またまた、不動産なるものについて

森本紀行
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前回コラム(2011/2/17)再び、不動産なるものについて


なぜ、不動産投資といえば、不動産への融資がつきものなのか、そういうところで、前回は終わったのでしたね。

 ここで、融資というのは、わかりやすく日常用語でいい切ってしまえば、要は、借金をして不動産を買うということですね。不動産を買うというのは、これまでの理論的表現を用いれば、不動産からあがる収益を手に入れることですけれども。


確かに、借金して不動産を買うことといってしまうと、それは実にありふれたことですね。むしろ、現金で、ぽんと不動産を買うことのほうが稀のようですね。要は、不動産には、お金を貸しやすいのですね。

 そこのところが、不動産投資の鍵というか、そもそもの金融の基本的論点なのでしょうね。不動産の話を始めると、きりがなく深くなるのは、不動産が高度に金融の本質と絡んでくるからなのです。
 不動産は賃料というキャッシュフローを生むものです。しかも、その将来のキャッシュフロー測定が比較的容易にできる。安定的なキャッシュフローが見込めるから、元利金の弁済の計画を立て易い、つまり融資を組み易い、とまあ、そういうことでしょう。これを金融の視点から逆に考察すると、融資が成り立つためには、融資対象の事業のキャッシュフローの予測可能性が高くないといけない、ということです。
 また、不動産は、担保に供し易いのです。その担保権も、登記の仕組みにより、容易に保全できる。これも金融の視点からみれば、なんらかの債権の保全を図る仕組みがない限り、融資は行い得ないということです。
 金融の視点からみて、担保もとれて、キャッシュフローの見込みも立ちやすいから、不動産取得には、比較的簡単に融資がつくのです。


融資を得やすいからといって、融資を受けるべきだ、ということにはならないですよね。

 しかし、融資を受けられるならば受けたいという意向は、強く働き易いのではないでしょうか。貸し手からみて貸し易いということは、全く同じ理由で、借り手からみても借り易いということなのでしょう。中でも決定的動機は、不動産投資の収益性を高めることです。


いわゆるレバレッジですね。

 レバレッジは、leverage であって、本来は、梃子の意味です。梃子は、小さな力を大きな力に転換する仕組みです。つまり、小さな資金力を、外部から融資を受けることで大きな資金力にすることです。ただ、これだけでは、単に借金して不動産を買うというのと同じだから、特別な意味はありません。
 レバレッジの現代的意味は、金額を大きくすることではなくて、収益率を高めることにあります。例えば、利回り5%の収益物件を全額自己資金で取得すれば、そのまま5%の期待収益率になる、これは自明です。では、自己資金を半分にして、残り半分を2%の金利で借り入れて、同じ物件を取得すればどうなるでしょうか。ごく単純化して計算すれば、8%の収益率になるでしょう(頭の体操してみてくださいね)。


そうすると、資金が十分にあっても、敢えて借金をして不動産投資をすることもあるわけですね。レバレッジをつけて、より儲けようという動機で。

 不動産投資というと、レバレッジをつけたものが普通なのですよ、この世界では。こうなると、もはや、純粋な不動産投資ではなくなりますね。レバレッジと不動産を組み合わせた、一つの新たなる投資の仕組みです。私の嫌いな表現が、実は、よく当てはまる感じなのですが、不動産の金融商品化です。


いわゆる不動産ファンドですね。

 ファンドというのは、本来は、小口の投資家を集めて行う集団投資の仕組みですから、レバレッジのないファンドがあってもいいわけですね。しかし、現実に存在する不動産ファンドは、レバレッジがあるのが普通です、といよりも、レバレッジのないものはない、といい切ってもいいくらいです。
 私は、不動産投資は純粋に不動産投資であるべきだろうという、至極まっとうな保守主義者ですから、不動産ファンドの現在のありようを根本的に変えるべきだとの強い意見をもっているのですが、その話は、もう少し先でやりましょう。


少し先回りして、お尋ねしますが、なぜ、レバレッジはいけないのでしょうか。投資なのですから、収益性を高める工夫は、当然なのではないでしょうか。

 我々は投資を科学しようとしているのです。その立場からいうと、収益性を高める工夫をすれば、必ずや、収益性を破壊する可能性をも取り込むことになる、ただで収益性だけを高めることなど、できはしない、と考えるのです。
 現実の事例をみれば、すぐにわかることでしょうが、不動産投資がうまくいかなるときは、ほとんど全て、レバレッジが関係しているのです。よほどおかしな物件に投資しない限り、不動産そのもので損失を被ることは、少なくとも長期の投資期間では、まずないのではないでしょうか。


では、不動産投資における保守主義原則については、次の機会にするとして、もう少し、レバレッジに関連する問題をお話いただきましょうか。

 レバレッジの上限ということを考えましょうか。不動産価格に対する融資額の比率をローン・トゥ・バリュー(loan to value LTV)いいますが、この比率、全額を借金で取得したら100%、全額を自己資金で取得したら0%、半分を借金でまかなったら50%、となるものです。
 何がこの比率を規定するかといえば、もちろん、貸す側の融資姿勢ですが、その融資姿勢を規定するのは、担保の掛目とデット・サービス・カバレッジ(debt service coverage DSC)比率です。DSC比率は、不動産に入ってくるネットのキャッシュフローに対する元利金の弁済金額の比率です。
 担保掛目は簡単ですね。高いLTVで貸したりすると、わずかに不動産価格が下落するだけで、担保割れに近づきます。それでは困るので、当然に余裕をみたLTVが設定される。
 また、不動産価格が下落するということは、賃料水準が下落する、あるいは空室率が上昇することと同じですね。つまり、不動産からあがるキャッシュフローが減少することです。そうなると、DSC比率は悪化しますね。あんまり減少すると、元利金の支払いに支障がでる。貸し手としては、期限の延長などの条件緩和を行わなければいけなくなるかもしれない。いわゆる債権の不良化ですね。これは困る。
 貸し手の銀行などは、不動産市況や物件価値を慎重に審査して、融資条件を決めて融資しているのです。ただし、一つの大きな構造問題は、不動産市況がよくなればなるほど、融資姿勢が積極的になり易いことですね。それは、審査の仕組みからして当然で、不動産の価値そのものが、融資額を規定するのだから、価値の上昇が期待されるときは、融資額も拡大する傾向をもつのです。


バブルの仕組みですね。

 構造的に不動産はバブルになりやすいですよね。ここに不動産と金融の深い関係があるのだとおもいますし、不動産投資における保守主義が重要になる理由があるのです。 ところで、先ほど、いい忘れましたが、この問題については、「投資判断における保守主義の原則」というコラムをすでに書いていて、不動産を例に挙げております。ご参照下さい。
ところで、バブルというのは、不動産価格の上昇と、不動産向け融資の並行的拡大の現象をいうのですが、逆の向きのほうが、重要かもしれません。つまり、不動産の価格の下落と、信用の急激な収縮です。これは、不動産投資にとって、非常に危険な事態を意味します。
 バブルというのが、信用の膨張が価格の上昇を招き、そのことが更なる信用の膨張を生むという循環だとすると、バブルの逆回転は、信用の収縮が価格の下落を招き、価格の下落が更なる信用の収縮を生むという負の連鎖を意味します。


恐ろしいことですね。残念ながら、時間ですので、この恐ろしい話は、次にお願いします。

 はい、次回は、「もう少し、不動産投資なるものについて」ですね。

以上


次回更新は、3月3日(木)になります。

森本紀行

森本紀行(もりもとのりゆき)

HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長

東京大学文学部哲学科卒業。ファンドマネジャーとして三井生命(現大樹生命)の年金資産運用業務を経験したのち、1990年1月ワイアット(現ウィリス・タワーズワトソン)に入社。日本初の事業として、企業年金基金等の機関投資家向け投資コンサルティング事業を立ち上げる。年金資産運用の自由化の中で、新しい投資のアイディアを次々に導入して、業容を拡大する。2002年11月、HCアセットマネジメントを設立、全世界の投資のタレントを発掘して運用委託するという、全く新しいタイプの資産運用事業を始める。