使途のある資金を運用してこそ真の投資なのだ

使途のある資金を運用してこそ真の投資なのだ

森本紀行
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金融機関で投資信託の営業をする人は、必ずや、顧客の使途の決まっていない資金について、中長期的な運用を勧めるに違いありません。しかし、生活上の資金使途のないところにローンが成立しないように、投資信託も、将来の決まった資金使途を実現するために利用されてこそ、はじめて意味をもつのではないでしょうか。
 
 人の生活において、また事業の経営において、お金は必要不可欠ですが、お金自体に意味があるのではなく、お金を用いて実現されること、即ち資金使途に意味があるのです。そして、お金の保有額が常に変化して推移するなかで、その変化とは直接的に関係することなく、生活や事業の必要から資金使途が発生するので、必要資金の過不足が生じる、それを調整するのが金融機能なのです。
 つまり、資金に余剰がある個人や法人は銀行等に預金し、資金が不足する個人や法人は銀行等から借入れる、立場を逆にすれば、銀行等は資金の余剰を預金として吸収し、資金の不足する個人や法人へ貸付ける、こうして、預金を媒介にして、個々の個人や法人において生じる資金の過不足を社会全体として調整する、これが銀行等の金融機能です。故に、金融機能は資金使途と無関係には決して成立し得ないものです。実際、使途もなく、お金を借りる人も企業もありません。
 
しかし、使途がないから預金になっているとしたら、預金は資金使途と関係のない金融機能ではないでしょうか。
 
 金融は、経済が成長する限り、経済全体としては、法人部門を中心に、資金不足になっていることを暗黙の前提としていて、その不足を埋めるものとして、銀行等の預金を媒介とした信用創造機能、簡単にいえば不足する預金量を増幅させて必要融資量に均衡させる機能があるのです。
 故に、預金として滞留する資金は一時的事情で短期的に滞留するだけであって、中長期的に使途のない預金の滞留することはあり得ない、個々の個人と法人にはあり得ても、経済全体としてはあり得ないことが想定されているのです。別のいい方をすれば、資金は経済の血液として常に循環して滞らない、それが経済のあるべき姿だということです。
 しかし、日本の場合、かなり前に、この本来の金融は機能しなくなっています。なぜなら、経済の成熟とともに、個人金融資産の蓄積が進み、それが預金に滞留していったのに比して、法人部門の資金需要が相対的に減少していったため、経済全体として預金の構造的過剰に陥り、それが定着したのです。
 この過剰預金については、まさしく使途がありません。この深刻な事態こそ、いわば血液の流れの滞った状況こそ、日本経済が直面する最大の難問なのであり、なによりも、預金を媒介とした伝統的な金融の存亡の危機なのです。

使途がない預金を日本の資金循環の外に出す必要があるわけですね。
 
 いうまでもなく、それが国際分散投資で、日本のように先行して成熟した経済、蓄積過剰となった経済から、旺盛な資金需要のある成長途上の経済圏へ資金が移動することにより、一つの狭い国のなかでは循環し得なかった資金が広い地球のなかで循環する、これがグローバル経済の真の意味です。そして、今では、投資信託を上手に利用すれば、日本の誰にでも、地球上の隅々にまで投資することが可能なのです。
 また、日本経済のなかにおける循環としても、預金を介して運転資金等を産業界に供給する短期的循環に加えて、預金を介さないで直接に設備投資資金等を産業界に供給する中長期的循環があります。後者においては、産業界が株式や債券等を発行し、また不動産等の実物資産を移転させ、それらを個人が直接に、あるいは投資信託を経由して取得する方法がとられます。
 こうして、個人の金融資産保有形態として株式、債券、不動産、投資信託等を普及させ、その分だけ預金削減を実現することで、銀行等の預金を媒介とした金融機能の規模を縮小して適正化させ、経済の資金循環を正常に戻す、これは、かつては貯蓄から投資へという標語のもとで、今では国民の安定的な資産形成という名のもとで、金融庁の重点施策に位置づけられてきた課題です。
 
しかし、使途がないからこそ預金になっているものを、投資、あるいは資産形成の名のもとで増殖させようとすることに、何かゲーム以上の意味があるでしょうか。
 
 生活の必要から切り離され、資金使途を欠いた資産形成は、資産形成のための資産形成、投資のための投資として、一種のギャンブルかゲームであり、投資というよりも投機と呼ばれるべきです。長期投資だから投機ではないということではなく、そもそも投資のための投資はゲームにすぎないのです。
 もちろん、人間の生活に娯楽は不可欠で、適度のギャンブルも必要かもしれませんが、娯楽を楽しむためには生活の経済的基礎が確立されていなければならず、まさに、その生活の経済的基礎を強化することにこそ金融の本来の機能があることを忘れてはなりません。
 
では、生活上の資金使途のある資産形成とは、どのようなものでしょうか。
 
 まず、資金使途がないということについては、三つの場合があります。第一に、資金使途の実現が時間的に先にあるために、それまでは使途がない場合、第二に、元本自体には資金使途がなく、その運用の果実に使途がある場合、第三に、資金使途が抽象的にとどまり、使途が具体的には特定されていない場合、この三つです。
 つまり、短期的どころか、中長期的にすら資金使途がないようにみえる場合でも、究極的には必ず資金使途がなくてはならない、あるいは必ず資金使途が想定されなくてはならないのです。なぜなら、いかなる意味においても使途を想定せず、お金を貯めるためだけに貯めることは、一種の異常な病理としてはあり得ても、正常な人の行動としてはあり得ないからです。
 
金融庁が想定しているのは第一の類型ですか。
 
 資金使途の実現が時間的に先にあるために、それまでは使途がない、この表現は、時間的に先のほうに資金使途の実現を目標として設定し、その目標に向けて資産形成を行う、と直すことができます。そして、金融庁は、昨年6月に、その目標として豊かな老後生活を推奨し、更には2000万円という目標金額まで提示して世に物議を醸したのです。これが有名な老後2000万円報告書問題です。
 確かに、豊かな老後生活のための原資の形成は、若いときから極めて長期間にわたって小さな金額を累積投資していくものですから、資産形成に最も相応しいものであって、代表事例として適当です。しかし、将来の資金使途の実現を目標として設定し、その目標に向けて資産形成を行うことは、比較的短期も含めて、一般的に適用できます。
 例えば、住宅ローンの頭金、車の買い替え資金、長期休暇に向けた旅行資金など、使途実現まで数年以上の時間の長さがあれば、その時間の長さ、資金使途の性格に応じて、様々な資産形成の方法があり得るわけです。
 
資産形成は、運用収益による資産の増加が合理的に期待できない限り、意味ないですね。
 
 運用収益が期待できなければ、預金のままにしておくのが合理的ですから、資産形成は、投下元本の増加を自明の前提にしています。しかし、このことは、ゲームとして資産の増殖を楽しむことではありません。そうではなく、あくまでも資金使途が先にあるのであって、より豊かに資金使途を実現することが目的なのです。
 例えば、老後生活資金形成においては、目的は、単に資金を貯めることではなく、資金の購買力を保存し、できれば購買力を増やして、老後においても豊かな生活水準を維持することなのですから、グローバル経済のもとで、世界全体の経済成長に参画できる国際分散投資が推奨されるのであって、より高い期待利益を追求するために国際分散投資が推奨されるのではないのです。
 このことは、旅行、車や住宅の購入など、どの資金使途に対する資産形成についてもいえて、そこでの目的は、単なる消費でも、投資収益を得ることでもなく、元本に投資収益を加えることで、より豊かに消費することなのです。
 
第二の類型は憧れの金利生活者ですね。
 
 年金基金等の機関投資家の資産運用では、投資元本の費消は想定されておらず、投資収益の費消が目的となっています。別のいい方をすれば、財政計画のなかで収入として予定されている投資収益があって、その実現のために資産運用がなされているということです。つまり、毎年10億円の収入を予定し、予定収益率を1%とすれば、1000億円の元本を常に留保しておく必要があるという計算になっているのです。
 このことは、個人においても、憧れの金利生活者として、理想として、そのままに有効です。誰しも、毎年の生活資金額を期待収益率で割って、必要元本を求める計算をしたことがあるでしょう、1億円の元本があって、それが5%で回ったら、毎年500万円手に入るなと、自分は働かず、元本に働かせる、これぞ投資の極意です。
 
第三の類型は曖昧ですね。
 
 人生において、様々な資金使途が勝手に生まれてくる、そのとき資金が不足すれば、金融機能が必要になる、ここに融資を主役にした金融の原点があったのですが、成熟経済のもとでは、逆に、資金使途を超えた過剰資金を適切に増殖させることで、新たな資金使途が創造される、ここに資産形成を主役にした新しい金融が始まるということです。
 例えば、子供の誕生祝いに貰ったお金を消費せずにエマージング株式に投資しておいたところ、それが18年の間に大きく増殖したおかげで、その子供を大学に入れることができた、こうして夢を現実にする資産形成こそ、これからの金融の中核的役割でなければなりません。

以上

 

次回更新は、5月28日(木)になります。
≪ アーカイブから今回に関連した論考 ≫
 2019/12/12掲載「倹約するな
 2019/11/07掲載「お役に立った投資信託といえるために
 2019/08/08掲載「これが老後2000万円報告書の改訂版だ
森本紀行

森本紀行(もりもとのりゆき)

HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長

東京大学文学部哲学科卒業。ファンドマネジャーとして三井生命(現大樹生命)の年金資産運用業務を経験したのち、1990年1月ワイアット(現ウィリス・タワーズワトソン)に入社。日本初の事業として、企業年金基金等の機関投資家向け投資コンサルティング事業を立ち上げる。年金資産運用の自由化の中で、新しい投資のアイディアを次々に導入して、業容を拡大する。2002年11月、HCアセットマネジメントを設立、全世界の投資のタレントを発掘して運用委託するという、全く新しいタイプの資産運用事業を始める。