日本の国債の投資価値

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • mixiチェック

日本の国債の「信用リスク」について、どのようにお考えでしょうか。

これは、もしかしたら、タブーに近い問いなのかもしれません。でも、聞いてしまいました。ここを、ご覧下さい。再録すると、以下のようになります。
 1. そもそも、国債について信用リスクを論じることに、実益はない。 36%
 2. 理論的には、一定の信用リスクはあるが、実務上は、ないものと看做さざるを得ない。 25%
 3. 信用リスクがあるにしても、それは、利回りに合理的に反映しているはずだ。 11%
 4. 潜在的な信用リスクは、利回りに反映しておらず、投資対象として魅力がない。 29%
 このアンケート、意外と注目されなくて、母数が多くないので、統計的には、面白くない。ただ、もっと規模を大きくしても、1と2の合計、即ち、信用リスクを論じても始まらないという見解が、過半を占めるのではないか、とは予測しております。国債に替わる選択肢が乏しいからです。
 もしも、日本国財務省がドル建ての国債を発行するとしたら、その利回りは、米国財務省証券との関係で、どのようになると予測されますか。こちらの問いのほうが、もっと過激ですね。でも、聞いてしまいました。ここを、ご覧下さい。これも、再録すると、以下のようになります。
 1. 日本国債の方が低い。 17%
 2. ほぼ同等になる。 17%
 3. 0.5%程度高くなる。 29%
 4. 1.0%程度高くなる。 13%%
 5. 1.0%以上も高くなる。 25%
 このアンケート、私としては、タブー破りの自信作だったのですが、まことに残念ながら、なぜか注目いただけなくて、母数が期待ほどは伸びず、不本意な結果に終わりました。これは、ぜひとも、大規模にして、再度、挑戦したい。
 ただ、結果が似たようなものになるであろうとは、確信しております。過半の方は、米国債よりも金利が高くなる、と思われるのではないか。なにしろ、日本国政府は、世界最大の債務者だからです。世界に冠たる借金王だからです。
 何よりも、当の財務省に伺いたいですね。日本の外貨準備や国際収支からみて、ドル建て国債の発行の必要性はないでしょうが、もしもドル建て国債を発行するとしたら、米国債に勝てるのか、つまり、米国債以下の利回りで起債できるのか、グローバルな資本市場の中で、米国債以上の評価を得る自信を、財務省は、お持ちなのか。

実のところ、日本国債の一つの問題は、このグローバル化した資本市場の中で、少しもグローバルではないことです。

日本銀行の資金循環表(2009年6月末速報)によれば、政府短期証券と国債・財融債の合計残高は812兆円ですが、そのうち「外国」の保有金額は56兆円、割合にして7%に過ぎません。国債等の政府債務のほぼ全ては、日本国内で保有されているのです。
 国債価格は、グローバルな資本市場での評価に基づくものではなくて、日本国内での極めてローカルな評価に過ぎない可能性があるのです。もしも、グローバルな基軸通貨であるドルで起債すれば、グローバルな資本市場での評価がつくでしょう。そのときのローカルな評価との格差に、私は、関心があるのです。深い関心があるのです。

参考までに、日本の株式市場と比較すると、こちらは、とてもグローバルです。

東京証券取引所ほか全5取引所が毎年発表する「株式分布状況調査」によれば、2009年3月末で外国人の保有比率は、24%です。2007年と2008年には約28%でした。また、東京証券取引所の売買委託注文における外国人の比率も、ここ数年は、なんと5割を超えているのが実態なのです。日本の株価は、グローバルな評価だといえるでしょう。国債とは、状況が異なるのです。
 一方で、日本国政府が世界最大の債務者であるという事実は、それだけ、日本国債の規模的な存在感が大きいことを、意味します。資産運用の世界で広く利用されている市場指数に、「シティグループ世界国債インデックス」というのがあります。世界の先進23カ国の国債を網羅した指数です。その中で、日本国債は、なんと世界全体の約30%を占めていて、断然トップなわけです。米国債よりも、はるかに多いのです。
 ところで、前回のコラムは、「インデクス運用は、常識に照らして、まともな行為なのか」という挑戦的なものでした。もしも、全世界の投資家が、インデクスを意識した債券運用をするならば、世界の3割も占める日本国債は、もっともっと、外国の投資家によって保有されてしかるべきです。しかし、事実は違う。
 債券のインデクスには、構造的な問題があるのです。簡単なことです。債券は借金であり、本来、借金は少ないほうがいいからです。インデクスの中で大きな構成比を占めるということは、借金が多いということだから、必ずしも望ましいことではない。過大な債務を負う発行体の債券には、誰も投資したくないでしょう。だから、世界国債のインデクスの中で、日本国債が、いかに大きな比重を占めようとも、外国の投資家は、積極的には、日本国債を買ってこないのだと思われます。
 思われますというか、事実として、日本銀行の統計が示すように、実金額として、外国人が保有する日本国債の金額は大きくない。また、弊社は、世界中の運用会社のリサーチを本職にしている特異な運用会社なのですが、世界債券に投資している多数の運用会社のポートフォリオをみても、日本国債の保有比率は、至って小さい。世界中のプロの投資家は、日本国債について、大きな投資価値を認めていない、そのように、思われるのです。
 注意がいることは、日本国債に魅力を感じないということが、必ずしも、円という通貨に魅力を感じない、ということにはならない点です。先ほどの世界中の運用会社の例ですが、市場の構成比に対して、日本国債への配分は著しく少ない(ゼロも珍しくない)のに、通貨の配分では市場並み、というのは、よくあります。

グローバル市場では、日本への評価と、日本の国債への評価とは、異なる可能性があります。

日本株式市場は、世界株式市場の1割くらいの比重ですが、多くの世界の運用会社は、それに準じた配分を日本へ振り向けています。先にも、触れましたが、外国の投資家は、日本の株式市場で、支配的な役割を演じています。しかし、日本の国債は、どうみても、評価が低い、あるいは、日本国内での評価とは、明らかに乖離している。
 グローバル化ということが、国内評価と国外評価との統合だとすると、その過程で、日本国債の価格と、長期金利の水準は、どう動くのか。心配です。一方で、国内の金融環境の中で、グローバル市場とは切り離されたところで、ある種の微妙な均衡にのっている国債市場が、急激にグローバル化に向かうべき必然性も、さしあたっては、見当たらない。
 はっきりいって、よくわからない。ただ、感覚的なことをいってよければ、日本国債を、「持ちたくて持っている」投資家は、少ないのではないですか。「持たざるを得ない」投資家は、多そうですが。

以上

次回更新は11/12(木)になります。