株式会社ヴァレックス・パートナーズ
安 治郎氏インタビュー

interviewer:HCアセットマネジメント㈱ photographs:佐藤亘
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Q1. 御社の投資哲学および投資プロセスについて教えてください。

Q1. 御社の投資哲学および投資プロセスについて教えてください。
 当社では、バリュー投資の哲学を基本に、日本の中堅上場企業に対する超長期的な投資を行っています。投資対象とする企業は、安定した事業を持ち、長期的に事業拡大が予想される企業です。当該企業を直接取材するだけでなく、同社の競合、顧客、サプライヤー等の上場、未上場の企業も取材する事で、その企業の長期的な競争優位性を理解するように努めています。
 調査対象とする全ての企業の本源的価値を計算します。当社では、本源的価値を、戦略的な目的で同社を現金で買収する際の合理的な価格と定義しています。当社で判断した長期的に最低限維持可能であると考えられる営業利益に、事業リスクに応じたマルチプルを掛け合わせることで、本源的価値を計算しています。国内外の同業のマルチプル、過去のM&Aで支払われたマルチプルなども参考とします。そして本源的価値に対し、現在の株価が十分に割安で、ダウンサイドリスクが小さいと考えられる場合、投資を行います。
 また、当社では経営陣との対話を通じた、一株当たりの本源的価値実現と成長にも注力しています。その際に当社が特に重要であると考えているのは、適切なキャピタルアロケーションです。経営者には、自社の真の価値を正しく理解していただき、株価と真の価値の違いを活用した合理的なキャピタルアロケーションを実践できるようにアドバイスしています。
 バリュー投資で一番重要なことは、企業の価値を出来るだけ正確に算定する事です。正しい価値認識が、正しい投資行動には不可欠です。長期間投資する事で、経営陣と良好な関係を築き、様々な情報を定期的に入手し、それらを企業のより正確な価値算定に繋げるという好循環が、当社の投資戦略にとっては非常に重要であると考えています。

Q2. 今どこに投資機会を見出していらっしゃいますか。なぜ日本株戦略に魅力があると考えていらっしゃいますか。

Q2. 今どこに投資機会を見出していらっしゃいますか。なぜ日本株戦略に魅力があると考えていらっしゃいますか。
 当社が投資対象とする日本の中堅上場企業の最大の魅力は、堅実な事業内容と低いバリュエーションです。日本には特定分野に特化し、高い市場シェアと高い利益率を達成している中堅企業が沢山あります。海外市場であればこういった銘柄は、営業利益の10年分以上のマルチプルで取引されています。しかしながら、日本の中堅企業は、営業利益の5年分以下のマルチプルでも発掘する事が可能です。こういった企業は長年の利益の蓄積として、多くの現預金を保有しているケースが多くみられます。それが低ROE、低バリュエーションの理由でもあるのですが、当社ではこういった現金がダウンサイドリスクをある程度限定してくれるとも考えています。
 バランスシート上の現金が今後も増えていくと、ROEが更に低下し、バリュエーションが一向に改善しないという可能性もあります。しかし、安部政権のもと進められてきた、コーポレートガバナンスコード、スチュワードシップコードなどの政策が、徐々にこういった企業にも影響を与え始めています。こういった企業の現金の使い方が変わりつつあるので、今後はバリュエーションも改善し、大きなリターンを実現できると考えています。

Q3. なぜこの業界で働こうと思われたのでしょうか。

Q3. なぜこの業界で働こうと思われたのでしょうか。
 実家が証券会社を営んでおり、高校生の時に、跡取りに指名されたことが、金融業界との縁です。その後大学を卒業し、1996年からニューヨークの大和証券で働きました。当時は、ジョージソロスやジュリアンロバートソンといった大手マクロヘッジファンド全盛期だったので、徐々にバイサイドに興味を持つようになりました。そして、1998年に、NYの老舗運用会社アンホールド・アンド・エス・ブライシュローダー(現ファーストイーグル)に転職し、運用の世界に足を踏み入れました。
 しかし、当時は、ファンドマネージャーとして成功するのはソロス、ロバートソン、チューダーといった天才だけで、凡人の自分には無理だと思っていました。しかし、アンホールド社が2000年にソジェンからグローバル・バリュー・チームを買収し、バリュー投資のフィロソフィーと出会った事が考え方を変えるときっかけとなりました。同チームを率いていたのはジャン・マリー・エベヤールというフランス人で、彼はソロスなどのスターマネージャーとは明らかに違う朴訥とした人物です。しかし、ある意味凡人の彼の長期的な実績は、スターたちに全く引けを取らないものでした。彼の勧めで、ベンジャミン・グレアムの本やウォーレン・バフェットのレターをよみ、バリュー投資であれば、自分にもできるのではないかと思うようになりました。
 2005年に、実家の証券会社を継ぐために、日本に戻りました。しかし、オンライン事業者の参入で手数料率は低下し、更にはコンプライアンス等のコストが増加していたため、中堅証券会社の経営環境は想像以上に厳しくなっていました。その為、証券会社は廃業させ、バリュー投資を実践する現在の会社を2006年に立ち上げました。

Q4. ポートフォリオ・マネジャーとしての信念をお聞かせください。常に心がけていること、あるいは、しないと決めていらっしゃることはありますか。

Q4. ポートフォリオ・マネジャーとしての信念をお聞かせください。常に心がけていること、あるいは、しないと決めていらっしゃることはありますか。
 運用に携わる人間にとって一番大事なことは「気づき」だと思います。先日、ある創業者の本を読んでいてなるほどと思いました。彼の友人は、ある日奥さんに妊娠したかもしれないから病院に行ってくると言われたそうです。そして、通いなれた通勤経路で会社に行ったそうですが、その日初めて道中に5つの産婦人科病院がある事に気付いたそうです。意識の持ちようで、同じものを見ても気づきが全く違う好例だと思いました。
 誰もが目にするニュースや家族や友人との何気ない会話にこそ、本当に魅力的な投資アイデアが隠れているのだと思います。そういった事から様々なことを連想し、恩恵のある業者や企業に結び付ける能力が、ファンドマネージャーやアナリストにとって不可欠な資質だとおもいます。そういう意識が無ければ、どんなに沢山の情報に触れていても、何の気付きもなく、まったく意味がありません。そういった意識を持ち続けることを常に心がけています。
 絶対にしないように心掛けている事は、意思決定の先延ばしです。買う、売る、何もしない、見送る、投資に関し、ファンドマネージャーがしなければならない意思決定はそんなに種類が多くはありません。ただ、往々にして、意思決定を先延ばしにすると、後になって分かっていたのに、なんでやらなかったのだろうと後悔する事になります。株価が上がったのでそろそろ売ろうと思ったのに、何もしなくてその後株価が下がる。面白そうな会社だと思っていたのに、買わずにいて、株価が上がってしまった。こういった事を極力減らすために、意思決定を先延ばしする事はしないように心掛けています。

Q5. どのようにお客様の資産保全を図るかお聞かせください。

Q5. どのようにお客様の資産保全を図るかお聞かせください。
 当社の戦略は割安な水準での長期的な投資ですので、資産保全は、どのような会社にどのような値段で投資するかにかかっています。当社では、安定した事業モデルを有し、かつ長期間にわたり高い利益率を維持している企業に投資をします。安定した事業モデルとは、営業努力をしなくても、ある程度の売上が計上できるような会社です。例えば、月額課金で料金を徴収しているソフトウェア会社、交換部品・消耗品の比率の高い機械メーカー、日用雑貨を扱っているメーカー、慢性疾患患者の治療に使われる消耗品やサービスを提供する会社などです。こういった企業は景気の波の影響が少いので、長期的な保有に適しています。また、長期にわたり利益率が高い企業というのは、他社に対する競争優位性を持ち、その為、市場で大きなシェアを獲得し、さらにそれ故、価格決定力も持っている企業です。こういった企業は、外部環境の変化に対し耐性があるので、資産の保全にも有効だと考えています。
 更に、こういった企業に割安な水準で投資をすることも資産の保全のためには重要です。我々の考える企業の安定性や競争優位性というのは、ある意味、定性的な判断ですので、我々の判断が間違える事もあります。そういった時に、資産の保全に重要なのは、どれだけ割安な水準で投資したかです。仮に事業価値がゼロだとしても、時価総額の90%を現金資産が占めていれば、ダウンサイドリスクは10%という事になります。当社では、このように割安でダウンサイドリスクが限定されていると思われる企業に投資を行い、資産保全を試みています。

Q6.投資に関するお奨めの書籍を1冊ご紹介頂けますでしょうか。

Q6.投資に関するお奨めの書籍を1冊ご紹介頂けますでしょうか。
“The Outsiders: Eight Unconventional CEOs and Their Radically Rational Blueprint for Success” William N. Thorndike (翻訳本「破天荒な経営者たち ──8人の型破りなCEOが実現した桁外れの成功」)をお勧めします。
  
 当社では、投資先のCEOの方に、この本を進呈しています。この本では驚くほど高い利回りで一株当たりの企業価値を成長させた8人のCEOが紹介されています。まず、この8人に共通しているのは、経営目標を単なる規模拡大におくのではなく、あくまでも一株当たりの企業価値の長期的な成長に置いている事です。また、事業運営は徹底的にその権限の委譲を行い分散化する一方、資本の配分はCEOに徹底的に集中させるという点も共通しています。資本配分に関して、自社の価値を理解し、株価が割高の時は資金調達やM&Aを行い、株価が割安なときは徹底的に自社株を買います。また、既存事業に関しても、一定のリターンを上回るときだけに設備投資を行い、逆に黒字事業であっても、一定のリターンを達成できない事業は売却、撤退します。このような人と資金の効率的な配分を徹底する事で、これらのCEOは在任期間中に100倍を超えるような一株当たりの企業価値成長を実現しています。
 本の第1章で紹介されているのはテラダイン社の創業者・CEOのシングルトン博士です。シングルトン博士は、コングロマリットがもてはやされていた時に、割高な自社の株式を使い、130社を買収しました。そして、その後、自社の株価が低迷すると、発行済みの90%を自社株買いで買い戻しました。その結果、任期中に一株当たりの企業価値を約180倍にも成長させています。  
 正しい資本配分と複利が長期的にもたらす効果を理解する事は、日本企業の経営者や投資家にとって非常に有益な本であると考えています。

Q7.主に業務に関する情報収集の為に、毎日チェックされている媒体(新聞・雑誌・webサイト等)を教えてください。

Q7.主に業務に関する情報収集の為に、毎日チェックされている媒体(新聞・雑誌・webサイト等)を教えてください。
情報収集に活用している媒体は以下の通りです:
Daily: 日経、FT、Wall Street Journal, NY Times
Weekly: Economist, Barron’s, ヴェリタス
Monthly: Grant’s Interest Rrate Observor
Annually: Buffett’s annual letter






インタビューは以上になります。



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