株式の価値と価格との関係を巡る議論の迷宮のなかへ

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森本紀行
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<毎週木曜日 11:30更新>

投資運用業における株式投資とは、一般投資家の心理が株価を大きく変動させるなかで、その雑音に惑わされることなく、株式の真の価値を合理的な手法で追求することです。
 
 企業は現金を創造する装置であって、企業が発行する株式の価値は、将来において創造される現金のうち、株式に帰属する現金の現在価値になります。この株式の理論的な価値と、実際の株価との関係については、答えのない長い議論を展開できるわけですが、投資運用業における一般的見解を常識的に表現すれば、株価は、価値と常に一致しないものの、価値に基づいて形成されるので、価値の周辺で推移する、あるいは価値に向かって動いているとなるでしょう。
 しかし、こういえば、直ちに、価値は客観的なものとしては見えないので、株価の基準になり得ないという反論が可能になります。そこで、表現を変えると、多種多様な投資家は、各自の主観的な価値評価に基づいて株式の売買を行い、その結果として株価が形成されるので、株価は投資家の平均的な価値評価であるとなります。
 
そうならば、投資家の平均的な評価において、株式の価値と株価は常に一致しているわけですね。
 
 株価は、投資家の平均的な価値評価に常に一致しているにしても、真の価値とは常に一致しないのです。なぜなら、企業の現金創造の実態に関する詳細な情報は、当然のことながら、集計に時間を要するので、常に遅れて開示されるからです。つまり、投資家が真の価値を適正に評価するのに必要な情報は、常に不足していて、株価が真の価値に向かって動いていくのは、時間の経過とともに、情報が増えていって、それが投資家の価値評価に織り込まれていき、株価に反映されていくからなのです。
 
真の価値などというものは実在するのでしょうか。
 
 ある企業の現金創造活動に関し、現時点までの過去の情報が全て完全に入手でき、将来を合理的に予測し得るだけの十分な情報が明らかになっているとき、その企業の発行する株式について、多種多様な投資家が各自の価値評価を行い、それに基づく活発な取引がなされる結果として、投資家の価値評価の平均値である株価が形成されるのならば、その株価は、まさしく、真の価値そのものになるはずです。
 しかし、過去の情報の開示は常に遅れ、しかも完全ではなく、ましてや将来に関する情報は著しく不足していますから、真の価値は理念的なものにとどまって、株価として実現することはあり得ません。ただし、完全情報という理念的状況のなかでは、真の価値は実在するのですから、実際の株価は、真の価値と無関係に形成されるはずもなく、故に、その周辺で動くと考えられるわけです。
 
真の価値が常に変動するので、株価も常に変動するのでしょうか。
 
 観念的には、社会環境の変動に伴って、株式の真の価値が常に変化し、投資家は、その価値変動を予測し、株式の売買を行うことで、株価が形成されているのですから、価値変化が先行し、株価が追随しているわけです。しかし、真の価値の変化は見えないのですから、表現を変えて、株価は、投資家の期待によって先行的に形成され、遅行的に真の価値の方向へ動いていくとしたほうが現実的です。
 
期待の変化が株価を変動させるわけですか。
 
 株式の価値は、企業の永続性を前提として、その長い将来において創造される現金の現在価値として評価されます。論点は、この時間の長さです。投資家の期待において、創造される現金額の予想が僅かに変化するだけで、将来の全期間における現金創造の期待値が変動してしまうので、価値の評価額の変動は著しく大きくなり得るのです。そして、投資家の期待は、新たな情報のもとで、容易に変化し得るのですから、その結果として、株価変動は大きくなるわけです。
 
新たな情報一つで、投資家の期待は大きく変化し得るでしょうか。
 
 株価、即ち、投資家の平均的価値評価は、既知の情報に基づいて形成されていて、そこに新たな情報が加われば、当然に変化し、このとき同時に、理念としての真の価値も変化している可能性があります。そして、株価は、理屈上は、真の価値の変化幅よりも小さく変動することもあり得るでしょうが、現実には、真の価値の変化幅を大きく超えて、しばしば著しく大きく超えて、変動すると考えられるのです。
 例えば、企業が現金創造を大幅に増大させ得る新技術を開発したとして、それだけの情報では、合理的な方法で将来の現金創造を推計することは不可能なので、株式の真の価値の変動を評価し得ないはずです。しかし、株価は、投資家の楽観的な期待を反映して、急騰するでしょう。こうして、新たな情報のもとで投資家の期待が変化するとき、多くの場合、株式の真の価値と株価との間に大きな乖離が生じ得るのです。
 
その乖離に投資の機会があるということですか。
 
 投資運用業では、こうした投資家の期待の変化は、いわば過剰反応であって、それが投資の機会を作り出すと考えられてきました。つまり、投資運用業者は、知られ得る限りの既知の公開情報を利用して、合理的な評価方法によって、株式の価値を算定していて、専門家の自負として、真の価値に近いものを把握していると信じていますから、専門的知見をもたない一般の投資家によって株価形成が歪められているなかでは、真の価値よりも、高い株価で売り、安い株価で買う機会が常にあると考えているのです。
 
しかし、株価形成が専門的知見をもたない投資家によって常に歪められているのなら、なぜ株価が真の価値に向かって動くといえるのでしょうか。
 
 論点は、情報の完全性のもとでは、それを価値評価において合理的に利用し得る投資家が優勢となって、専門的知見を全くもたない多数の投資家がいても、平均的価値評価としての株価を真の価値とみなし得るという仮定です。この仮定のもとでは、株価が真の価値に向かって動くということは、言葉を変えて、情報の不完全性は、完全性に向かって動くというのと同じなのです。
 そこで、情報は常に不完全であって、情報の完全性は決して実現せず、新たな情報は、一方で、不完全性を是正するとしても、同時に、将来に向けて、新たな不確実性を出現させて、情報を完全化させないとすれば、株価が真の価値に向かって動くとはいえなくなります。実は、これも有力な見解ではあって、この見解のもとでは、理念的な真の価値は実在せず、株式の価値は、投資家の平均的価値評価として、常に株価に一致することになります。
 
情報によっては、時間の経過とともに、完全性に近づいていくものもあり得るでしょうか。
 
 例えば、ある企業について、現金創造に重大な影響を与え得る情報が公表されて、その株価が大幅に変動したとき、その裏では、株式の真の価値も変化しているかもしれません。しかし、それは潜在的な可能性としての価値の変化です。ところが、時間が経過していって、新たな情報が付加されていくと、現金創造に与える影響が次第に明らかになっていっていきますから、真の価値の変化が顕在化してくるはずです。
 この真の価値の顕在化は、高度な専門的知見を投資運用業者の価値評価によって、把握されるものであって、その投資行動が株価の形成に影響を与えることで、株価は真の価値に向かって動いていくとも考え得るのです。つまり、ある種の情報については、単なる期待だけで、株価を先行的に変化させ、時間の経過とともに、専門的知見による分析が加えられて、遅行的に真の価値の方向へ株価を動かしていくと考え得る余地があるわけです。
 
少なくとも、真の価値を把握しようとする努力は、投資運用業者の倫理上の要請ではありますね。
 
 株価は、日々、新たな情報が投資家の期待に影響を与えることで、変動し続けています。しかし、情報は多種多様であって、企業の現金創造に影響を与え、その影響を合理的に測定するのに貢献する情報、即ち、株式の真の価値に影響を与える情報は必ずしも多くはないでしょう。つまり、情報の多くは意味を伴わない雑音なのだと考えられるのであって、投資運用業者に求められるのは、雑音に惑わされることなく、株式の真の価値を追求することに尽きるわけです。
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(文責:ティ)

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森本紀行

森本紀行(もりもとのりゆき)

HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長

東京大学文学部哲学科卒業。ファンドマネジャーとして三井生命(現大樹生命)の年金資産運用業務を経験したのち、1990年1月ワイアット(現ウィリス・タワーズワトソン)に入社。日本初の事業として、企業年金基金等の機関投資家向け投資コンサルティング事業を立ち上げる。年金資産運用の自由化の中で、新しい投資のアイディアを次々に導入して、業容を拡大する。2002年11月、HCアセットマネジメントを設立、全世界の投資のタレントを発掘して運用委託するという、全く新しいタイプの資産運用事業を始める。