AIJ問題は投資運用業の埒外における犯罪的行為である

AIJ問題は投資運用業の埒外における犯罪的行為である

森本紀行
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<b><font size="3" color="red">※3/23・緊急増補</b></font> <b>3月23日の金融庁によるAIJの行政処分を受けて</b>

 3月23日に、金融庁AIJに対する行政処分を行いました。投資運用業者としての登録の取り消しです。下記論考は、前日の3月22日に仕上げたもので、この処分内容が発表になる前の情報に基づいています。しかし、歴史的な記録として意味があるので、そのままの状態で掲載しておきます。結論的には、私の主張が正しかったことが証明されたと思います。大変に、うれしい。
 ただし、若干、本稿の内容を補足したほうがいいところもありますので、金融庁発表の「AIJ投資顧問株式会社に対する行政処分について」に基づき、以下のとおりの追加をいたします。
 第一に、細かいことですが、ファンドの名称です。私が、「エイム・ミレニアム・ファンド」と呼んでいるものは、金融庁がいうところの、「AIMグローバルファンド」(以下「AIMファンド」)のことです。どうやら、浅川は途中で名称を変えたようですね。私の入手した資料は確かに少し古いようです。
 第二に、このAIMファンドの下に子ファンド(金融庁発表にいうサブファンド)があったことが確認されました。私は、完全な確信がなかったので、別な可能性にも言及していますが、やはり、不正は子ファンドの基準価格の操作にあったのです。
 第三に、まともな資産運用など全く行われていなかったことが確認できました。浅川は、なんと驚くべきことに、「虚偽の基準価額の算定に当たっては、当社社長は、自らの相場観に基づき決定した一定の数値を虚偽の基準価額として算出していた」とのことです。つまり、ファンドの中の資産の評価を偽るどころか、そもそもが、中身に実体のないファンドの基準価格を適当に作っていたのです。私も、ここまで出鱈目だとは想像すらできませんでした。完全な詐欺です。資産運用とは何も関係なかったのです。
 第四に、「AIMファンドが出資している投資事業組合に解約請求に係る外国投資信託受益証券を虚偽の基準価額で買い受けさせているなど、ファンドの財産を不当に流出させている」との指摘があり、浅川が「非公開株式投資」と称していたものが資金操作と資金流出の舞台であったことも、確認できました。
 第五に、同日付けでITM証券も行政処分を受けました。当然ですね、共謀ですから。
 第六に、現段階では、忠実義務違反による金融規制上の行政処分にすぎませんが、内容を判断するに、詐欺的犯罪性は明瞭ですから、遠からず刑事事件になると思われ、私の主張の正しさが証明される日も近いと確信できました。大変に、うれしい。

※以下からが、3/22分の更新になります。

前回に続いて、またもAIJ、抑えきれない怒りに手が震える中での渾身の論考ですか。今回は、どこへ激しい怒りの鉾先が向かうのでしょうか。

 自見金融担当大臣の3月16日の記者会見から引用します。これほど長々と引用するのは気が引けるのですが、よくわからない日本語を牛の涎のように切れ目なく話しているので、しかたがない。

「(投資運用会社が)最初からこういった、何か正しくないことをしようと思ってやられたら、もうそれは手に負えないなどということを、どこかの会長が言っておられましたけれども、私は経済人というのは、当然ですが、法律もありますけれども、同時にモラルというのもきちんと、当たり前ですけれども商業道徳といいますか、それがあってしかるべきだと思いますよ。私は法律以前に、人をだましてはいけないとか、うそをついてはいけないというのは、近代資本主義の発展の大変大きな心理的ベースでもございますから、そういったところ、金さえ儲ければ何をしてもいいのだというふうな、一部、特にアメリカのリーマン・ショックの時代にも色々な事件がございましたけれども、そこはきちんとやっていく必要がある」

 さて、これは何をいいたいのだ。常識的な解釈としては、次のようなことになるのではないでしょうか。即ち、AIJが、悪意をもって犯罪的な手法を用いることで、巨額な資金をどこかへ消失せしめたとして、そのような不正が可能であるような投資運用業界の商業道徳が問題なのだ、というふうには聞こえないでしょうか。自見大臣の真意はわかりませんが、かような発言は、投資運用業界全体の社会的信用を不当に傷つける侮辱的発言と受けとられてもしかたないし、現に、私は、そのように受けとめます。金融担当大臣なら、立場を弁えて気をつけて発言しろ、といいたい。


でも、AIJのしたことは道徳的に問題ありますよね。

 当たり前じゃないですか。私がいいたいのは、AIJの行為は、商業道徳以前の問題であり、商業ですらない詐欺的行為の問題であり、投資運用業界の倫理規律の外に大きく逸脱した問題だ、ということです。つまり、AIJを論ずるときに投資運用業界全体を引き合いにだすことは、甚だしく世論を誤導するものであり、不当であり、迷惑千万だ、ということです。一般人ならともかく、金融担当大臣の職にあるものが、そのような不見識なことでは困るのだ、といっているのです。
 自見大臣は医者です。医者も人間だから罪を犯します。一医師の特異な犯罪をとらえて、医師全体の倫理問題を議論されたら、自見大臣だって怒りますよね。確信をもって犯罪が行われたら、業界として、それを防げますか。自見大臣が「どこかの会長」といっている方は、単に、そのような自明のことをいわれたにすぎない。


しかし、資産運用の専門家と違って、一般の人は、このような不正が可能であること自体に不信感をもってしまうのではないでしょうか。

 そうだと思いますよ。だからこそ、金融制度の信用を維持することは、金融行政にとっての最重要の政策課題になるのではないでしょうか。投資運用業における投資というのは、銀行業における融資と並んで、産業金融の重要な基盤です。そこの信任を、自見大臣の軽率な発言と行動(前回の論考で指摘した全投資運用業者の調査)が、揺るがしているのです。全くもって、金融行政の長として、あるまじきことです。


業界への不信を取り除くためには、一刻も早く、AIJの事案の犯罪性が明らかになることですね。

 当然です。AIJは、金融庁の問題であるよりも、検察庁の問題です。それにしても、なぜ、検察の動きが遅いのでしょうか。いらいらします。現在に至るも、AIJの事件は「重大な疑念」の域をでていない。それを、報道機関は、さも資産運用上の問題であるかのような報道を繰り返し、また、金融庁自身が、不適切な全投資運用会社の調査を行うなどして、特定個社における「重大な疑念」を、投資運用業界全体の問題にしてしまった。私は、そこの不当性をいっているのです。
 皆さん、冷静に考えてください。もしも、最初の報道が、「企業年金を舞台とした大規模な詐欺事件」というものだったら、現在のような状況になったでしょうか。企業年金全体の問題や、投資運用業界全体の問題になったでしょうか。そして、今後、検察の手によって事案の犯罪性が明らかになったとき、これまでの騒ぎは一体何だったのか、ということにならないでしょうか。


今回の事案が犯罪性のものであると信じる理由は何でしょうか。

 第一に、資産運用の専門家としての経験と良識に基づく判断です。金融庁が「重大な疑念」といっていることの具体的な内容は、資産の運用状況が不明となっているという通常の資産運用ではあり得ない状況です。資産運用の専門家として、そのような状況が真面目な資産運用からは生じ得ないことは、すぐにわかります。
 第二に、金融庁が「重大な疑念」だけを理由に行政処分に踏み切っていることです。処分事由の特定のないままに処分に踏み切ることは、異例です。「疑念」という言葉の裏には、強く反社会的行為の存在を推測させます。なお、報道機関は、そのことを十分に意識してのことだと思いますが、「年金消失」などという変な表現を用いていますね。消失ですよ、損失ではなくて。


具体的に、どのような詐欺的な手法が用いられたのでしょうか。

 金融庁は、さすがに、現時点では概要をつかんでいるのだと思いますが、正式な公表は控えていますね。もしかすると、刑事事件へ立件するには、まだ、証拠が不十分なのかもしれません。ですから、ここは推測するしかない。
 推測するとはいっても、専門的な知見を動員して考察すれば、それなりの確度で事態を把握できるような気がします。また、私は、AIJの浅川から説明を直接に聞いたことがありますし、同社が使っていた営業資料も入手しています。ですから、どこに問題があったか、ある程度は見通しをつけられます。


では、AIJの運用、といいますか運用ですらなかったのでしょうが、まあ、一応は運用と称するものは、どのような形で行われていたのでしょうか。

 AIJは、実は、直接の運用会社ではなかったのです。企業年金から資産運用を受託するためには、投資運用業の登録が必要です。AIJという会社は、その形式要件を満たすために使われていた、いうなれば単なる「箱」です。
 現実に運用をしていたのは、エイム・インベストメント・アドバイザーズ(以下エイム)という海外(英領バージン諸島)に籍のある会社です。このエイムが運用していたのが、エイム・ミレニアム・ファンド(以下ミレニアム)というケイマン籍の私募投資信託でした。
 ミレニアムには、独立した外部の資産管理会社(バンク・オブ・バミューダというHSBCグループの会社で、この分野では実績のある大手です)がついており、また、外部監査法人(グラント・ソーントンという法人です)の監査も受けていました。
 年金基金がAIJと投資一任契約をした後は、年金基金の資金はAIJの運用指図によってエイムが運用するミレニアムに投資される、というのが仕組みだったのですが、実は、このような仕組みは、必ずしも特殊なものではなく、むしろ、一般的なものですらあるのです。また、ミレニアムには、独立した管理会社と監査法人がついていたのですから、その限りでは、何ら怪しむべき点もなかったのです。このように、表面の構造を巧みに整えていたからこそ、年金基金からの受託が可能となり、不正が発覚せずに長期にわたって続いたのです。


しかし、一方では、仕組みに不自然さもあったといわれているようですが。

 第一に不自然なのは、AIJとエイムの関係です。実は、この二つの会社は、共に浅川が事実上支配する会社だと考えられているのです。しかし、表面的には、両者の資本関係はなかったのですから、その一体性を示すものはなかったのです。
 実際の運用というか不正な操作は、形式的には、AIJの指示のもとにエイムが行っていたのだと思われますが、両社は事実上一体だったので、どちらが主役であったかという論点は、意味がないでしょう。ただし、金融庁の行政処分の対象になっているのがAIJにすぎないことは、大きな問題です。形式上の実行犯は、あくまでもエイムです。エイムを押さえなければ、事案の実態解明はできないのではないかと思われます。
 なお、AIJは、ほとんど投資顧問料をとっておらず(2010年の一年間の投資顧問料収入は僅かに7900万円)、法外な運用報酬は全てエイムにつけていました。これも、実に不自然なことです。
 第二に不自然なのは、ITM証券の存在です。実は、このITMも、浅川が実質的に支配する会社だと考えられるのです。ITMはミレニアムの販売代理人になっていましたが、年金基金はAIJとの間の投資一任契約を通じてミレニアムに投資していた以上、年金基金とミレニアムとの間にITMを介在させる必要はなかったのです。実際、私の知る限り、証券会社を販売代理人として介在させるような年金基金の資産運用は、みたことがない。ここは、非常に不自然なところです。
 ところが、ITMを介在させた浅川の意図は明白であるような気がします。実は、ITMは契約額の3%という法外な販売手数料を得ていたのです。これは、浅川が不当に販売手数料を得るために強引に導入した手法だと思われるのです。なお、ITMについては、不正への関与が明瞭であるにも関わらず、現時点に至るも金融庁の行政処分を受けていない。一体どういうことなのでしょうか。
 第三に不自然なのは、ミレニアムの運用の中身です。実は、ミレニアムは、直接に資産を運用していたのではなくて、複数の別なファンドに投資をしていたと思われます。不正の舞台になったのは、ミレニアム自体ではなくて、親ファンドのミレニアムが投資していた複数の子ファンドであったと思われるのです。
 しかも、これらの子ファンドの運用会社はエイム(同時に一体のものであったAIJ)であり、資産管理会社もまたエイムが兼ねていたのだと思われるのです。そしておそらくは、これら子ファンドは、外部監査を受けていなかったのだと思います。
 浅川は、これらの子ファンドのうち少なくとも一つが非公開株投資をするものであることは、公言していました。しかし、一方で、その投資内容について一切開示できないということも、堂々と公言していました。おそらくは、他の子ファンドも同様で、程度の差こそあれ、その運用実態(例えば、保有銘柄一覧など)の開示は、ほとんど行われていなかったのだと思います。この開示の不備が、第四の、そして最も不自然なところです。
 なお、複数の子ファンドがあったであろうというのは、私がAIJの営業資料等から推測していることです。ミレニアムが非公開株式を含む複数の戦略に投資するものであったことは間違いありませんが、戦略毎に子ファンドがあったかどうかは、知られている情報だけからは断定できません。しかし、ミレニアム自体に独立した管理会社と監査法人がついていたことを考えると、ミレニアム自体の中で大規模な不正を行うことは困難だったと思えます。
 逆に、子ファンドを作り、その管理をエイム(とAIJ)が受けてしまえば、不正が容易だったはずです。しかも、ミレニアムの管理会社や監査法人の立場からいえば、エイムが評価した時価と、その時価から算定された子ファンドの基準価格については、それを信じるに足るだけの外的要件を充足してさえいれば、その精査などは行う必要も義務もなかったのではないかと思われ、だからこそ、不正が見抜けなかったのだと思われるのです。また、ここでは、ファンドからファンドへ投資する形にして不正を隠蔽する手法がオリンパスの不正で使われたものであることも、考え合わせました。
 もしも、子ファンドを使わずに不正をしていたとしたら、管理会社と監査法人を欺くために保有資産等の時価情報等の操作を行う必要がありますが、そうするためには、証券会社等の外部の協力者が必要です。マドフの事件の場合はマドフ自体が証券会社だったからできたことですが、普通は考えにくいですね。もっとも、ITMというのは、そのための証券会社だったかもしれませんが。
 もしかすると、外部証券会社の問題は、第五の不自然さといえるかもしれません。というのも、AIJの営業資料では、プライムブローカー(空売りを行い頻繁な売買を繰り返すヘッジファンドなどで使われる仕組みで、取引相手方として特定されている証券会社)の名前を「非開示」としていたからです。普通は開示するのが当たり前ですから、ここも非常に不自然ではあったのです。


不正内容というのは、子ファンドを使っていたかどうかはともかく、ファンドの中の資産の時価評価が適正に行われておらず、事実上無価値の資産に高い時価がつけられていた、ということなのでしょうね。

 理屈上は、そういうことですよね。資産の管理会社をエイムにするなり、ITMや外部の証券会社等を協力者として使うなりして、そうした不正を可能にしていたのでしょう。具体的な架空資産の計上方法はわかりませんが、概ね、オリンパスの手法と似たようなものであったのではないでしょうか。
 AIJの不正は、多くの点で、オリンパスの会計不正と似ているような気がします。要は、不正を行うとの明瞭な意思のもとで、関係者内部だけで情報を隠蔽してしまえば、実体価値のない資産の計上という大胆な不正手法といえども可能になってしまい、またその摘発は容易ではない、ということです。
 逆にいえば、不正を行うとの明瞭な意思と、敢えて不正を行うことを承知の上で協力する者がいない限り、即ち、大規模な組織犯罪として行うのでない限り、オリンパスの事案も、AIJの事案も、あり得ないということです。ですから、AIJ問題は、資産運用の問題ではなくて詐欺的犯罪の問題である、と確信をもって繰り返し述べているのです。


多くの不自然な点があるのにもかかわらずAIJを使っていたのだとしたら、委託していた年金基金側の責任が重いということになるのでしょうか。

 私の資産運用の専門家としての立場からいえば、意味もなくITMが介在して法外な手数料を取ること、AIJとエイムの関係が不明瞭であること、ミレニアムの実際の運用実態に関する情報がとれないこと、この三つの要件だけによっても、AIJは採用できない運用会社ということになります。
 しかし、私のような基準を年金基金一般に課してよいかどうかは、議論のあるところでしょう。先ほど述べましたように、外部の管理会社と監査法人がついていたミレニアムなのですから、不自然なところはあったにしても、確定的に犯罪的といえるようなものではなく、形式的には投資できなくもない外貌を備えていたことには、留意いただきたいと思います。


金融庁も、多数の不自然さは認知していたのですよね。なのに、なぜ、早期に摘発できなかったのでしょうか。

 私は、多くの不自然さにもかかわらず運用委託した年金基金の責任をいうならば、同じように、多くの不自然さにもかかわらずAIJへの検査を長年行わなかった金融庁の責任、ITMを検査したときにAIJとの関連を見過ごした金融庁の責任は、もっともっと比較にもならないくらい重いと思っています。

以上


次回更新は、3月29日(木)になります。

≪ AIJ年金消失問題過去記事≫

2012/03/29掲載東京電力とAIJにみる報道の良識と国民の批判精神
2012/03/22掲載AIJ問題は投資運用業の埒外における犯罪的行為である
2012/03/15掲載AIJ年金消失問題という問題
森本紀行

森本紀行(もりもとのりゆき)

HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長

東京大学文学部哲学科卒業。ファンドマネジャーとして三井生命(現大樹生命)の年金資産運用業務を経験したのち、1990年1月ワイアット(現ウィリス・タワーズワトソン)に入社。日本初の事業として、企業年金基金等の機関投資家向け投資コンサルティング事業を立ち上げる。年金資産運用の自由化の中で、新しい投資のアイディアを次々に導入して、業容を拡大する。2002年11月、HCアセットマネジメントを設立、全世界の投資のタレントを発掘して運用委託するという、全く新しいタイプの資産運用事業を始める。