スルガ銀行の行政処分は新しい法律のもとでは異なっていたのか

スルガ銀行の行政処分は新しい法律のもとでは異なっていたのか

森本紀行
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不正な方法による融資は、顧客の利益に反する結果を生むと予見され、借金による投資用不動産の購入を勧めることは、顧客属性に照らして、その最善の利益に反する場合が多いのだから。
 
 スルガ銀行は、2018年10月5日に、「シェアハウス向け融資及びその他投資用不動産融資に関して」、多数の不正があったとして、金融庁の行政処分を受けています。処分理由は7点あって、最初の6点は確かに具体的な不正の列挙であるにしても、究極の処分理由は、それらの不正の根源的原因をなすものとして、第7番目に指摘されていることで、そこには次のようにあります。
 「創業家が実質的に当行を支配する中、審査態勢に不備が認められる営業優位の組織を構築する一方で、営業現場を放置したため、営業現場では、創業家の後ろ盾を得た特定の執行役員が、厳しい業績プレッシャー、ノルマ、叱責等で営業職員を圧迫した結果、法令等遵守を軽んじ不正行為を蔓延させる企業文化が醸成されたことが認められる。
 また、取締役会は、特定の役職員に営業方針や施策を任せきりとなり、その内容や結果だけでなく自行の貸出ポートフォリオの構造すら把握せず、適切に監督機能を果たさないなど、経営管理(ガバナンス)に問題があったことも、問題発生の要因と認められる。」
 
処分理由は、不正の横行ではなくて、不正の横行を防止し得なかった経営管理態勢の不備なのでしょうか。
 
 行政処分に懲罰的意味合いがあるかどうかは、一つの難問ですが、行政処分の目的は、原理的には、不正に対する懲罰ではなく、不正の再発防止だと考えられます。なぜなら、仮に、懲罰的意味合いがあるとしても、懲罰の目的も、やはり、不正の再発防止であるはずだからです。故に、行政処分とは、再発防止計画の策定を求めるために、業務改善命令を発出する形式になるわけです。
 そして、不正の発生と放置の根本原因は、常に必ず経営管理態勢の不備にあるわけですから、再発防止計画の骨子は、その抜本的改革になるのですが、スルガ銀行の場合には、経営管理全般の非常に広い範囲に及んで、細かく具体的に徹底的な改革指示を受けている点において、異様を極めているのです。
 
不正に関連した融資事案への対応についても、金融庁は具体的な命令を出しているようですが。
 
 金融庁は、「シェアハウス向け融資及びその他投資用不動産融資に関して、金利引き下げ、返済条件見直し、金融ADR等を活用した元本の一部カットなど、個々の債務者に対して適切な対応を行うための態勢の確立」を求める命令を出していますが、これは極めて細かく個別具体的であって、行政処分としては異例です。実は、この命令の前提となるのは、以下の指摘です。
 「当行では、シェアハウス向け融資を含めた投資用不動産融資を実行する際に、カードローン、定期預金、保険商品等の様々な商品を抱き合わせて販売しているが、これらの取引は、顧客にとって経済合理性が認められない取引となっており、顧客保護上不適切な業務運営となっている。こうした取引の中には、銀行法第13条の3第3号(抱き合わせ販売)に違反する行為が一定数認められる。
 また、当行は、銀行代理業の許可を持たないチャネルに顧客への説明を委ねており、顧客説明態勢に不備が認められる。」
 
その説明では、融資契約そのものについて、スルガ銀行の不正が直接的に債務者に補償されるべき損失を発生させたとはいえないと思われますが。
 
 金融庁は、「当行では、投資用不動産融資を扱う相当数の営業職員が、チャネルによる上記の不正行為を明確に認識、もしくは少なくとも相当の疑いを持ちながら業務を行っていた。中には、当行営業職員が、チャネルに対して不正行為を能動的に働きかけて改ざんを促す事例や、自ら改ざんを行った事例も認められた」としていますが、こうした不正な手続きで生じた融資契約において、手続きの不正さによって、債務者に直接的な損害が発生したとは述べていません。
 
事実としては、債務者の損失が発生していたのでしょうか。
 
 債務者は、投資用不動産を取得するために、スルガ銀行から融資を受けていたわけですが、融資手続きに不正があったとしても、不動産に十分な投資価値があり、融資額が適正であれば、債務者に損失が発生することはなく、仮に金融庁が不正を発見したとしても、その程度によっては、行政処分にまで至らなかったかもしれません。
 しかし、実際には、不正は、不動産価値を高める工作として、また顧客の債務負担能力を高める操作として機能し、その結果として、多くの債務者は、不動産価値を上回る債務を負い、また所得水準に基づく弁済能力を超える債務を負うことで、大きな損失を被っていたと考えられます。
 
では、行政処分の真の目的は、被害を受けた債務者の救済だったのでしょうか。
 
 金融庁は、スルガ銀行の不正にもかかわらず、融資契約が適法に成立していることを前提にしています。そうでなければ、融資契約の変更等を命じるはずはないからです。また、投資用不動産に関する融資なので、債務者の自己責任が大前提になるのであって、債務者に損害が生じても、原理的には、自業自得になるはずです。
 しかし、他方で、融資事案の多くについて、不正なくしては、融資され得なかったはずですから、金融庁としては、債務者の損失について、スルガ銀行の不正との間に因果関係を認めて、一定程度は救済されるべきと判断したと考えられます。そして、おそらくは、この判断こそ、行政処分の根底にあったものです。
 つまり、金融庁が起点において見出したものは、債務者の損失であって、その原因を検討したときに発見されたものがスルガ銀行の不正であり、不正の背景にあるものが乱脈な経営管理態勢だったのですが、それを法律の適用によって行政処分に構成する段階においては、逆に、経営管理態勢の不備から説き起こされるわけです。そもそも、法律の適用とは、常に原点における不公正の発見から始まるものでしょう。
 
端的に、誠実公正義務違反を問うことはできなかったのでしょうか。
 
 当時の「銀行法」は、銀行に対して、「顧客に対して誠実かつ公正に、その業務を遂行しなければならない」という誠実公正義務を課していましたが、精神論的な規定として、具体的な行為については、直接的に義務違反を問い得ないと考えられていたのです。しかし、金融庁が最初に見出したのはスルガ銀行の誠実公正義務違反のはずで、それを行政処分に構成するために、法律上の他の諸規定を間接的に利用したというのが実態でしょう。
 
誠実公正義務は、新しい法律のもとで、改正されていますね。
 
 2023年11月に成立した改正法の「金融サービスの提供及び利用環境の整備等に関する法律」において、金融業態の境界を越えて、全ての金融サービス提供事業者に対して、一元的に、「顧客等の最善の利益を勘案しつつ、顧客等に対して誠実かつ公正に、その業務を遂行しなければならない」との義務が課されました。これにより、「銀行法」等にあった従来の誠実公正義務は全て削除されています。
 従来の誠実公正義務に、「顧客等の最善の利益を勘案しつつ」との文言が付加されたことは、非常に重要な意味をもっています。即ち、第一に、顧客の最善の利益が客観的に規定されれば、誠実公正義務違反が個別具体的に認定され得ること、第二に、顧客の利益に適っている場合にも、顧客の最善の利益には反し得ることです。
 
では、現在の法律のもとで、スルガ銀行の事案が起きると、行政処分の構造は異なるでしょうか。
 
 おそらくは、金融庁は、現在の事案としてならば、端的にスルガ銀行の誠実公正義務違反を認定したのではないかと思われます。なぜなら、第一に、不正を犯さなければ実行し得ないような投資用不動産向け融資案件において、債務者に損失の発生することは十分に予見し得たはずなので、顧客の最善の利益を勘案したとはいえないからです。
 更に、より重要な点として、第二に、仮に、顧客の利益に適うように、適正に融資がなされていたとしても、投資用不動産の購入のために借金を勧めること自体、そこに大きな損失の可能性があったのであって、顧客の所得等の属性に照らしたとき、その最善の利益に反する場合が多かったと推測されるからです。
  ≪ 関連する論考をご紹介いたします ≫
スルガ銀行の何がいけないのか(2018.6.14掲載)
金融は所詮虚業であり、本来の目的を実現する手段にすぎません。金融の顧客本位は本来の目的を勘案せねばならず、スルガ銀行の問題は無思慮なルールの反復にあります。

金融機関が顧客に質問して正しい答えを得る方法について(2017/9/14掲載)
正しい情報を提供すれば、より優れたサービスを受けられるという保証があれば、金融機関は顧客との高度な信頼関係を築くことができます。

売るも親切、売らぬも親切の誠実公正義務(2024.1.25掲載)
誠実公正義務の履行は顧客満足ではなく顧客本位です。顧客本位のもとでは、「貸さぬも親切」が法理と成り得ます。
(文責:城)

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森本紀行

森本紀行(もりもとのりゆき)

HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長

東京大学文学部哲学科卒業。ファンドマネジャーとして三井生命(現大樹生命)の年金資産運用業務を経験したのち、1990年1月ワイアット(現ウィリス・タワーズワトソン)に入社。日本初の事業として、企業年金基金等の機関投資家向け投資コンサルティング事業を立ち上げる。年金資産運用の自由化の中で、新しい投資のアイディアを次々に導入して、業容を拡大する。2002年11月、HCアセットマネジメントを設立、全世界の投資のタレントを発掘して運用委託するという、全く新しいタイプの資産運用事業を始める。