの線が引けます。これも数学的なことですが、この線は、下に凸、即ち、下に膨らんだ曲線となります。凸であることは、英語でコンベクス(convex)といわれ、凸である度合のことは、コンベクシティ(convexity)と呼ばれます。
 修正デュレーションの計算は、数学的には、この曲線に接線をあてることですから、接点から離れるほど、またコンベクシティが大きいほど、曲線との乖離が大きくなり、誤差がでるのです。実際、1%の金利変動というのは極めて大きなもので、接点からは遠く離れてしまっているのであって、0.1%程度の金利変動については、修正デュレーションは十分に精度の高いものなります。
 こうして、債券投資の技法とは、保有債券全体について、金利変動の見通しのもとで、修正デュレーションやコンベクシティ等の数学的に定義された数値指標を管理することに帰着するのです。
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(文責:ティ)

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森本紀行

森本紀行(もりもとのりゆき)

HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長

東京大学文学部哲学科卒業。ファンドマネジャーとして三井生命(現大樹生命)の年金資産運用業務を経験したのち、1990年1月ワイアット(現ウィリス・タワーズワトソン)に入社。日本初の事業として、企業年金基金等の機関投資家向け投資コンサルティング事業を立ち上げる。年金資産運用の自由化の中で、新しい投資のアイディアを次々に導入して、業容を拡大する。2002年11月、HCアセットマネジメントを設立、全世界の投資のタレントを発掘して運用委託するという、全く新しいタイプの資産運用事業を始める。