上手な投資の秘訣は金利生活者の資産分類だ

上手な投資の秘訣は金利生活者の資産分類だ

森本紀行
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投資の成果は資産配分に規定されますが、配分には選択が先行し、選択は分類方法に依存するので、実は、投資における最重要の課題は、資産分類なのではないか。
 
 投資において、資産配分は、資産全体の収益率を規定する最大の要因として、極めて重要なものですが、理屈上、配分には選択が先行しなければなりませんから、実は、より重要なのは資産選択なのです。そして、多種多様な資産が存在するなかで、投資対象とすべきものが適切に選択されるためには、選択の基準が定められていて、その基準に従って、資産の分類がなされている必要があるので、投資の究極の課題は資産分類になるのです。
 
重要な割には、資産分類が論じられることは少ないようですが。
 
 投資に限らず、どの領域でも、何らかの歴史的背景のもとで確立した慣習は、それに従う理由が不明になっても、従うことの実益が失われても、従うことの弊害が大きくなっても、そう簡単には変わりません。無意味無益有害なネクタイを締める習慣は、昨今、漸くにして廃れ始めたとはいえ、未だに存続しているわけで、伝統的な資産分類も巷に溢れるネクタイ的事象の一例なのです。
 歴史的には、古くから、投資対象として融資や不動産などがあったわけですが、現代において、資本市場の発達に伴い、代表的な投資対象は、有価証券、具体的には株式と債券となり、資本市場の国際化に伴って、海外の有価証券にまで拡大し、更に、資本市場の高度化は、有価証券と看做されるものの範囲を拡大させてきたわけです。
 事業としての投資運用業は、有価証券を投資対象として発足した経緯があり、当然の成り行きとして、ここでの資産分類は有価証券の種類に基づくことになりました。つまり、株式と債券、日本の内外という二つの分類の軸によって、内外株式、内外債券という4種類の資産分類が作られ、更に、一方では、この4種類に属さないものがオルタナティブの名のもとに一括されることで5分類が確立し、他方で、5資産の内部において細分化が進行してきたわけです。
 こうした資産分類は、投資運用業界だけではなく、年金基金等の機関投資家においても採用されていますし、個人投資家も、投資運用業界が提供している投資信託を利用している限りは、同じ資産分類に従っていて、社会常識として広く定着してしまえば、ネクタイと同じことで、どこからも疑義は呈されないわけです。
 
一般に、資産選択は、どのようになされているのでしょうか。
 
 この資産分類のもとでは、原理的に、5分類で全ての投資対象が網羅されていることになっているので、資産選択は、各5種類の資産区分のなかに何を含めるか、例えば、外国株式にエマージング市場やフロンティア市場を含めるか、オルタナティブに何を含めるかという決定になります。
 ここでの問題は、5資産間の配分よりも、各資産種類のなかにおける投資対象の選択のほうが重要な意思決定になり得ることです。例えば、企業年金の資産配分においては、オルタナティブへの配分が大きくなっているため、資産配分の決定よりも、オルタナティブの内部における投資対象の選択のほうが重要な決定になっているかもしれず、組織統制上、資産配分が最上位の決定になっていることと不整合になり得るわけです。
 
資産配分の決定方法との関係では、価格の変動率の大きな株式と為替を分類の軸にしていることは、それなりの合理性を有するのではないでしょうか。
 
 資産配分は、投資が国内債券を主としたものから出発した後に、価格変動の大きな株式と外貨建ての資産、即ち、国内債券とは異質な資産への配分が徐々に増加していく過程で、即ち、分散投資が進むなかで、重要課題として浮上してきたので、分散効果が資産分類の基準になったわけです。
 分散効果は、資産相互間に異質性があることを前提にしていますが、統計学を使った投資理論が普及するのに伴って、その異質性は価格変動の差異性として認識されるようになります。そして、価格変動の相関の少ない資産を適切に組み合わせれば、資産全体の価格変動を抑制できることから、資産配分の決定においては、最適化、即ち、資産全体の期待収益率に対して、その期待変動率を最小化する方法が使われるようになったのです。
 
そうだとすると、価格変動の相関が小さくなるように、資産分類を定義し直すべきではないでしょうか。
 
 資産間の本質的な差異が小さくなれば、価格変動の連動性が強くなります。例えば、先進経済圏における金融政策の連携が強まったことは、各国の債券市場のなかに共通要因を生じさせて、その価格変動に連動性をもたらし、分散効果を低下させていますし、経済のグローバル化の進行は、企業の多国籍化というか無国籍化を生じさせて、株式の国籍を無意味にし、国別の分散効果は、低下したというよりも、本質的な意義を失っています
 現実問題として、今や、日本の内外という分類軸は消滅し、5資産分類は、世界株式、世界債券、オルタナティブという3資産分類になっていて、資産配分の重要性は低下し、3資産種類の内部、特に、オルタナティブの内部における資産選択の重要性が増しています。こうなれば、資産配分を頂点とした投資方法を改めるか、資産配分の意味を回復できるように、資産分類を再定義するしかないわけです。
 
資産分類を再定義するとして、どのような方法があるでしょうか。
 
 そもそも、資産配分には資産選択が先行し、資産選択には選択基準が先行していて、選択基準に従って資産分類がなされているからこそ、適切な資産選択と配分が可能になるのですから、既定の資産分類を用いていること自体が誤りです。真の投資とは、資産の選択基準を定めて、その基準に従って資産を分類することから始まるのであって、資産分類は、投資の基本方針の前提をなすものとして、投資家が自己の哲学に従って決めることです。
 
もはや、価格変動は分類基準たり得ないのでしょうか。
 
 投資を数学に還元しようとすることも投資の哲学ですから、統計学を駆使して、相互の相関が最小化するように、資産を複数の集団に分けてもいいのですが、各集団に属する資産の性格の共通性が希薄になるはずですから、一般の利用には適さないと思われます。
 
投資の基本方針は投資目的から導かれるので、資産分類も投資目的に従うべきでしょうか。
 
 代表的な投資目的は金利生活で、金利生活とは、資産に働かせて、その果実を費消することです。この金利は広義のもので、利息配当金のほか、不動産等の賃料などを含みます。金利生活は、誰にとっても憧れですし、実は、年金基金等の機関投資家も、果実を年金給付等に費消することを目的としているので、金利生活者なのです。
 この場合、資産分類の基準は、広義の金利の源泉の違いになりますが、源泉を検討するとき、例えば、同じ債券でも、国家財政に基づく国債と、企業の事業活動に基づく社債とでは、源泉の異なることが理解され、不動産等の実物資産についても、用途に応じて性格の異なる源泉をもつことに気付かれるはずです。
 
そして、究極的に、資産は現金を創造する装置であると理解されるわけですか。
 
 企業の事業活動等によって現金が創造され、創造された現金は、資産という器を通して投資家に配分されています。表現を変えれば、資産は現金を創造するための装置であり、企業等は、その装置を稼働させて現金を創造し、投資家に装置の利用料を支払っているのであって、投資収益の本質は、その利用料なのです。そして、資産の種類とは、利用料に関する権利の違いです。
 
資産分類の軸は、第一に、現金創造の源泉の違いであり、第二に、現金を受け取る権利の違いなのですね。
 
 例えば、オフィスビル、社債、株式は、企業の事業活動という同一の源泉をもつわけですが、オフィスビルという装置を提供した投資家には、経費のうちから賃料が支払われ、資金という装置を社債形態で提供した投資家には、経常利益のうちから金利が支払われ、同じ資金でも、株式形態で提供した投資家には、最終利益処分として配当が支払われていて、それぞれに投資家の権利が異なり、期待収益率も異なっていて、その差異が資産分類の基準になっているわけです。
≪ 関連する論考をご紹介いたします ≫
アセット・アロケーションと分散効果 (2010.3.18掲載)
真の意味での分散投資について、市場要因(単なる価格変動)と、個別銘柄要因(価値の変動)から考察しています。

お金は眠らない (2010.8.12掲載)
ジョン・D・マクドナルド氏の小説『April Evil』を例に、購買力や利殖が論じられています。

インカムと時間とキャピタルストラクチャ (2010.2.10掲載) 
インカムを規定する時間の要素について、債権者間で現金を受け取る権利の違い(キャピタルストラクチャ)から論じたコラムです。
(文責:杉本)

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森本紀行

森本紀行(もりもとのりゆき)

HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長

東京大学文学部哲学科卒業。ファンドマネジャーとして三井生命(現大樹生命)の年金資産運用業務を経験したのち、1990年1月ワイアット(現ウィリス・タワーズワトソン)に入社。日本初の事業として、企業年金基金等の機関投資家向け投資コンサルティング事業を立ち上げる。年金資産運用の自由化の中で、新しい投資のアイディアを次々に導入して、業容を拡大する。2002年11月、HCアセットマネジメントを設立、全世界の投資のタレントを発掘して運用委託するという、全く新しいタイプの資産運用事業を始める。