第3回 創業期の資金調達-銀行等金融機関からの借入と第三者割当増資(後編)-

山本亮二郎
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※前回の内容(第3回中編)はこちらです。

3)「取得する株式は、投資家のみでなく社内に対しても、それが創業メンバーであったとしても、心を鬼にして、明確に条件または比率を分けるべきである。」
 これも非常に難しい。特に20代の若者の場合、「友情」を元に2、3人で起業する時などに、同条件で対等に出資し合って会社を設立するということが起こりやすい。後述するセコムのようにうまくいくこともあるが、失敗のケースが多いように思う。どのように失敗するかと言えば、容易に想像できることだが、1名か2名が仲たがいによって離脱してしまうのである。そのときに、株式の買戻しに莫大な資金が必要になることもある。
 従って、誰が起業家でありオーナーであるのかを、最初から明確にすべきである。ベンチャーにとってチームは大切だが、1人で起業できないのなら、準備と覚悟がまだ足りないのだと思った方が良いかもしれない。当社の投資先でも、数名の「友情」を元にほぼ等分のシェアで設立した会社があったが、投資前に各役員から一旦社長に株式を譲渡し、代わりに役員には新株予約権を付与するよう助言した上で投資実行したケースがある。数年後に創業メンバーのうち1名が退任したが、資本政策上の影響は最小限に抑えることができた。この会社は、その後事業を飛躍的に伸ばし、企業価値を60倍近くに増大させた。

4)「特に創業期は、投資家(投資家に限らないが)の影響力を分散せよ。」
 前述した2)、3)にも関連するが、比率に関わらず、必要資金の全額を1人(1社)から募るべきではない。
 セコムの場合、1962年の創業時、飯田亮氏、戸田壽一氏という2人の創業者による出資(199万円)よりも、国際警備連盟のフィリップス・ソーレンセン氏が出資した額(201万円)の方が多かった。業績が上がるのに伴いソーレンセン氏の要求が増し、円満解決するのに株式公開直前までかかったという。※4
 1981年設立のソフトバンクは、日本総合研究所のセミナーで知り合った人物が経営する会社との共同出資(50%ずつ)で、事務所も間借りさせてもらっていたが、事業方針の違いから3ヶ月で資本関係を解消している。その際の買取価格は、設立時の3倍の1,500万円だったという。※5
 1998年、1,000万円の資本金のうち7割を、社長である藤田晋氏が起業前に所属していたインテリジェンスが出資して設立されたサイバーエージェントの場合、上場直前にインテリジェンス側と比率を下げる交渉をする様子が、「心臓はバクバクし、手は汗でびっしょりでした」と生々しく描かれている。この譲渡が完了し、藤田氏は筆頭株主になったという。※6
 上記の3社は、結果として巨大な企業へと発展し、産業を形作ったが、株式の移動に苦慮したことは事実であり、また、そのために多大なコストがかかっているケースもある。創業期の資金調達(資本政策)の失敗によって、いつまでも雇われ社長のような会社は無数にある。
※4『意志を貫く-セコム創業者 飯田亮「創造する経営」を語る-』(秋場良宣構成、東洋経済新報社、1998年)
※5『孫正義 世界20億人覇権の野望』(大下英治著、KKベストセラーズ、2009年)
※6『渋谷ではたらく社長の告白』(サイバーエージェント 藤田晋著、アメーバブックス、2005年)

5)「無駄な資金は集めない。」
 無駄な資金を集めることは、必要以上にシェアを落とすことに他ならない。投資家のプレッシャーも増す。また、多大な資金を調達するためには、無理な事業計画を作成しなければならず、結果として虚偽となってしまうケースも散見される。実態に見合わない企業価値で増資をした会社が次の増資ができないことも少なからずある。調達した数億円もの資金のうち全額とは言わないまでも大半を、何年にも渡って金融機関に預けている会社もあり、一体何のための資金調達であったのか、後々問題になることすらあり得るだろう。

 最後に、資金調達に関するエピソードを紹介して本稿を終えたい。資金調達は浅薄なテクニックではないことがわかる。本田技研工業の元専務・深津賢輔氏によれば、戦後、様々な事業経営者が資金を求めて父の元を訪れた(深津氏の生家は浜松で知らない者のいないほどの大資産家であった)。深津氏の父は「金を貸してくれという輩はたいてい、あることないことご託を並べて、なんとか金を、と拝み倒すのに、本田宗一郎だけは違っていた。自分の事業の話など、ろくにしないで“世のため人のための事業だ、だから私に金を貸してくれ”の一点張りだった」と語ったという。※7
※7『井深大がめざしたソニーの社会貢献』(宮本喜一著、ワック、2009年)

以上


◆創業期の増資には抑えるべきポイントが多く、また難易度も高いですが、成功した場合は事業の構想実現に大きな一歩を踏み出すことができます。会社設立に際して、あるいは初めての増資について、さらには事業計画作成に関してご相談のある方は、ご連絡下さい。守秘義務厳守の上、お受けいたします。
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山本亮二郎

山本亮二郎(やまもとりょうじろう)

PE&HR株式会社代表取締役

1968年生まれ。早稲田大学第二文学部社会専修卒業。株式会社インテリジェンスなどを経て、フューチャーベンチャーキャピタル株式会社(FVC)入社。アーリーステージ中心に投資を行う。創業期に投資し、その後取締役を務めた21LADYと夢の街創造委員会が株式公開(IPO)を果たす。また、インテリジェンスとFVCには社員株主として出資し、両社とも在職中にIPOを果たす。2003年5月、「資本」と「人材」の両面から企業の成長発展に貢献するという理念を掲げ、PE&HR株式会社を設立、代表取締役に就任。「若手起業家のための投資事業有限責任組合」、「Social Entrepreneur投資事業有限責任組合」、「関西インキュベーション投資事業有限責任組合」を設立。現在、投資先企業4社の社外取締役を務める。
明治大学、大阪市立大学大学院、東京経済大学、厚生労働省大学等委託訓練講座等で講師を務める。