日本株で中国投資

森本紀行
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中国の成長に参画することは、どのような資産運用を考えるにしても、ほとんど絶対的な要件でありましょう。しかし、中国の成長に参画するということは、必ずしも、中国の株式に直接投資することではありません。

 中国に限らず、エマージング諸国(それにしても、中国をエマージングと呼ぶことには、もはや、ちょっと抵抗がありますね)への投資については、その方法論に創造力を発揮すべきことを、11月26日のコラム「エマージング投資の方法論」で述べておきました。そこでは、いわゆる「グレーター・チャイナ」という例も引いております。グレーター・チャイナというのは、中国の成長から直接的な恩恵を受ける中国の外にある企業群に投資することです。
 さて、この「中国の成長から直接的な恩恵を受ける中国の外にある企業群」といえば、その代表は、日本企業なのではないでしょうか。ということで、今回のお話は、中国の成長への参画は、ぜひとも、日本株への投資を通じて、上手にやっていただきたい、と、まあ、そういう日本株の営業トークであります。

極めて残念なことですが、事実として、日本株は、全く出来の悪い投資対象です。

グローバルなネットワークの中で仕事をしている肌の感覚からいいますと、もはや、「日本株」という投資対象は、世界の投資家の中から、消滅しつつあるのではないかと、そのような感じすら、するのです。
 脱線しますが、エマージングは、emergingであって、立ち現れつつあるということなのです。その反対語は、おそらくは、フェイディング・アウトfading out あたりでありまして、消え去りつつある、ということでしょう。「発達(発展)した」 developed というのは、エマージングの反対語ではなくて、エマージングの到達点です。理屈上、発展の極、フェイディング・アウトに転じてもおかしくはない。もしかしたら、それが歴史の必然かもしれません。
 エマージング諸国と発展した諸国(先進国)とに分けて考える現在の通念に、別に、科学的な意味があるわけではないのでしょう。この際、日本を先進国から抜いていただいて、新たに、フェイディングという分類に入れていただきますと、あら摩訶不思議、評価の軸が動くことから、かえって日本株が見直される、そんな馬鹿なこともあり得るのではないか、そのような妄想を抱かないでもありません(ちょっぴり、真面目に考えているところが、怖い)。

しかし、今回は、日本株悲観論ではなくて、全く逆に、日本株の営業トークのはずでした。

事実、私は、日本株には、大いに注目しているのです。なにしろ、12月3日のコラムは、「頑張れ、日本株アクティブ運用!」というのです。新年早々の1月13日の月例セミナも、「頑張れ、日本株アクティブ運用!~掘り出せ、世界に通じる日本の価値~」というのです。
 ここでの強い主張は、日本経済の範囲と、日本上場企業のビジネスの範囲とは、違うこと、そして、平均株価に魅力がなくても、平均の裏には、魅力的な企業が、たくさん埋もれている可能性のあること、これです。日本株は日本の企業の株式なのではなくて、日本に上場している企業の株式です。売上げや利益の大半が中国関連の事業から創出される企業でも、法律上の日本企業で、日本に上場していれば、日本株です。このような企業を選び出して、投資すれば、日本株を通じて、中国の成長に上手に参画できるだろう、というのが主張の基本です。
 「上手に参画できる」というのが、ポイントです。日本の株式市場は、中国の株式市場よりも、規制環境などの市場インフラの整備という意味では、発展しているのでしょう。それだけ安心感があります。しかも、バリュエーションという意味では、実態は中国企業でも、日本上場ということから、日本の平均的なバリュエーションへ引っ張られるので、いうなれば、「ジャパン・ディスカウント」みたいな、割安感があるのかもしれません。ここに、魅力がないでしょうか。
 日本にいて日本がわかるか、日本にいるから、かえって日本が見えないのではないか、という主張は、私が、一貫して繰り返しているものです。ちょうど一年前になりますが、2008年の12月11日と18日に掲載したコラム「フランスにいて浮世絵がわかるか、日本にいて日本株がわかるか」は、この問題を正面から取り上げたものです。紙屑として輸出された浮世絵は、日本の外のフランスで、価値を見出されたのです。
 もしも、日本の中に中国を見出そうとするならば、日本から日本企業をリサーチするよりも、中国から日本企業をリサーチしたほうが、合理的なのではあるまいか、そのような思いもあります。実際、中国のスーパーマーケットの棚をつぶさに検分していって、日本産のリンゴが中国産の100倍以上の価格で売られていることを見出すのは、楽しい驚きです。感動です。
 私のやってみたいことの一つに、中国の様々な工場を見学に行って、日本製の工作機械がどれくらい使われているのか調べてみる、というのがあります。ずいぶん使われているのでしょうね。日本では使われなくなったものも、中国では使われているのでしょうね。
 日本での衰退イメージは大間違いで、中国では成長なのかもしれない。そういうことは、日本にいては、わかりにくいのかもしれませんね。ちなみに、タバコ産業は、先進国では成長し得ない衰退イメージですが、エマージングでは成長です。

日本株について、もう一つの重要なテーマは、変革でしょう。

なんだかんだいいまして、日本企業の経営は変革しているのです。これも、平均の問題ではないのです。事実、変革し、その変革が市場で評価されている企業が、日本の株式市場の中に、少数でもいいから、あればいいのです。株式運用の基本は、いい企業だけ選んで投資することです。当たり前のことです。
 変革を中国との関連で考えると、どうなるのでしょうか。日本企業の固有の付加価値がなければ、中国で成功しない。一方で、中国に受け入れられる価値でなければ、中国で成功しない。古い日本の中の日本ではだめで、中国の中の日本に、変革しないわけにはいかないのでしょう。
 ところで、日本企業の経営の問題性の一つの象徴は、外国企業との合併・経営統合や、外国企業からの被買収に対する抵抗感であるように思われます。もっと多くの買収資金が海外から流入していたら、日本株の平均株価の水準は、現在と異なるところにあったのかもしれないとも思われるのです。

この論点と中国とを、一気にくっつけてしまいましょう。

さて、日本企業は、中国企業による買収を、簡単に受け入れるでしょうか。中国からの視点で価値の高いものの価格が上昇する、ということであれば、まさに、中国企業が欲しがる日本企業の株価が上がる、ということになるのでしょう。しかし、買えないものには、値は付かない。
 アートはビジネスです。ビジネスとしてのアートの世界では、買えないアートに価値はない。美術館に収蔵されているアートは、どんなに絶対的価値が高くても、ビジネスの対象としては価値がない。投資は資本主義のエンジンです。資本主義の冷徹な現実からはずれた投資は、あり得ないのです。

以上

次回更新は、年末のお休みを一度頂いて、新年1/7(木)になります。また、来年も、よろしくお願いいたします。
森本紀行

森本紀行(もりもとのりゆき)

HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長

東京大学文学部哲学科卒業。ファンドマネジャーとして三井生命の年金資産運用業務を経験したのち、1990年1月当時のワイアットに入社し、日本初の事業として、企業年金基金等の機関投資家向け投資コンサルティング事業を立ち上げる。年金資産運用の自由化の中で、新しい投資のアイディアを次々に導入して、業容を拡大する。2002年11月、HCアセットマネジメントを設立、全世界の投資のタレントを発掘して運用委託するという、全く新しいタイプの資産運用事業を始める。