HCがHCである所以について

森本紀行
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HCという屋号の謂れって、何ですか。

わかりません。


まさか。

 では、答えを変えましょう。秘密です。創業時、駄洒落で、秘密クラブの意味だといっていましたが、あまり馬鹿馬鹿しいので、やめましたけれども。


秘密にするほど、大切なものなのでしょうか。

 いいえ、少しも大切ではありません。だから、秘密にしておいたほうが、何か深い謂れがあるようで、高邁な価値が籠められているようで、いいでしょう。


質問の向きを変えますが、HCというのは、何の略ですか。

 何の略でもありません。もともと、日本では、法人名の登記に、英字は使用できなかった。それが、2002年に制度改正があって、英字での登記が可能になりました。当社は、その改正直後に設立したので、新しいもの好きとしては、英字の屋号しかないな、ということで、HCです。
だから、HCは、そのままHCであって、何かの略ということではないのです。ちなみに、片仮名では、「エイチシー」です。「エッチシー」ではありませんので、念のため。


そうはいっても、適当に英字を選んだのでもないでしょう。もしも、そうなら、「エイチシー」なんて、語感の悪いのは、やめたらよかったですね。

 確かに、語感でHCにしたのではない。また、全く適当にHCにしたのでもない。一方で、何かの意味をHCに籠めたともいいたくない。むしろ、多様な意味を籠められるように、HCを選んだといいたい。
 企業は成長し、自己変革していきます。というか、成長し、自己変革し続けなければなりません。屋号は、変革を通じて変らない底流の哲学を象徴しつつ、同時に、変革を通じて新しい意味を付与できるような、そのようなものであってほしい。HCが何であるか、よりも、HCが何であり得るか、何であるべきか、のほうが重要な経営課題だと思います。


では、HCは何であるべきなのでしょうか。

 一つには、ヒューマン・キャピタル(human capital)です。人的資本です。これには、二つの意味があります。
 第一に、当社の運用資産の大半が、企業の年金退職金資産であるということです。企業の年金退職金資産に対応する負債は、会計上は、長期負債なのですが、実質的意味は、資本性のある、まさに人的資本なのだと考えているのです。
 実は、10年ほど前、私は、企業の処遇制度の金融工学的解析と、それに基づく新しい処遇理論の構築に、熱心に取り組んでおりました。そして、その解析の方法を、ヒューマン・キャピタル・アカウンティング(Human Capital Accounting)と命名しました。HCAです。
 HCAの理論の中で、中核的な概念は、命名の由来となったヒューマン・キャピタルとしての年金退職金なのです。私にとって、企業の年金退職金は、企業の競争力と成長力を規定する人的資本の厚みを意味します。だから、その年金資産の運用に参画でき、運用の付加価値を通じて制度の安定的持続に貢献できるとしたら、私にとって、二重の喜びがあるのです。
 当時、HCAの理論は、一部の方には高く評価いただきました。その後、当社の立ち上げの中で、お蔵に入れるほかなくなりましたが、いつか、改めて、世に問うてみたいと思っています。
 なお、HCアセットマネジメントという会社名を略称すれば、やはり、HCAです。会社設立当時、処遇の科学としてのHCAと、屋号のHCAを重ね合わせたのは、事実です。ですから、当時は、HCよりも、HCAを使っておりました。
 ところで、普通の人にとって、もしもHCAになじみがあるとしたら、それは、おそらくは、ハイドロキシクエン酸(Hydroxycitric Acid)でしょう。これ、ガルシニアカンボジア(garcinia cambogia)という植物から抽出する成分で、栄養補助食品になっています。ダイエットに効くとか、持久力を高めるとか、そんな効果があるようです。しなやかな持久力、いい感じでしょう。


もう一つのヒューマン・キャピタルの意味は何でしょうか

 当社の運用方法は、多種多様にあり得る投資対象と投資戦略の中から、価値あるものを選択して組み合わせること、および、選択された各領域において、最適な専門の運用会社を選んで 運用を任せること、この二つに特化しています。つまり、戦略の配分はするけれども、個別具体的な投資対象の選択は、それぞれの専門領域の一番いい(と、当社が信じる)運用会社に委ねているのです。
 運用会社の選択に際して決定的に重要なのは、もちろん、人材です。当社では、個別資産に投資するというよりも、個別資産に投資する人材に投資するような格好になる。まさに、ヒューマン・キャピタルとしての人材への投資、これが、第二のヒューマン・キャピタルの意味です。


だとすると、ヒューマン・キャピタルというのは、どちらかというと、変革を通じて変らない要素のようですね。今後の展開として、HCに新たな意味を付与していくとしたら、どのようなものでしょうか。

 HCAを使っていたとき、ある人が、help clients accumulate 即ち、顧客の資産の増殖を支援する、という意味を提案してくれました。なかなか、いいでしょう。でも、これも、どちらかというと、資産運用会社としての変り得ない基本哲学ですね。
 将来、HCに籠める意義を拡張していくとすると、Hは、ヒューマニティ(humanity)、即ち、人間性、慈愛、人文科学などの意味の方向に展開できないものかと考えています。Cは、カルチャー(culture)やコミュニティ(community)の方向でしょうか。
 私は、オバマ大統領の就任演説に感心して、二つのコラムを書きました。2009年2月12・19日の「オバマ大統領就任演説の投資にとっての意味-格差から平均へ」と、同2月26日・3月5日の「オバマ大統領就任演説とプロシクリカリティの問題」です。資本主義経済に一つの大きな転機がくる、との予感に基づくものです。
 もしも、Cを資本主義(キャピタリズム capitalism)とすると、新しいCには、新しい資本主義原理の下で、新しい投資の哲学を象徴する理念を籠めたい。一方、その時、Hに籠めるものは、やはり、方向性として、ヒューマニティや誠実・正直(オネスティ honesty)なのではないかと思うのですが。

以上


来週は、二日も休日があるので、お休みいただいて、次回更新は、9/30(木)にさせていただきます。
森本紀行

森本紀行(もりもとのりゆき)

HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長

東京大学文学部哲学科卒業。ファンドマネジャーとして三井生命(現大樹生命)の年金資産運用業務を経験したのち、1990年1月ワイアット(現ウィリス・タワーズワトソン)に入社。日本初の事業として、企業年金基金等の機関投資家向け投資コンサルティング事業を立ち上げる。年金資産運用の自由化の中で、新しい投資のアイディアを次々に導入して、業容を拡大する。2002年11月、HCアセットマネジメントを設立、全世界の投資のタレントを発掘して運用委託するという、全く新しいタイプの資産運用事業を始める。