アセット・アロケーションとアセットの分類を考える軸

森本紀行
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資産の分類は難しいです。予想外に苦戦しております。

前回コラム「アセット・アロケーションと分散効果」では、分類を論じようとして果たさず、次回に問題を繰り延べました。ですから、今回こそは、分類問題をちゃんと論じなければならない。そうなのですが、これが難しいです。そこで、改めて、別のいくつかの機会で資産分類について考察してきた論点を、整理してみることから始めたいと思います。
 分類の軸の重要なものとして、私は、一貫して、キャピタルストラクチャに着目してきております。いうまでもなく、株式と債券というのは、基本的な資産分類です。この区分は、企業のバランスシートの右、負債・資本勘定における分類です。一般的に、資産とは、別な主体の負債のこと(例をあげれば、国債という「資産」は、国の「負債」です)ですから、資産の区分は同時に債務の区分であるわけです。
 2月10日のコラム「インカムと時間とキャピタルストラクチャ」では、このキャピタルストラクチャの区分の背後にある、時間の要素を論じています。つまり、投資とは、本来的に、事業(事業そのもの、もしくは事業を営む企業体)から創出されるキャッシュフローの分配を受けることです。キャピタルストラクチャというのは、その分配を受ける権利の優先順位をいうのです。
 株式は、キャピタルストラクチャの最下位です。最下位ということを時間の軸に引き直すならば、一番後ということです。赤字でも、社債や借入金の利息は払わなければならない。しかし、多くの場合、赤字で配当をすることはない。利払い負担以上の収益を生まない限り、株式への配当はあり得ません。株式投資が長期投資であるということの本来的な意味は、おそらくは、ここにあるのです。
 事業キャッシュフローは、経済環境等の要因により、変動します。しばしば大きく変動します。キャッシュフローが減少したとしても、キャピタルストラクチャの上位の融資や社債の価値は、それほど大きな影響を受けません。しかし、最下位の株式の価値は大きく変動します。なぜなら、減少の負担は全て、まずは、株式へ寄せられてしまうからです。いいかえれば、株式は、上位の債権者の権利を保全するためのクッションのような役割になってしまうのです。株式投資が高リスクであるということの本来的な意味は、おそらくは、ここにあるのです。

第一の基本軸は、事業キャッシュフローの分配の優先順位としてのキャピタルストラクチャです。そして、第二の基本軸は、事業キャッシュフローそのものの性格です。

 事業キャッシュフローそのものの性格といえば、唐突ですが、例えば、金鉱とスコップの区別は重要です。ビジネスの中核そのものと、その中核ビジネスに付随するビジネスの区別です。少し古いですが、2008年10月16日のコラム「金鉱よりもスコップ、チャイナよりもグレーター・チャイナ」は、この点を論じています。
 金鉱を掘るというビジネスのリスクと、金鉱を掘る人たちに様々なサービスを提供するビジネスのリスクとの間には、本質的な差があるのではないか、ということです。基礎部分にある産業と、そこから順次派生する産業、というような産業連関に基づく資産の分類です。
 このコラムでは、実は、中国の問題も取り上げています。中国の成長そのものよりも、中国の成長から恩恵を受ける地域や産業・企業のほうが、リスクとリターンの関係がいいのではないか、という論点です。これを、正面からとりあげたのが、2009年11月26日のコラム「エマージング投資の方法論」です。
 ここでの論点は、中国やエマージングの成長というテーマが、一つの資産クラスだということです。同様に、「代替(クリーン)エナジー」という投資テーマも、一つの資産クラスです。産業連関という軸に続いて、投資テーマによる資産部類という軸です。

それから、アセット・ファイナンスの問題があります、と書いて、私は、このコラムの連載(実に63回目なのですが)で、アセット・ファイナンスという重要な問題を、まだ、正面からとりあげていないことに気がつきました。

 ということで、ちょっと脱線しますが、企業の資金調達の方法として、重要性を増しているのがアセット・ファイナンスです。要は、資産を売却することで資金調達する手法です。しかし、単純な売却は、アセット・ファイナンスとはいいません。なぜなら、建前として、企業が保有する資産は、事業に必要な資産に限られるので、単純な売り切りはあり得ないのです。
 遊休・不稼動資産の売却は、あり得ますが、それは、例外ですから、アセット・ファイナンスではない。アセット・ファイナンスは、本来的に企業経営に必要な資産を売却することで、資金調達する方法です。必要だから、売却しても、賃料・使用料を支払って、使い続ける。そのような特殊な売却だから、よく「流動化」という専門用語が使われます。
 流動化できる資産は限られます。少なくとも、特定企業にユニークな資産、その企業固有のビジネスの中核を形成するような資産は、当然ですが、流動化の対象にすべきでもないし、するはずもないし、また、できもしないのです。流動化できるのは、産業全体に共通する要素をもった一般的な資産です。流動化できるものの代表例がオフィスビル、流動化できないものの代表例が工場、この対比で、概ね、ご理解いただけると思います。
 オフィスビルの他、流動化の対象になるものの例としては、物流施設、運輸施設、エネルギー関連施設(エネルギーそのものに、一般性があるからです)などがあります。これらの流動化された資産は、当然に、賃料・使用料収入がありますから、投資対象になります。理論的に正確にいえば、投資対象は、資産そのものではなくて、資産が生む賃料・使用料収入を受け取る権利です。資産の所有は、その権利の法律上の対抗要件にすぎません。
 本論に戻ります。このような流動化された資産は、リアル・アセット(real asset 実物資産ですね)などと呼ばれます。この資産から生まれるキャッシュフローは、特定事業のリスクをもつのではなくて、一般的な産業全体のリスクをもつのです。そこに性格の差があります。三番目の軸は、リアル・アセットです。

次の軸はグローバルです。

3月11日のコラム「アセット・アロケーションとガバナンス」などで取り上げたテーマです。グローバル化した企業に、国籍は意味がありません。グローバル企業に国別分類を当てはめるのは、間違いでしょう。そのような企業の事業キャッシュフローは、多通貨分散されていて、世界経済そのものの影響を、全体的に受けています。一方、特定国内の内需に依存し、その国固有の経済に影響を受けている企業も、少なくはありません。もちろん、二つの企業群は相互に連関しているのですが、やはり、特性に差があるでしょう。ですから、グローバル株式という分類ができる一方で、例えば、日本株式というような、日本の特性に立脚した資産区分も成立し得るはずなのです。

以上、まずは、大きな軸として、事業キャッシュフローの分配ルールであるキャピタルストラクチャをあげました。ついで、事業キャッシュフローそのものの特性分類として、産業連関、テーマ、リアル・アセット、グローバルという四つの軸をあげました。

 これらの本質的な分類は、資産価値にかかわる本質的なリスクに基づく分類です。では、この分類が、単なる価格変動にすぎないボラティリティ特性をも規定するのかというと、ここが難しいところです。今の見通しとしては、おそらくは、本質的なリスクとボラティリティとは、深い関係があるのです。しかし、詳論は、後に譲りましょう。なお、リスクとボラティリティとの区別については、何度も論じていますけれども、念のため、2月18日のコラム「投資の損失とリスクとボラティリティ」を、ご参照ください。
 一方、資産の本質的価値(事業キャッシュフローの価値)と独立して、ボラティリティに影響を与える要因についても、充分に検討しなくてはなりません。もう、とっくに紙幅が尽きているので、詳論は次回以降にしますが、予告として、二つのことをあげておきましょう。銀行の資本規制と、各国政府の債務(世界の国債ですね)の問題です。
 このあいだの金融危機で、分散効果が働かなかった原因は、おそらくは、銀行の資本規制です。そして、今懸念されている問題は、主要先進国の巨額な財政赤字です。このような大きなリスク(ボラティリティというべきかもしれませんが)要因に対して、伝統的な分散の考え方で対処できるのかどうか、そこが、最初からの大きな問題意識だったのです。

以上

次回更新は、4/1(木)になります。
森本紀行

森本紀行(もりもとのりゆき)

HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長

東京大学文学部哲学科卒業。ファンドマネジャーとして三井生命の年金資産運用業務を経験したのち、1990年1月当時のワイアットに入社し、日本初の事業として、企業年金基金等の機関投資家向け投資コンサルティング事業を立ち上げる。年金資産運用の自由化の中で、新しい投資のアイディアを次々に導入して、業容を拡大する。2002年11月、HCアセットマネジメントを設立、全世界の投資のタレントを発掘して運用委託するという、全く新しいタイプの資産運用事業を始める。