パブリックな市場ではパッシブに、プライベートな市場ではアクティブに

パブリックな市場ではパッシブに、プライベートな市場ではアクティブに

森本紀行
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アクティブ運用の代表であるバリュー投資は、パブリックな市場では、パッシブ運用に押されて衰退していますが、プライベートな市場では健在です。今や、投資の王道はプライベートです。
 
 投資対象としての資産の価値は、将来において回収される現金の現在価値ですが、将来の現金は不確実ですから、誰にも資産価値はわからず、資本市場においては、参加者は、資産価値について様々に異なる勝手な期待を抱き、それに基づいて資産の売買を行っているだけです。しかし、こうして形成される価格は、市場の参加者の平均的期待を反映しているのですから、市場価格は、社会的に評価された資産価値であると考えられます。
 
市場が効率的であるとは、資産価格が資産価値に一致しているという意味ですか。
 
 市場において、不特定多数の多様な参加者は、公正公平な条件のもとで、即ち、誰も情報の優位をもたないという条件のもとで、自分の好き勝手な思惑で取引を行うと仮定したとき、形成された価格は、効率的である、即ち、全ての情報を反映した公正価格であると考えるのが効率市場仮説です。
 この仮説のもとでは、資産価格は資産価値の最も信頼性の高い指標になりますが、そもそも、真の資産価値は、神のみぞ知るもので、誰にも知られ得ないのですから、市場で公正に形成された価格をもって資産価値とみなすことは、極めて常識的なことであるだけでなく、他に適当な価値の指標もないわけです。
 
価格が平均的な価値評価の指標だとしたら、価値と価格は一致していないということですか。
 
 市場には様々に異なる参加者の価値評価があって、その平均として価格形成がなされるのですから、平均の上下に平均とは異なる価値評価のあることは自明です。価格が価値よりも高い状態を割高といい、価格が価値よりも低い状態は割安と呼ぶのですが、要は、市場においては、どの投資対象の資産についても、参加者の半分は割高だと思い、他の半分は割安だと思っているのです。
 
価値と価格の関係を考えない人も多いのではありませんか。
 
 厳密にいえば、価値と価格の差について考える人のうち、半分は割高だと思い、他の半分は割安だと思っているのです。そして、価値と価格の差について考える人は、割高なものを売り、割安なものを買うというように、アクティブ運用の信奉者、即ち、考えた結果を投資行動に活かそうとする人です。
 しかし、他方で、価値と価格は一致していると考える人、割高と割安の原因を考える意欲のない人、割高と割安の原因は知り得ないと考える人、割高と割安の原因を投資行動に活かしても十分な成果を生み得ないと考える人も少なくないはずで、そうした人々は、効率市場仮説を実用化したインデクス運用の信奉者になっているわけです。なお、インデクス運用は、アクティブ運用の反対で、パッシブ運用とも呼ばれます。
 
現在では、インデクス運用は、多種多様な資産種類について、普及しているようですね。
 
 株式、債券、その他、どのような資産種類についても、ある条件で、市場、即ち個別銘柄の属する範囲を定義できれば、その市場を代理する指数、即ちインデクスを作成できるので、そのインデクスに追随することを目的とするインデクス運用が可能になります。実際、今や、多種多様な資産について、多種多様なインデクスが定義され、それらのインデクスに追随する多種多様なパッシブ運用が存在していて、伝統的なアクティブ運用を凌駕して、資産運用の主流になっています。
 
廃れ行くアクティブ運用のなかで、バリュー投資も過去のものでしょうか。
 
 英語のバリューは価値のことですが、投資の世界では、バリューは価格を上回る価値を意味し、割安はバリューのある状態のことになります。そして、バリュー投資とは、割安な銘柄を探し、割安になっている原因を検討し、割安が解消に向かうとの確信を得て、その割安な銘柄に投資することです。当然のことながら、割安な銘柄は、割安が解消に向かう過程で、相対的な価格の上昇率が高くなると期待されているわけです。
 バリュー投資は、投資対象の価値についての考察から出発し、市場で形成される価格の妥当性を検証するものとして、投資の基本であり、それ以前に、現象の背後の本質に迫ろうとするものとして、人間の知的営みの基本です。それに対して、インデクス運用は、現象としての価格を素直に受け入れるものとして、知的営みの放棄です。故に、バリュー投資は過去のものではあり得ず、永遠に健在でなければならないのです。
 
バリューといえば、カタリストですね。
 
 英語のカタリストは、化学でいう触媒の意味で、触媒は、岩波書店の国語辞典によれば、「化学反応の際に、それ自身は変化せず、他の物質の反応速度に影響する働きをする物質」のことです。
 バリュー投資においては、バリューが解消に向かう動きを化学反応に喩えたうえで、その動きの「反応速度に影響する働きをする」ものとして、カタリストが論じられます。カタリストが重要なのは、バリューが解消するまでの時間は、投資収益率に決定的な影響を与えるからです。
 
万年割安では、割安ではないのですか。
 
 万年割安とは、割安のような外貌を呈しているにもかかわらず、いつまでたっても割安が解消しないことです。しかし、投資の世界では、成果を生まない投資判断は誤った判断なのですから、割安が解消しないときは、割安だという判断が誤っているのです。万年割安は、英語では、バリュートラップ、即ち、バリューの罠と呼ばれますが、罠とは、バリューのように見せかけた偽りのバリューという意味です。
 表現を変えれば、バリューがあり、バリューが解消する可能性があるように見えても、可能性が可能性にとどまる限り、そのバリューは、カタリスト不在のバリューなのです。カタリストがなければ化学反応は起きず、化学反応が起きなければ、バリューは解消し得ないということです。
 
カタリストを備えたバリューとは、どのようなものでしょうか。
 
 バリューが生じるには、原因となる事象があったのであり、その事象を契機として割安に転じた過程を逆転させれば、バリューは解消するはずで、その逆転の契機となるものがカタリストですから、カタリストとは、バリューを生じさせた契機と同一のものです。故に、バリューがあるとの投資判断には、カタリストの所在を内包しているのであって、カタリスト不在のバリューは、投資判断として、あり得ないのです。
 
人は、むしろ、バリューよりも、カタリストに着目するのではないでしょうか。
 
 不動産投資の専門家は、漫然と街を歩くわけではなく、管理の悪い建物、テナント政策を改善すべき建物、用途変更の余地のある建物などを注意深く探しながら歩くのです。そして、興味を引く物件を発見したとき、専門家として、あるいは、それ以前に、知的好奇心をもつ人間として、頭のなかで改良計画をたて、改良後の価値を計算したうえで、価格を調査し、そこにバリューを発見します。こうして、バリューの発見は、バリューを生み出す原因の発見であり、同時に、カタリストの発見なのです。
 
不動産のような実物資産投資では、投資運用業者は、能動的にカタリストを機能させ得ますが、株式や債券などの投資では、受動的にカタリストの到来を待つほかないのではありませんか。
 
 まさに、そこが本質的な問題で、受動的にカタリストの到来を待つだけでは投資になりません。故に、上場株式や公募債券に代表されるパブリックな資本市場、即ち公開資本市場でのバリュー投資は衰退したのです。今や、真のバリュー投資は、プライベートな資本市場、即ち、不動産等の実物資産、プライベートエクイティ、融資等の私的関係性のなかで実行される投資に活躍の主舞台を移動させているわけです。
 
プライベートな資本市場では、市場価格は存在しませんね。
 
 パブリックな資本市場では、価格が先にあり、価格との関係において価値評価があるのに対して、プライベートな市場では、投資の基本に忠実に、価値評価が先にあります。つまり、売り手の価値評価と買い手の価値評価が先にあり、双方の対等な交渉により、公正価格が形成されるのです。故に、不特定多数を前提とした効率市場仮説とは全く異なり、特定当事者間の取引で、価値と価格の一致が実現するわけです。
≪ 関連する論考をご紹介いたします ≫
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(文責:杉本)

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森本紀行

森本紀行(もりもとのりゆき)

HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長

東京大学文学部哲学科卒業。ファンドマネジャーとして三井生命(現大樹生命)の年金資産運用業務を経験したのち、1990年1月ワイアット(現ウィリス・タワーズワトソン)に入社。日本初の事業として、企業年金基金等の機関投資家向け投資コンサルティング事業を立ち上げる。年金資産運用の自由化の中で、新しい投資のアイディアを次々に導入して、業容を拡大する。2002年11月、HCアセットマネジメントを設立、全世界の投資のタレントを発掘して運用委託するという、全く新しいタイプの資産運用事業を始める。