元も子もなくなるから資産を守れ!(前編)

森本紀行
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このコラムの2008年9月18日のものは、<a href="http://www.fromhc.com/column/2008/09/post-11.html">「投資の本質と乳牛の値段の関係」</a>と題されています。

実はこれ、私にとって、自己満足度の高いものです。お気に入りです。最近では、投資の本質とは乳牛を飼うことだ、との喩えを好んで用いております。念のためですが、牛は牛でも乳牛です。牛を飼うのは、食肉用に牛を売ることを目的としてではなくて、牛乳を搾ることを目的にしているのです。だから、牛は売りません。牛を売ることは、元も子もなくすことだからです。
 「元も子もなくす」というのは、元(元本の「元」)がなくなると、当然に、子(利子の「子」)もなくなるという当たり前のことを意味しています。牛乳を生産する酪農家にとって、牛は元で牛乳は子です。牛を売れば牛乳生産はできなくなるのですから、牛は売れません。家賃収入で暮らす大家さんは、家を売りません。家が元で家賃が子だからです。金利生活者は、預金や債券から生まれる利息で生活しているのですから、元本である預金や債券は手放せないのです。企業年金の積立制度というのは、実のところ、年金資産を元として、子としての年金給付資金を生む仕組みです。ですから、年金資産は売られることを前提にしていないはずです。

当社の月次定例セミナーの4月17日開催のものは、<a href="http://www.fromhc.com/report/2009/04/417hcvol016.html">「本源的投資収益としての利息配当金?時価(キャッシュフローの現在価値)からキャッシュフローそのものへ?」</a>と題しております。

この概要については、「4/17開催 HC資産運用セミナーvol016 セミナーレポート」をご覧ください。ここからポイントを引用しましょう。
 「仮に4%が予定利率で資産額が1000億円あるならば、1年間に40億円の利息配当金を見込んでいるということです。そのとき給付年額が60億円ならば掛金年額は20億円で足りる、というのが事前積立制度としての企業年金の経済の基本です。」
 この例のように、いわゆる定常状態に達した企業年金制度の場合、1000億円という資産は、酪農業における乳牛と同じなので、毀損・喪失はあり得ません。半永久的に確保・保全されるべき資産です。もしも、資産が100億円減ってしまったら、同じ利率4%に対して、利息額は36億円になります。4億円給付原資が不足してしまうのです。その4億円の不足を元本から払うと、資産はさらに4億円減って利息額の不足が拡大していく、という負の連鎖を引き起こします。金利生活者にしろ、大家さんにしろ、資産の切り売りは、将来生活の破壊につながり得る窮余の策なのです。

さて、ここから一気に、資産運用の目的という本質論です。

もともと、個人富裕層(まさに、不動産持ちの大家さんであり、金利や配当金で生活する人)の資産運用の目的は、資産の保全であるとされてきました。これは、上で述べたような経済の仕組みからいえば、至極当然のことです。では、企業年金の資産運用の目的は何でしょうか。企業年金は、最終的には定常状態に達する前提で設計されています。少なくとも、定常に達したときは、より一般的な用語でいえば、十分に成熟してくれば、企業年金の資産運用の目的もまた、資産の保全と安定的利息配当金収入の確保になるのだと考えていいでしょう。
 このことは、成熟度と資産配分の関係の問題として、従来から取り上げられてきています。しかし、その取り上げ方は、資産配分などの技術論のレベルにあります。いまだかつて、運用の目的という本質論のレベルでは、取り上げられていないと思います。もしも、資産の保全と利息配当金収入の安定的確保を資産運用の目的にしたとすると、資産配分をはじめ、企業年金の資産管理の枠組みはどう変わるのでしょうか。これが、今回検討したいテーマです。
 再び、4月17日のセミナーレポートから引用しましょう。
「資産運用の課題は、資産の持つ本来的な利息配当金を稼ぎ出す力を高めることです。利息配当金を稼ぎ出す力が増せば、結果として、時価は上昇します。資産運用とは、資産の配分を工夫し、また各資産の中での収益性改善努力を通じて、資産から生まれる利息配当金の期待収入額を増やすことです。これが、投資の基本です。基本中の基本です。」

さて、上のようにいうのは簡単ですが、具体的に、「資産から生まれる利息配当金の期待収入額を増やす」というのは、どうすることなのか(乳牛でいえば、乳量が増えるように飼料などの飼育方法を工夫すること)。

結果として時価が上がったときは、その「含み益」(懐かしい言葉です。時価主義、トータルリターン主義の定着で、すくなくとも企業年金の世界では聞かれなくなった単語ですね)をどうしたらいいのか。また、また運用の効率(ベンチマークの概念が一変してしまいますね)をどう評価するのか。
 後編で、そうした問題を検討しましょう。



次回の更新は4/30(木)になります!
森本紀行

森本紀行(もりもとのりゆき)

HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長

東京大学文学部哲学科卒業。ファンドマネジャーとして三井生命の年金資産運用業務を経験したのち、1990年1月当時のワイアットに入社し、日本初の事業として、企業年金基金等の機関投資家向け投資コンサルティング事業を立ち上げる。年金資産運用の自由化の中で、新しい投資のアイディアを次々に導入して、業容を拡大する。2002年11月、HCアセットマネジメントを設立、全世界の投資のタレントを発掘して運用委託するという、全く新しいタイプの資産運用事業を始める。