オリンパスの悲願と裏の闇

森本紀行
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この時点でオリンパス問題をとり上げるとは、なかなか勇気がありますね。さて、どうなることやら。ところで、表題に掲げたオリンパスの悲願とは、何でしょうか。まさか、損失の先送り計上のことではないでしょうが。

 オリンパスが10月27日に発表した「当社の過去の買収案件に関る追加情報について」をみると、国内の三つの新事業会社(アルティス、NEWS CHEFF、ヒューマラボ)の買収に関連して、「内視鏡、カメラ、顕微鏡に次ぐ「新事業創生」は、オリンパスの長年の悲願」であったとされています。これは、これまでの経営方針に掲げられてきたことで、嘘ではないでしょう。この経営方針を前提にして積極的な企業買収が行われてきたのですから、買収そのものを不合理とすることはできないわけです。まずは、この点の確認から始めなければなりません。
 買収の全てが成功するはずもありません。必ず、うまくいかない買収事案がでます。もちろん、買収の失敗には、経営責任があるでしょう。しかし、結果論から、買収の失敗をもって、不適切な経営とまで、いうことはできない。最善の検討と配慮と注意が尽くされ、適正な手続きを経て、公正な価格で、買収が行われたとしても、結果的に買収の成果があがらず、結果的に買収金額を大きく下回る事業価値になってしまうことは、ある程度は、避けがたい。まずは、そういう視点から、オリンパスの案件もみていかないといけない、と思うのです。
 その意味では、ジャイラスの買収にしても、国内の新事業3社の買収にしても、オリンパスの既存事業との連関、新事業への参入という長年の経営の悲願などを総合的に勘案すれば、それなりの合理性のある事案であった、といわざるを得ないような気がします。


一連の問題視されている買収と並行して、オリンパスは、アイ・ティー・エックスの完全子会社化も進めていますね。これらの買収の全体を概観すれば、問題となっている部分は、新事業創生の大きな取り組みの一部、と評価できなくもないわけですよね。

 実は、アイ・ティー・エックスの事業は、オリンパスの既存事業との関連が見出しにくいもので、買収の妥当性をいうなら、こちらの案件のほうが、よほど大きな問題ではないでしょうか。逆に、事案の内容だけについていえば、つまり、手続き面の問題や、背景の不透明性というか闇の部分、を無視すれば、アイ・ティー・エックスの買収に問題がないのならば、ジャイラスと国内新事業3社の買収も、その妥当性に疑義をはさむことは難しい、ということでしょう。
 なお、念のため、時間的な並行性を確認しておくことは、興味深いかもしれません。
 アイ・ティー・エックスは、旧日商岩井の情報関連事業が分離独立してできた会社で、2000年4月1日の発足以来、オリンパスは日商岩井に次ぐ株主でした。その後、2003年1月20日に、オリンパスは、日商岩井から株式を譲受け、22%を保有する筆頭株主になると同時に、子会社を通じて転換社債型新株予約権付社債100億円の引受けを行い、実質的に約4割を握ることになります。この段階で、アイ・ティー・エックスは、オリンパスの持分法適用の関連会社となります。その後、2004年9月には、公開買付けにより株式を買増して、連結対象子会社とし、さらに、2011年2月には、株式交換方式を通じて、完全子会社とするのです。
 ちなみに、問題視されている国内の新事業3社の買収の経緯は、まず、2000年1月の取締役会において、「新事業創生の為、事業投資ファンドに300億円出資することが決議」されたことに、始まります。その後、2006年の5月に、3社への第一次の出資が行われます。その後、3社は、2007年にオリンパスの持分法適用会社となり、2008年に連結対象子会社になるのです。
 こうみると、裏の闇の見えないところのあるのは事実ですが、少なくとも表面的な事態の推移は、それなりの整合性をもって、新事業創生の取り組みの一環として、なされている形になっているのです。
 アイ・ティー・エックスは、発足の経緯も明らかな会社で、しかも、2001年12月に当時のナスダック・ジャパンに上場した会社ですから、オリンパスの完全子会社になるまでの経緯についても、上場企業間の案件として、何ら疑義なく進展したものです。事実、現在でも、手続き面等で、アイ・ティー・エックス子会社化の経路を問題視する向きはないのです。
 一方、問題の3社の子会社化は、アイ・ティー・エックスの子会社化と並行して進んでいるのですから、買収の内容面での妥当性については、当時も疑義をはさむ余地はなく、今もないのだと思われます。このことが、結果的には、裏の不可解な経緯を、目立たなくさせてしまったのかもしれません。しかし、だからといって、当時のオリンパスの経営陣が、敢えて目立たなくするように、アイ・ティー・エックスの事案を表で進めて、裏で3社の事案を進めていた、とまでいうのは、少なくとも現時点では、あまりにも深すぎる深読みでしょう。


そうはいっても、この新事業3社の買収は、実は、損失の先送り計上の一つの手段であった可能性がでてきているわけですね。そうなると、買収の内容面でも、疑義がでてくるような気がしますが。

 そうかもしれません。損失先送りの手段に利用しやすいものとして、新事業創生の名のもとに、3社が作られたのか、そうではなくて、たまたま新事業創生の優良な候補としてあった3社が、結果的に損失先送りの手段に利用されたのかは、わかりようがない。もしかしたら、今後の調査によっても、はっきりしないかもしれません。
 これは、単なる勘というか、とにかく感覚的なものですが、オリンパスが掲げてきた新事業創生という経営施策は、決して出鱈目なものとも思えないのです。新事業創生ということは、重要な経営課題として、それなりに大真面目に取り組まれてきたのではないでしょうか。それが、多くの場合、非公開の取引を経由することから、結果的に、損失先送りの手段に利用されていくことになったのではないでしょうか。


それでも、時期的な附合は、気になりますね。具体的な新事業創生の取り組みも、1990年台を通じて先送られてきた損失の処理の開始も、2000年の初頭に淵源がある。ということは、二つとも、1999年を通じて、具体的な検討が進んでいたということでしょうね。

 そのとおりです。一つの重要な鍵が1999年度にあることは、間違いありません。ということで、2000年3月期の有価証券報告書をみることから始めましょう。
 第一の重要な事実は、先ほど述べた300億円のファンドの設立です。有価証券報告書では、「新事業の創生を目的とした事業ファンドへの投資を301億1百万円行った」と、「キャッシュフローの状況」の項目の中に記載があります。また、経営課題の重点5項目の第一に「成長の追求」があげられ、既存事業で得られた原資をもとに、「近い将来、グループの中核事業となりうる新事業を創生する」、と述べられています。
 300億円という金額ですが、この期のオリンパスの売上げ4286億円、経常利益208億円、総資産5362億円、自己資本1903億円などという数字と比較すれば、かなり大きなものだと思うのですが、先に述べた記述以外は、このファンドについての説明は一切ありません。ここに、大きな疑惑があります。ファンドの運用者が誰であったかすら、開示されていないのです。運用会社の名前は、先ほどの「当社の過去の買収案件に関る追加情報について」で初めて明らかにされるのですが、GCI Limited とあるだけで、この会社についての情報は、現時点でも、全く開示されていません。
 第二の重要な事実は、「金融資産整理損」として、170億円の特別損失を計上していることです。いうまでもありませんが、これが、今問題となっている有価証券投資に起因して過去から繰り延べられてきた損失の、おそらくは、その一部の顕在化であったことに、間違いありません。損失の内訳として、特定金外信託契約の整理損140億円、スワップ整理損30億円という数字が注記されています。
 この損失は、経常利益208億円のうちの170億円を消し飛ばしてしまったのですが、説明としては、「当期において財務内容の健全化を図るため」とあるだけで、何らの経緯の説明もありません。ここも、大いに疑問な点です。
 第三の重要な事実は、損失を内包していた、要は損失の先送りに使われていた、とみられる資産項目として、前年度末に293億円計上されていた「短期特定金融資産」が、全額消えたことです。常識的に考えて、スワップ整理損30億円が簿外からでたものとすると、特定金外信託整理損140億円は、この「短期特定金融資産」の除却から生じたと思われるので、293億円の簿価に対して含み損が140億円あった、ということになるのでしょう。といいますか、そう解釈しない限り、おかしなことになる、ということです。


もしも、それだけのことなら、確かに疑義は残るのですが、全体としては、それなりに説明できるような決算内容ですね。

 問題は、この先ですよ。ここからは、現時点では、何も情報がないのだから、推測になるのです。推測ではあるのですが、もしも、新事業3社の買収と損失処理に関係があるのだとすると、その関係は、損失先送りにつながるような関係でなくてはならないのだから、論理的に、推測の範囲には一定の枠があるはずなのです。その枠組みを検討してみましょう。
 まず、損失の先送りには、特別の方法など、原理的には、あり得ないということです。もちろん、表面的な技法には多様なものがあり得ますが、原理は一つです。つまり、貸借対照表に記載されている価格よりも実体価値が大幅に低い資産、つまり含み損を抱えた資産が、どこかに計上されているということです。どこか、というのは、二通りしかなくて、貸借対照表のどこかにあるか、簿外に移転してあるか、のどちらかです。簿外に移転したものも、もとは、貸借対照表のどこかにあったのですから、その移転は、損失が実現しないように、簿価のまま行われたのに違いないのです。
 オリンパスの場合、2000年3月時点で、依然として貸借対照表のどこかに隠れていた損失がいくらで、もう既に外部に移転していた損失がいくらであるのかは、もちろん、わかりません。そこまでの推測は、現時点での情報ではできないのです。今後の調査を待つしかない。今できることは、2000年3月時点で、貸借対照表上にあったかもしれない損失についての推測と、損失の簿外移転の方法とみられる資産移動の痕跡についての推測だけです。そして、それらの推測を、新事業3社の買収に絡めて検討すること、これが、今の論点です。
 では、具体的に検討してみましょう。まず、2000年3月期の損失処理は、おそらくは経常利益の範囲内にとどまるように操作された、と考えるのが自然でしょう。つまり、170億円を実現したとしても、なお多くの損失が先へ繰り延べられていた、と思われるのです。しかも、その損失先送りと、新事業3社の買収とが、一定の連関をもつのならば、300億円のファンドへの出資は、損失先送りと関係がなければならない、ということです。では、どうしたら、関係がでてくるのか。
 ここから先は、推測の度合いが強くなるので、注意してくださいね。あくまでも、理論的な可能性をいうだけですよ。
 もしも、「短期特定金融資産」293億円が、損失の塊だったら、つまり中身のないカラッポのものだとしたら、どうでしょうか。そして、300億円のファンドが、293億円の総額を、293億円という簿価のまま、引き取ったとしたら、どうでしょうか。


その場合は、損失の実現がないですね。

 そうです。特定金外信託整理損140億円は、どこか別の個所に計上されていた資産の処分損だった、ということになります。もしもそうなら、損失処理として、140億円は実現、293億円は先送り、ということで、433億円も片づけられたことになります。


140億円の損失が、「短期特定金融資産」293億の中にあったとしたら、どうでしょうか。

 何となく、そのほうが自然な推測のような気がします。その場合でも、おそらくは、293億円の大半が損失だったのではないでしょうか。実体価値のほとんどない293億円を、153億円の価格で、例の300億円ファンドが取得したのかもしれません。この場合は、293億円の損失処理は、140億円の実現、153億円の先送り、という形になりますね。
 どちらにしても、300億円のファンドが、1999年3月の時点でオリンパスの貸借対照表に計上されていた資産のうち、損失を内包していた資産の一部を、簿価で買い取ったであろうことは、推測できます。その資産として、一番怪しいのが、「短期特定金融資産」293億ですが、それ以外にも、細かく分かれて、あちらこちらにあったのでしょう。それらが、簿価で評価して最大300億円相当、2000年3月前後で、ファンドという簿外の形態に、移転したのだと推測されるのです。


次は、ファンドの中における損失の第二次処理の工程ですね。その過程で、新事業3社が登場してくるということですね。

 そのとおりだと思うのですが、どうも、ここからは、事情が非常に複雑になっているようです。といいますのは、もしも、ファンドに移転した損失が300億円未満のもので、しかも、それを時間軸上に分散して小出しに実現していけばいい、というような方針だったとしたら、新事業3社は、登場してこなかったはずだからです。
 私が、注目しているのは、2000年3月期で、170億円もの損失を実現していることです。おそらくは、事の発端は、2001年3月期から金融商品に係る会計基準が導入されることにあったわけです。その前に、先送ってきた損失を実現するなり外部に移転するなりしておこう、というのが経営判断だったのでしょう。その場合、繰り延べた損失は、時間をかけて、目立たないように分割して、小出しに計上していく方針だったのではないか、と推測するのです。
 事実、2002年3月期以降、比較的大きな金額の投資関係の評価損や実現損の計上が、分散して行われています。特に、2002年3月期と2003年3月期だけで、合計して約200億円もの投資関係の評価損と実現損が、計上されているのです。だとすると、このファンドの利用も含め、一連の操作は、単なる時間稼ぎというか、損失の分割計上のための道具にすぎなかったのかもしれないのです。もしもそうなら、損失処理の不適切性は事実としても、著しく不正な処理であったとまではいえないような気がします。
 それから、このファンドが、純粋に損失移転のためだけに作られたのかどうかについても、私にはわかりません。先ほど述べましたように、オリンパスには、一方で、新事業創生という課題もあったわけです。このファンドも、その目的のために、真面目な投資を行っていたかもしれないのです。
 ところが、実際には、この同じファンドを舞台として、新事業3社をめぐる不可解な取引が行われることになる。その背景についての推測は、現時点では、かなり難しい。


そこを敢えて推測するとして、可能性として考えられる背景は、どのようなことでしょうか。

 一つには、オリンパスの貸借対照表に残っていた損失が、あまりにも巨額で、ファンドから資産を別なところへ再移転したうえで、改めてファンドが、オリンパスから別の資産を買い取る、というような循環的操作をする過程で、損失再移転先との関係で、新事業3社が登場してくる、という可能性ですね。
 二つには、すでに、2000年3月期以前に、どこかに損失を含んだ資産が移転されていて、その損失の再処理過程で、新事業3社が登場してくる、という可能性です。
 いずれにしても、新事業3社が損失先送りの道具になるためには、新事業3社が損失を含んだ価値のない資産を簿価で取得する、という段階が必要なのです。その後、オリンパスが、その資産を簿価評価し、新事業3社の株式価値を不当に高く評価したうえで、買収するのでなければならない。つまり、損失の新事業3社への移転は、オリンパスによる買収よりも先行していなければならず、新事業3社は、資産の取得原資を、オリンパスによる買収以前に、用意していなければならない。しかも、その資金の出所は、オリンパス自身でなければならない。
 ここで、一つ考えられるのは、オリンパスが裏念書をいれて、外部から資金を調達した可能性ですね。新事業3社には、オリンパス(300億円ファンドと関係会社を含む)の他に、第三者株主が、それぞれ3名いたのです。この3名が同じ3名なのか別なのかは、現時点では、わかりません。多分、同じ3名だと思われますが。
 この第三者株主が、オリンパスとの事前の裏合意のもとで、自己資金で新事業3社に出資あるいは融資をしておく。そして、新事業3社が、損失を含んだ資産をオリンパスから買いとる。その後、オリンパスが、第三者株主から新事業3社の株式を買い取ることで、事実上の資金の弁済を行う。このような一連の取引が行われた可能性がありますね。
 もっとも、新事業3社が資産を取得するという段階は、省略できます。おそらくは、省略されたのでしょう。第三者株主自身が価値のない資産をオリンパスから買い、そこで損失を受ける。その損失は、価値の小さい会社の株式を著しく高くオリンパスに買い取らせることで、清算する、ということで十分だからです。なお、第三者株主がオリンパスから資産を買う資金は、オリンパスが、直接か間接的に、融資していた可能性もあります。おそらくは、融資したのでしょう。
 さて、第三者株主が本当にオリンパス外部のものなら、オリンパスは、おそらくは、かなり高額な手数料を含んだ買収価格で、株式を買い取ったはずなので、非常に不正の程度の高い、おそらくは違法な取引になるのでしょう。一方、第三者株主が、実は、オリンパス自身の関係企業やファンドであったら、著しく不適切な処理ではありますが、不法とまではいえないでしょう。
 さて、どのような調査結果がでるやら。今回は、オリンパス問題の一部にしか触れられませんでした。ジャイラス買収問題などは、次回にしましょう。

以上


次回更新は、11月17日(木)になります。


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≪ JR三島会社関連≫
2011/10/06掲載JR三島会社の経営安定基金のからくり
2009/07/23掲載JR三島会社の経営安定基金と大学財団
森本紀行

森本紀行(もりもとのりゆき)

HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長

東京大学文学部哲学科卒業。ファンドマネジャーとして三井生命の年金資産運用業務を経験したのち、1990年1月当時のワイアットに入社し、日本初の事業として、企業年金基金等の機関投資家向け投資コンサルティング事業を立ち上げる。年金資産運用の自由化の中で、新しい投資のアイディアを次々に導入して、業容を拡大する。2002年11月、HCアセットマネジメントを設立、全世界の投資のタレントを発掘して運用委託するという、全く新しいタイプの資産運用事業を始める。