投資法人は不動産と動産が一体化したものを取得できるのか

投資法人は不動産と動産が一体化したものを取得できるのか

森本紀行
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<毎週木曜日 11:30更新>

データセンターは、J-REITの対象か、それともインフラファンドの対象か。この問いには、資産性所得と事業性所得の境界、および不動産と動産の境界という難問がからむのです。
 
 今では、東京証券取引所に、いわゆるJ-REIT、即ち、不動産投資法人が上場されていますから、それを利用すれば、個人投資家でも、小口の資金で、不動産の大型物件に投資できるわけです。では、不動産投資法人が取得できる不動産とは、一体、何なのか。
 「投資信託及び投資法人に関する法律」(投信法)の第二条第一項は、投資対象について、「主として有価証券、不動産その他の資産で投資を容易にすることが必要であるものとして政令で定めるもの」としています。この法律が規定する投資対象は、特定資産と呼ばれますが、政令の第三条は、不動産に関連した特定資産として、「不動産」、「不動産の賃借権」、「地上権」を掲げるだけですから、不動産の定義を知るには、民法に遡る必要があります。
 民法は、第八十五条で、「この法律において「物」とは、有体物をいう」として、続けて、第八十六条の第一項で、「土地及びその定着物は、不動産とする」とし、第二項で、「不動産以外の物は、すべて動産とする」としています。有体物は、いかに小さくとも、また、空中に浮かんでいようとも、必ず一定の面積の土地を占めますが、必ずしも、その土地に定着しているわけではなく、定着しているものを不動産といい、定着していないものを動産というわけです。
 
定着とは、どのような意味でしょう。
 
 定着とは、動かせない状態だと考えられます。実際、言葉の語源通りに、土地は動かせないから、不動産であり、土地のうえに存在している物で、その存在位置から動かせない物も、不動産なのです。故に、定着物とは、建物や、土地に置かれた著しく重い庭石等の物体、地上から分離し得ない状態になっている大きな樹木などをいうのです。
 ここに面倒な法律論が生じ得るのは、理論的には、何でも動かせるからです。実際、巨大な庭石でも、大型重機を使うことで、あるいは、細かく砕くことで、動かせるのです。しかし、大型重機を使えば費用が嵩み、庭石を砕けば庭石でなくなります。つまり、動かせないとは、物理的にではなく、経済合理的に動かせないということですから、法律上の判定が困難な場合もあるわけです。
 
では、不動産投資法人は、民法上の不動産なら、何でも取得できるのでしょうか。
 
 不動産投資法人は、法律上は、いかなる不動産でも取得できますが、当然のことながら、実際に取得するのは、投資対象としての価値があるものに限られます。つまり、より具体的にいえば、不動産投資法人の投資対象になるものは、賃貸に供したときに、賃料収入を発生させ得る不動産だけであり、また、逆にいえば、賃貸に供して賃料を発生させ得るものでも、民法上の不動産でなければ、投資対象になり得ないということです。
 
インフラファンドは、不動産投資法人とは異なるのでしょうか。
 
 東京証券取引所は、2015年4月に、インフラファンド市場を創設していて、現状では、5銘柄が上場されています。実は、インフラファンドは、法律上の仕組みとしては、J-REITと同じ投資法人なのですが、投資対象が不動産ではないために、特別な名称のもとで、独立した市場に上場されているわけです。背景にあるのは、2014年の改正に際して、政令の第三条に列挙されている特定資産に、新たに二つが追加されたことです。
 第一は、「再生可能エネルギー電気の利用の促進に関する特別措置法第二条第二項に規定する再生可能エネルギー発電設備」です。同項には、「この法律において「再生可能エネルギー発電設備」とは、再生可能エネルギー源を電気に変換する設備及びその附属設備をいう」とあり、続く第三項において、「この法律において、「再生可能エネルギー源」とは、次に掲げるエネルギー源をいう」として、太陽光、風力、水力、地熱、バイオマスなどが掲げられています。なお、再生可能エネルギー発電設備は、土地等の不動産を含まないので、動産です。
 第二は、「公共施設等運営権(民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律第二条第七項に規定する公共施設等運営権をいう)」です。同項には、「この法律において「公共施設等運営権」とは、公共施設等運営事業を実施する権利をいう」とあって、いわゆるコンセッション(concession)と呼ばれるものになるわけです。
 コンセッションとは、同法の定義によれば、「公共施設等の整備等に関する事業であって、民間の資金、経営能力及び技術的能力を活用することにより効率的かつ効果的に実施されるもの」のうち、「公共施設等の管理者等が所有権を有する公共施設等について、運営等を行い、利用料金を自らの収入として収受するもの」について、その事業の運営権を民間事業者に付与することです。なお、コンセッションは、運営権であって、不動産でも動産でもありません。
 
上場5銘柄の中身を見ると、全て太陽光の発電設備のようですが。
 
 東京証券取引所からすれば、インフラファンド市場は、創設から10年を経過して、順調に発展したとはいえないようです。何よりも、インフラファンドという名称を付けたにもかかわらず、投資対象が太陽光発電設備に限られていることは大きな問題です。また、規模についても、6月末時点において、5銘柄で時価総額約900億円というのは、J-REITの57銘柄で時価総額約15兆4千億円と比較して、非常に見劣りします。
 そこで、東京証券取引所は、「今後のインフラファンド市場の在り方研究会」を設置して検討を進め、今年の3月に、報告書を公表したわけです。報告書の要点は、税制上の技術的な改善を除けば、社会インフラという名前に相応しく、投資対象を拡大させることの必要性につきています。そのなかで、特に重要だと思われる指摘は、資産性所得と事業性所得との境界の見直しと、それと関連した賃貸要件の緩和です。
 
インフラ資産への投資ではなく、インフラ事業への投資も含めるべきだということですか。
 
 投資法人は、法律上、投資信託の一形態なので、その本質は、資産の所有主体であって、決して、事業の経営主体にはなり得ないわけです。つまり、不動産にしても、インフラファンドの投資対象にしても、資産からは自然には収益が発生しないので、投資法人は、資産を事業者に賃貸して、事業者が創造する収益、即ち、事業性所得から、賃料、即ち、資産性所得を受領するほかないのです。この賃貸要件は、法律上の明示的規定がなくとも、投資法人の本質から帰結することです。
 しかし、報告書は、この賃貸要件の必要性に関して、匿名組合出資を例にして、疑問を呈しています。つまり、事業者が匿名組合を組成し、そこに投資法人が出資し、事業性所得の分配を受けても、投資法人は事業経営に関与することはできないので、投資法人の本質に反しないというわけです。
 確かに、賃貸要件のもとで、事業性所得を無理やりに資産性所得に変換させるために、特別な仕組みを介在させる必要はないともいえます。特に、公共施設等運営権の場合、賃貸要件のもとで投資対象に構成するとしたら、理屈上は、運営権を別の事業者に貸すことになるわけですが、それを可能にする仕組みが簡単にできるとも思えないのです。
 
例えば、データセンターを特定資産に加えるとしたら、インフラファンドの対象になるのでしょうか。
 
 データセンターは、今の流行り物ですが、その下の底地と外側の建物は、間違いなく、不動産投資法人の投資対象です。しかし、データセンターの価値は内部に置かれる装置にあって、装置は定着物ではないので、不動産投資法人には取得できないのです。逆に、政令を改正して、インフラファンドの投資対象にデータセンターを含めるとしても、再生可能エネルギー発電設備の例に倣えば、不動産が除外されるので、インフラファンドは内部の装置しか取得できません。
 こうして、資産性所得と事業性所得の境界という難問に加えて、不動産と動産の境界という難問が生じているわけですが、難問なのは、税制特例措置のある投資法人の枠組みで考えるからであって、データセンターを保有する株式会社を作り、その株式に投資するのなら、いとも簡単で、問題ですらないのです。
 
 ≪ 関連する論考をご紹介いたします ≫
株式が投資対象なのは発行体企業が現金創造装置だから(2025.8.7掲載)
不動産投資法人は税制優遇があり、それに対応した規制が課せられます。投資判断する際、税制の優遇によって得られる利益だけこだわらず、それに伴う制約と生じうる利益を合わせて考慮すべきです。

投資対象でないものを投資対象にする技法(2022.3.31掲載)
美術品のような実物資産は、将来的に現金(キャッシュフロー)を生まないため投資対象になりにくいです。しかし、実物という視点に捉われず、現金創出が可能となる仕組みに構成できるならば、資産運用の対象として生かすことは可能です。

投資判断における保守主義の原則(2010.6.17掲載)
不動産を例に、投資における価値判断について述べています。
(文責:ティ)

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森本紀行

森本紀行(もりもとのりゆき)

HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長

東京大学文学部哲学科卒業。ファンドマネジャーとして三井生命(現大樹生命)の年金資産運用業務を経験したのち、1990年1月ワイアット(現ウィリス・タワーズワトソン)に入社。日本初の事業として、企業年金基金等の機関投資家向け投資コンサルティング事業を立ち上げる。年金資産運用の自由化の中で、新しい投資のアイディアを次々に導入して、業容を拡大する。2002年11月、HCアセットマネジメントを設立、全世界の投資のタレントを発掘して運用委託するという、全く新しいタイプの資産運用事業を始める。