資産運用の腕前の良し悪し(プライベート・エクイティ)

森本紀行
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資産運用の腕前の良し悪しということについては、その技術の差の存在を認めないわけにはいかない一方で、では、具体的に、その技術とは何か、ということになると、なかなか明確にしがたいものがあります。

 まずは、運用会社の技術の巧拙以前に、その運用会社の運用戦略、運用方法そのものの評価が先行しなければなりません。戦略そのものに巧拙はあり得ず、戦略の実行方法についてのみ、巧拙を論じることができるからです。しかも、実行の巧拙は、戦略の方法論に関連付けない限り、具体性のあるものとはなり得ないのです。
 ということで、今後、株式、債券、プライベート・エクイティ、不動産、インフラストラクチャ、実物資産、ヘッジファンドなど、様々な分野ごとに、運用技術の問題を取り上げていこうと思っています。早速に、今回は、プライベート・エクイティ投資を例にとって、運用の技術の問題を考えてみます。
 もっとも、そうはいっても、優れた運用会社が備えているべき一般的要件はあるものです。12月17日開催の月例セミナは、「「いい運用会社」とは ?個人のスキルとスキルを活かす組織的条件?」と題して、この問題を扱っております。ぜひ、ご参加ください。ここに「組織的条件」とあるように、技術は個人に帰属する一方で、運用会社というものは、個人の集合として、組織として、資産運用をするのですから、組織管理の一般的問題は、共通の課題であるわけです。

さて、具体的事例として、なぜ、プライベート・エクイティから始めるかというと、別に意味もありません。

ただ、11月19日に、「非流動資産への投資と時価評価 ?「プライベート」であることの魅力とリスク?」(セミナーレポート、およびアンケートレポートを参照ください)と題した月例セミナを開催したので、その延長で考えたのです。
 このセミナのときに、アンケートを実施しているのですが、その内容は、次のようなものです。
 「プライベートな運用は、売買によらずに、投資先への積極的関与によって、個別銘柄ごとの価値を高める、いわゆるバリューアップ(Value Up)型の運用です。さて、そのバリューアップにおける投資先への関与のあり方について、次のどれが重要だとお考えでしょうか。一番重要と思われるものを、一つだけお選びください。」

 1. 本来的に、事業投資に近い性格を帯びるものなので、企業への投資(株式であれ、債権・メザニンであれ)であれば売上げの拡大、不動産等であれば賃料等の増収という、実業のレベルでの支援ができることが重要である。

 2. 実業は、投資先の企業等の内部問題であって、個別性が高い。投資としての関与のレベルでは、実業を支える一般的経営資源管理(人事、財務、IT、ロジスティックスなど)の分野での、コスト削減や効率改善に、重点を置くべきである。

 3. 投資というのは、あくまでも実業を金融的に支援することなので、成長資本の調達や、財務的なリストラクチャリングなど、最適資本構成の提案と、その実現支援に、特化すべきである。

 4. 投資というのは、所詮は、時間の利益を供与すること、つまり、一時的に保有者のいなくなったリスクを預かることなので、投資時の価値の維持が基本であって、できるだけ早く、回収の道筋をつけることが重要である。故に、投資先に対するバリューアップが問題ではなくて、エグジット先へのバリューアップ提案が重要である。

 結果は、アンケートレポートをご覧ください。

実のところ、この四つの選択肢、そもそもの運用戦略の問題であって、良し悪しを論じるべきものではないのでしょう。また、四つの全てが重要であるのも事実で、個別の投資案件ごとに、鍵になる要素が異なってくるのだと思われます。ただし、次のようなことは、間違いなく、いえるのです。

 第一に、投資案件の選択においては、その投資を成功に導くために必要な技術や経験は、自動的に規定されてくるだろう、ということです。上の1から4を、よく見てください。それぞれの仕事について、どのような経歴の人物が必要かは、自ずとわかりますね。要は、上手い下手の前に、戦略と人材の経歴は、一致していないといけません。
 第二に、できないことは、やるべきではないという、当たり前の自制です。例えば、企業再生というような事例において、過大債務や過剰投資が鍵であって、コア事業における収支の目処が立ち易い案件であれば、運用会社の付加価値は、基本的に財務的なリストラクチャリングが中心になるでしょうから、その方面の経験で足りるのでしょう。上の3と4の領域における運用会社です。そのような運用会社は、もう少し面倒な案件、上の1や2の領域へ踏み込まざるを得ない案件は、やるべきではない。しかし、現実には、こうした自制は、働きにくいのです。
 資産運用ビジネスの収益は、基本的に運用残高に比例する。運用残高は案件の数に比例する。こなせる案件の数は、本来は、内部の人材の量と質に制約されるはずですが、この制約とビジネスの野心との相反は、現実には、簡単に解き得ない問題です。自己の戦略に適合する投資機会の制約、および人的制約を、禁欲的に守ることのできるプロフェッショナル倫理が、巧拙よりも、はるかに重要です。
 第三に、上の1から4の全てが、プライベートな関係性に立脚していることです。プライベート・エクイティの「プライベート」の意味を、改めて、考え直してください。その意味するところは、プライベートな関係性(リレーションシップ)の中における、リスク管理であり、バリューアップ活動なのだ、ということでしょう。そして、リレーションシップとは、基本的に、社会的な信頼関係のことです。
 バリューアップは、投資家を代表する運用会社と、投資先企業(その経営陣、顧客、従業員、債権者など全てのステークホルダ)との間の、社会的関係性と信頼に基づくものだから、原理的に、利益が相反することはあり得ない、というか、認め得ない。
 投資先企業の不利益の上に、投資家(および運用会社)の利益を作り出しても、持続性のある利益にはなり得ません。問題は、利益の大きさではなくて、利益の質です。利益の持続可能性であり、利益の再現性です。金融の社会的使命は、投資先企業の実業を金融的に支援することです。その社会的責任が果たされない限り、利益の持続可能性はないのです。これも、巧拙以前の、プロフェッショナル倫理の問題ですね。

一方で、投資先企業と運用会社のリレーションシップを強調することは、投資家と運用会社との関係では、別の利益相反の可能性を想起させます。

投資家の不利益の上に、投資先企業の利益が作られても困るのです。第四の問題は、投資先企業との適切な距離感、資産運用の基本であるところの、いわゆる規律(ディシプリン discipline)の問題です。いかにリレーションシップが大切でも、売るべきときには、売らねばならない、これは、プロフェッショナル・サービスとしての資産運用の基本中の基本の規律、セル・ディシプリン(sell discipline)です。

さて、かく述べてきて、結局、運用の巧拙自体には、触れていませんね。

戦略、戦略と人材の一致、プロフェッショナル倫理と規律、これだけです。おそらくは、この三要件で、運用会社を絞り込んだとしえても、類似戦略の中に複数の運用会社を見出すことになるでしょう。そこからの選択については、やはり巧拙、上手い下手、ということがあるのだろうと思います。
 しかし、その究極の巧拙が、運用成果全体に与える影響は、決して大きくはないでしょう。成果の大半を規定するのは、巧拙以前の要件です。そういうものなのです。巧拙以前の要件については、客観的判断ができる。その先の巧拙は、結果を見て判断するしかない。そういうものなのです。

以上

次回更新は12/17(木)になります。
森本紀行

森本紀行(もりもとのりゆき)

HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長

東京大学文学部哲学科卒業。ファンドマネジャーとして三井生命の年金資産運用業務を経験したのち、1990年1月当時のワイアットに入社し、日本初の事業として、企業年金基金等の機関投資家向け投資コンサルティング事業を立ち上げる。年金資産運用の自由化の中で、新しい投資のアイディアを次々に導入して、業容を拡大する。2002年11月、HCアセットマネジメントを設立、全世界の投資のタレントを発掘して運用委託するという、全く新しいタイプの資産運用事業を始める。