元も子もなくなるから資産を守れ!(後編)

森本紀行
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<a href="http://www.fromhc.com/column/2009/04/post-6.html">※前編の内容はこちら</a><br />例えば、不動産投資とは、ただ単に不動産を所有することではあり得ません。

同じ物件でも、テナント政策や営業の巧拙、改修等の管理方法の巧拙によって、賃料収入の量と安定性は、異なってきます。賃料収入の量と安定性を高めるように不動産を管理(マネジメント)することが、不動産投資(インベストメント・マネジメント)の意味です。そこには、専門家としての技術と経験が必要です。不動産投資がひとつの資産運用ビジネスとして成立する所以です。社会的責任を帯びる機関投資家の資産運用においては、素人の資産管理は認められません。自己の内部に不動産管理の高度な専門化集団を持つことは、よほど巨大な投資家でないかぎり経済的に成り立ち得ません。だからこそ、外部の専門の資産運用会社に委託して運用するという現在の形ができているのです。
 このような仕組みは、株式の運用においても同様です。株式の理論価格は、将来にわたる受け取り配当金額の現在価値です。これは、不動産の理論価格が、将来にわたる賃料収入(諸コスト控除後の賃料)の現在価値であるのと全く同じです。さて、不動産投資においては、運用者そのものが、賃料収入の増加・安定を目指した管理を行います。しかしながら、企業の株式を取得することによっては、将来配当を増やすような管理を行うことはできません。そのような管理(マネジメント)は、企業の経営(マネジメント)に委託されています。ここが、株式投資と不動産投資の基本的な違いです。株式投資とは、将来配当を増やすことのできる経営が確立している企業へ投資することです。

では、企業における将来配当の量と安定性を高める経営とは何でしょうか。

これは企業経営の本質ですので、簡単には言い表せません。しかし、論点は一点に尽きるのだと思います。即ち、将来配当の期待値を高めるということは、現在配当を増やすことではない、ということです。内部留保を将来へ向けて積極的に投資するからこそ、将来における配当の期待値が上昇するのです。一方で、企業経営が、将来の成長にとっての必要不可欠な資産の構成、効率的な資産の構成に、徹底的にこだわるならば、過剰な内部留保は配当され、不稼動資産は売却されて配当されることを通じて、結果的に現在配当も増えるでしょう。このように、効率的な資産管理を通じて将来成長を実現する企業へ投資することが、株式投資の本質に他なりません。

ところで、債券というのは、英語ではフィクスト・インカム(Fixed Income)といいます。

つまり利息額が固定されている投資対象なのです。利息額は増やしようがない。ですから、債券投資では、絶対的な利息額が本来あるべき利息額よりも大きいかどうかという点を問題にしています。つまり、本来の利息額よりも、余計に利息が取れる債券が価値のある債券という判断です。本来の利息よりもより多くの利息を取るというのは、利息を増やすのと同じことです。
 融資(債権)と債券の差は、「証券」かどうかという形式的な差であると考えられるのが普通です。しかし、より本質的な差は、相対(あいたい)かどうかという点でしょう。融資契約の内容は債権者と債務者の当事者間で決められますので、債権者は債務者の経営に対し一定の拘束力を働かせるような特約(コブナンツ)を付すこともできます。また、大口の債権者は、企業経営に対して一定の影響力を行使することもできます。つまり、融資の場合は、多少とも不動産投資に近いところがあって、融資という投資対象を管理することは、利息の質を積極的に管理することを含んでいます。債券のように完全に受動的ではないのです。
 債権者としての経営への影響力(デット・ガバナンス)よりも、大株主としての経営への影響力(株主ガバナンス)のほうが強いのは当然です。株式には議決権があるからです。株式投資には、より積極的に株主としての影響力を行使しようとする手法があります。アクティビズムといわれるものです。そこでの代表的な株主提案が、過剰な内部留保の配当要求であったり、不稼動資産の売却であったりするのは、企業経営の最終的な目標が配当を増やすことである以上、当然であるといわなければなりません。

さて、以上のように、投資ということを、投資対象資産の持つ将来的なキャッシュフロー(利息配当金)の創出能力を高めることだとすると、投資が効率的に行われる限り、投資対象資産の価格は上昇するはずです。

投資が効率的かどうかの指標は、結局は、利息配当金収益と、価格の上昇を総合したトータルリターンになるのでしょう。そして、そのトータルリターンと市場平均とを比較することにも、意味はあると思います。しかし、結果と目的は峻別されるべきです。結果的に価格の上昇が起きることと、価格の上昇を目的とすることとは、全く異なります。市場平均と比較することで、投資成果を評価することと、市場平均に勝つことを運用の目的とすることとは、異なります。学問の目的が良い成績をとることではないように、です。
 なお、永続的な投資を行う機関投資家の場合、価格の上昇した資産を売却して投資をやめることはできません。しかし、資産を入れ替えて、更に将来的なキャッシュフローの創出能力を高めるように努力することは必要です。ここに、投資の第二の活動があります。
 入れ替えには、二つの階層があります。ひとつは、同じ資産種類の中で、個別銘柄の入れ替えを行うことです。これは通常、委託先の運用会社が行うことです。もうひとつは、資産種類の構成割合を変更したり、新たな資産種類を追加したりすることです。これは通常、機関投資家自身の判断で行うこととされています。一般に、資産種類の構成割合の変更のようなことは、機関投資家自身が行うこともあって、頻繁には行われません。逆に、長期的に固定することが多いのです。一方で、運用会社のレベルでは、かなり頻繁に銘柄の入れ替えが行われます。これは、そのような入れ替えをすることが、仕事であるかのようにも考えられているからでしょう。
 ここにも、問題がないわけではありません。銘柄の入れ替えは運用会社の第一の目的ではありません。良い銘柄を選択することが、運用の目的です。おそらくは、常に市場平均を意識した運用をすることが、運用本来の目的を見失わせているのです。学問の目的を忘れて、成績だけを気にしているのと似ています。また、機関投資家の役割は、固定的な資産配分を維持することではあり得ません。本来は、逆でしょう。資産全体の持つキャッシュフロー創出能力を高めるように、環境の変化に合わせて、資産構成を見直すことが大切なのだと思います。

次回の更新は5/7(木)となります。

森本紀行

森本紀行(もりもとのりゆき)

HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長

東京大学文学部哲学科卒業。ファンドマネジャーとして三井生命の年金資産運用業務を経験したのち、1990年1月当時のワイアットに入社し、日本初の事業として、企業年金基金等の機関投資家向け投資コンサルティング事業を立ち上げる。年金資産運用の自由化の中で、新しい投資のアイディアを次々に導入して、業容を拡大する。2002年11月、HCアセットマネジメントを設立、全世界の投資のタレントを発掘して運用委託するという、全く新しいタイプの資産運用事業を始める。