[緊急特別レポート!!]一番儲けたのは誰だ!マドフ事件レポート③

森本紀行
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まずは最初に、お断りですが、Madoffはメイドフと発音するほうが原音に近いようですが、既に、マドフで定着した感があるので、マドフで通します。

 マドフとフィーダー・ファンドの関係は先のレポートで説明したとおりです。フィーダー・ファンドは、投資家なのではなくて、マドフのために、もしくはマドフを使って資金を集めていた当事者です。仮に、フィーダー・ファンドの運用会社が、マドフを信じきっていたとしても、法律上の運用者としての責任は免れないのであって、投資家としての立場で、被害者として保護されるものではあり得ないのです。
 一方、当然に、被害者としての投資家もいるわけです。それは、マドフとフィーダー・ファンドの運用会社を信じて、フィーダー・ファンドへ直接に投資していた最終投資家です。まさに、保護に値する投資家です。少し微妙なのは、最終投資家に替わって、ファンド選択のプロとして、報酬を受けとりながら、マドフに投資していた投資家です。具体的には、プライベート・バンク(private bank)などの主として個人富裕層向けの資産運用サービスを展開している運用会社と、ファンド・オブ・ファンズ(fund of funds)を運用している会社です。

マドフが実質的に運用していたファンドは、フィーダー・ファンド形態のもの以外に、セパレート・アカウント(separate account)形態のものがあるようです。

セパレート・アカウントというのは、マドフの運用専用に開設された個別口座のことで、実質的にはフィーダー・ファンドと同様の役割を演じているものです。プライベート・バンクやファンド・オブ・ファンズは、フィーダー・ファンドのどれかを経由して投資していたほか、セパレート・アカウントを通じて直接にマドフを使ってもいたようです。
 これらのプライベート・バンクやファンド・オブ・ファンズは、フィーダー・ファンドやマドフの運用そのものを調査分析して、その評価に基づいて、マドフに投資していたのです。フィーダー・ファンドの運用会社が、運用者・販売者としての重い責任を負うのに対し、評価者・選択者としての、必ずしも軽くない責任を負うのです。軽くないというのは、プロとして、調査・評価・選択に対する報酬を得ているからです。
 金額的にみますと、フィーダー・ファンドは、既に述べましたように、判明している5大ファンドだけで175億ドル(1ドル90円として1兆5750億円)、その他判明していないものや、小規模なものをあわせると、もう少し増えるのだと思われます。一方、それ以外に、プライベート・バンクや、ファンド・オブ・ファンズなどが、セパレート・アカウントその他を通じて、実質的にマドフに投資したものも、相当な金額に上るようです。中には、運用額の大半、あるいは、ほぼ全額が、実質的にマドフに投資されていたものも多いようです。要は、プライベート・バンクの口座やファンド・オブ・ファンズといっても、実質的には、マドフのフィーダー・ファンドと同じ機能をしていたものが、多数あるのです。
 そういうものの中で、規模の大きなものとして、オーストリアのプライベート・バンクであるバンク・メディチ(Bank Medici)があります。同社は、ヘラルド(Herald USAおよびHerald Luxembourg)というファンドを通じて、21億ドル(1ドル90円として約1890億円)をマドフに投資していたとされます。同社の預かり資産の総額が33億ドルといいますから、三分の二が、マドフに投資されていたことになります。

このバンク・メディチについては、特筆すべきことが、二つあります。

いずれも、マドフ事件の本質にかかわる重要な論点です。第一は、このバンク・メディチの創業者で、同社の75%を所有するソニア・コーン(Sonja Kohn )氏が、マドフの古くからの友人とされ、同じユダヤ社会に属していることです。この点は、フィーダー・ファンドの一つアスコットを運用していたガブリエル社の経営者であるエズラ・マーキン(Ezra Merkin)氏が、やはりマドフの古くからの友人であり、米国ユダヤ社会の大物であるのと共通しています。今回の事件の大きな特色は、マドフも、投資家層も、フィーダー・ファンドなどを提供した表面上の運用者も、みな同じ狭いユダヤ社会に属していることです。コミュニティの信頼を基礎にして巨額の資金を集めながら、そのコミュニティの信頼を裏切っていることが、なんとも痛ましいわけです。

第二の点として、世界有数規模の金融機関が関係していることです。

実は、バンク・メディチの残りの25%は、欧州有数の大銀行であるユニクレディット(UniCredit)が所有しています。このユニクレディットは、同時に、パイオニア(Pioneer Investments)という大手の資産運用会社も所有していますが、パイオニア社は、どうも、このバンク・メディチの運用するヘラルドというファンドの大口の投資家であったようです。本レポートの第一回で、マドフに投資していた会社として、このパイオニアの件に触れましたが、そこでも指摘しておいたように、パイオニアとバンク・メディチのマドフへの投資額を単純に足してしまうと二重計上になるということです。いずれにしても、ユニクレディットのような大銀行グループの名前が、マドフに信用力を与えたのは間違いありません。
 また、やはり欧州有数の銀行バンコ・サンタンデール(Banco Santander)も、傘下のオプティマル(Optimal Strategic)というファンド・オブ・ファンズを通じて、実に23億ユーロ以上(1ユーロ120円として約2800億円)もの金額を、専用のフィーダー・ファンドを使ってマドフに投資していたようです。このような金額は、バンコ・サンタンデールという名前を抜きには、集め得なかったのではないでしょうか。その他、前のレポートでも触れたように、有力フィーダー・ファンドの一つ、ライ・セレクトの運用者はトレーモントですが、その親会社は、米国大手保険会社のマサチューセッツ・ミューチュアル(Massachusetts Mutual)社です。マドフへ投資していた有力ファンド・オブ・ファンズ運用会社のRMF社は、ロンドンの上場しているマン(Man)社の一部門ですが、マン社はヘッジファンドの業界では最大手クラスの著名な会社なのです。マドフ事件の顕著な特色は、こうした著名かつ巨大な金融グループを舞台にしていることです。
森本紀行

森本紀行(もりもとのりゆき)

HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長

東京大学文学部哲学科卒業。ファンドマネジャーとして三井生命(現大樹生命)の年金資産運用業務を経験したのち、1990年1月ワイアット(現ウィリス・タワーズワトソン)に入社。日本初の事業として、企業年金基金等の機関投資家向け投資コンサルティング事業を立ち上げる。年金資産運用の自由化の中で、新しい投資のアイディアを次々に導入して、業容を拡大する。2002年11月、HCアセットマネジメントを設立、全世界の投資のタレントを発掘して運用委託するという、全く新しいタイプの資産運用事業を始める。