仕組貸出を売る証券会社が悪いのか買う地域銀行が馬鹿なのか

仕組貸出を売る証券会社が悪いのか買う地域銀行が馬鹿なのか

森本紀行
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<毎週木曜日 11:30更新>

地域銀行は、金融庁がモニタリングを強化しただけで、仕組貸出をやめるのなら、その背後にあった不健全な動機の存在を自白することになるのではないか。
 
 金融庁は、3月31日に、「地域銀行における仕組貸出モニタリングレポート(2026)」を公表しています。地域銀行というのは、一般的には使われていない用語ですが、地方銀行というと、相互銀行から業態転換した第二地方銀行が含まれなくなるので、両方を含む総称として、地域銀行といわれるのです。ましてや、仕組貸出という用語に至っては、金融界の外で、知る人はいないでしょうが、形式上は、銀行の本業である貸出の一種なのです。
 モニタリングというのは、従来の用語でいえば、概ね検査に該当するものです。金融庁には、かつては、検査局があって、金融機関の取り締まりこそ、主要業務のように思われた時期もあったのですが、それも今は昔の話で、現在では、金融庁自身の抜本的改革により、検査局は廃されて、検査という用語も、モニタリングに置き換えられるようになったのです。
 そして、金融庁として、仕組貸出についてのモニタリングの結果を公表したのは、これまで、仕組貸出の実態調査を行ってきて、ある程度、論点の整理ができたので、問題意識を地域銀行と共有し、併せて、今後のモニタリングの基本方針を示すためです。
 
仕組貸出とは、どのような貸出なのでしょうか。
 
 仕組貸出は、形式は貸出でも、実体は貸出ではありません。逆にいえば、貸出とはいえないものについて、形式だけを整えて貸出とするところに、仕組貸出の本質があるのであって、そうであれば、金融庁ならずとも、誰でも、そこに不健全な意図を推定するわけで、故に、重点モニタリングの対象とされてきたのです。
 仕組貸出には、金融庁もいうように、明確な定義はなく、様々に異なるものがあり得ます。しかし、その基本形は単純であって、仕組貸出とは、地域銀行が国債や社債等に投資するときに、直接に投資せずに、特別目的会社を設立し、あるいは信託勘定を設定して、そこを経由して投資することです。このとき、資金の流れとしては、地域銀行は特別目的会社等に資金を貸出し、特別目的会社等は、その資金を用いて、国債等に投資するので、実体は投資でも、形式は貸出になるわけです。
 
どのような経路で、仕組貸出の問題が浮上してきたのでしょうか。
 
 金融庁は、2024年1月に行われた全国地方銀行協会、および第二地方銀行協会との意見交換会のなかで、初めて、仕組貸出の増加に対する懸念を表明しています。実は、最初に金融庁の注意を引いたのは、地域銀行において、金融業・保険業向けの貸出の伸びが不自然なほどに高かったことで、調べてみれば、そこには特別目的会社等への貸出が相応に含まれていて、その実態が仕組貸出だったのです。
 その後も、仕組貸出の問題は、両協会との意見交換会において、繰り返し取り上げられて、2025年6月の意見交換会において、金融庁は、「2025年内目途でモニタリング上の論点等をまとめたレポートを公表するなどの更なるモニタリング強化と対外発信を行っていきたい」と述べていたのです。そして、ここで予告されたレポートの公表は、実際には、少し遅れて、年が変わった3月31日になったというわけです。
 
どのような動機のもとで、地域銀行は仕組貸出を行うのでしょうか。
 
 地域銀行においては、様々な動機のもとで、仕組貸出がなされているのでしょうが、最も愚劣な動機は、貸出金残高の目標が設定されているなかで、安直に目標を達成することであり、対外的に公表される貸出金残高について、数字の見栄えをよくすることです。しかし、これだけが動機ならば、馬鹿げてはいても、実害はないはずです。
 実害のあり得る動機は、国債等の時価評価を回避することです。国債等を直接に保有していれば、会計上、あるいは内部管理規定上、時価評価がなされて、その結果として評価損が発生しているときは、速やかに適切な処理や対応がなされます。しかし、仕組貸出のもとで国債等が保有されているときは、評価損が発生していても、貸出金の評価額は変動しないので、実体が隠蔽されて、適切な処理や対応のなされない可能性があるわけです。
 
国債リパッケージローンですか。
 
 国債に投資するための仕組貸出は、国債リパッケージローンと呼ばれていて、国債リパと略称されています。そもそも、地域銀行は大量の国債を直接保有しているのですから、敢えて仕組貸出を用いて国債に投資することについては、将来の評価損の認識を回避すること以外に、理由はあり得ないはずです。
 さて、なぜ、仕組貸出は、金融業・保険業向けの貸出に分類されているのでしょうか。金融庁が関心をもったのは、日本銀行が集計している地域銀行の貸出先別貸出金の推移だと思われますが、この統計の業種分類では、金融業・保険業のなかに、金融商品取引業・商品先物取引業が含まれていて、仕組貸出は金融商品取引業向けの貸出に分類されているのです。
 要は、仕組貸出は、証券会社が組成した特別目的会社等に対する貸出になっているわけです。つまり、証券会社は、国債を地域銀行に販売するに際して、それをリパッケージして、即ち、特別目的会社等に包むことで、評価損の認識回避策を提供してきたのです。
 
仕組貸出は、もともと、評価損の認識回避策として始まったのでしょうか。
 
 証券会社は、デリバティブ取引を地域銀行に提案するなかで、全ての複雑な取引を特別目的会社等に内包させて、地域銀行の取引への参画方法については、特別目的会社等への貸出に単純化するために、仕組貸出を考案して、その営業を積極的に始めたのだと考えられます。
 例えば、クレジットリンクローンと呼ばれる仕組貸出がありますが、その典型例では、信託勘定が設定され、国債の取得のために地域銀行が貸出し、そこにクレジットデフォルトスワップを取り込んで、参照組織の信用リスクに連動させています。この構図においては、取引の器は信託以外のものでよく、基礎となる投資対象は国債以外のものでよく、取り込むデリバティブはクレジットデフォルトスワップ以外のものでよいので、多種多様な仕組貸出ができるのです。
 
地域銀行として、デリバティブ取引の仕組みを完全に理解したうえで、厳格な管理態勢のもとで、実行方法の簡易化のためだけに、仕組貸出を利用しているのならば、少しも問題はないはずですが。
 
 金融庁のレポートには、「仕組貸出は、デリバティブを組み込んだ金融商品であり、類似の有価証券(仕組債等)を参考にしつつ、その複雑な商品性に見合った実効的なリスク管理態勢の整備が求められる」とあります。金融庁は、レポートのなかで、地域銀行に対して、懸念事項を個別具体的に示しつつ、仕組貸出にかかわるリスク管理態勢の強化を求めているのですから、逆にいえば、現状においては、十分なリスク管理態勢がないままに、仕組貸出の行われている実態があるのだと考えられます。
 
金融庁のモニタリングが強化されるなかで、地域銀行は仕組貸出を継続するのでしょうか。
 
 滑稽ともいえる帰結は、デリバティブを組み込んだ仕組貸出のために、新たに厳格なリスク管理態勢を構築すれば、そのことにより、仕組貸出の継続は不可能になるだろうということです。なぜなら、リスク管理業務に費用が嵩むうえに、組み込まれているデリバティブの取引価格、特別目的会社等の設立と維持にかかわる費用、証券会社に支払う手数料等を適正に評価すれば、期待利益と費用との間には、到底、合理的関係が成立し得ないと予想されるからです。また、評価損の認識回避のための国債リパッケージローンにしても、意図の不健全さは明瞭ですから、継続は、事実上、不可能でしょう。
 証券会社にしても、適正な費用のもとで、デリバティブを組み込んだ仕組貸出を組成しても、収益面での妙味がなくなるので、撤退するはずです。また、既に、国債リパッケージローンの販売については、金融庁のモニタリングが強化されるなかで、自粛が進んでいるようです。
  ≪ 関連する論考をご紹介いたします ≫
金利上昇で預金獲得に努力する銀行は愚かなのか(2026.1.15掲載)
融資の伸び悩みに苦しむ金融機関にとって重要なのは預金の粘着性と融資先である顧客の深い理解であることが解説されています。

地場証券の伝統を破壊する人、捨てる人、堅持する人 (2023.10.5掲載)
証券が地域銀行のリスク管理能力を超えるようなデリバティブを仕組貸出に組み込んでいたならば、仕組債の時と同様、顧客属性を適切に勘案していないことになるのではないでしょうか。

なぜ銀行等の国債の評価損の発生が不可避なのか(2025.12.11掲載)
仕組貸出を行うインセンティブとして、国債の評価損発生回避が挙げられていますが、当コラムではその国債の評価損が預金取扱金融機関に与える影響などが開設されています。
(文責:岸野)

次回更新は、6月11日(木)になります。
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森本紀行

森本紀行(もりもとのりゆき)

HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長

東京大学文学部哲学科卒業。ファンドマネジャーとして三井生命(現大樹生命)の年金資産運用業務を経験したのち、1990年1月ワイアット(現ウィリス・タワーズワトソン)に入社。日本初の事業として、企業年金基金等の機関投資家向け投資コンサルティング事業を立ち上げる。年金資産運用の自由化の中で、新しい投資のアイディアを次々に導入して、業容を拡大する。2002年11月、HCアセットマネジメントを設立、全世界の投資のタレントを発掘して運用委託するという、全く新しいタイプの資産運用事業を始める。