
Q1. 御社の投資哲学と追求されている収益源泉について、詳しくお聞かせいただけますでしょうか。

社会環境や産業構造の変化に伴い、企業の資金ニーズやローンの案件種類は多様化しています。また融資実行までのスピード感も求められるケースが増えています。さらに融資の保全対象となる担保も動産、株式、知財権など多種にわたってきており、伝統的な貸し手である銀行が積極的に対応しないローン案件は増加しています。プライベート・クレジットはこのような状況下で生まれる融資機会を丁寧に発掘し、貸し手不在による需給ギャップやコンパクトなプロ集団だから可能になる迅速な投資判断を梃に、クレジットスプレッド以上の超過リターンを捕捉し収益性を確保しています。
Q2. その収益源泉を実現するために、どのような投資プロセスを採用されているのか、ご教示いただけますでしょうか。

デューデリジェンス段階では、債務者面談、決算書等の詳細分析、担保実査および価値算定、業界マーケット調査等、社外リソースも活用して、投資の可否につき検証します。その結果、投融資グループが投資すべきと判断した投資候補案件は、独立した審査部門が再度検証し、最終的に審査部門の決裁を経た投資候補案件のみが投資委員会に付議されることになります。投資委員会での可決は投資委員メンバー全員による賛同が前提となります。
Q3. ポートフォリオ・マネジャーとして最も重視されていることは何でしょうか。また、常に心がけていることや、逆にしないと決めていらっしゃることがあれば、ぜひお聞かせください。

もう一つ重要だと認識しているのが専門性です。プライベート・クレジット戦略を投資の中核におく以上、我々は希少なプライベート融資案件・クレジット投資案件を発掘・ソーシングし、回収蓋然性を限りなく高めるプロ集団でありたいと願っています。その為には各自が銀行規制、銀行の融資行動、担保・保全、債権回収実務の分野で高度な専門知識を持ち続けることが不可欠で、日々勉強を欠かさないことが大事だと思っています。
Q4. 日本市場にはどのような投資機会があるとお考えでしょうか。

第二は、LBOローンの分野です。日本企業がROE向上を経営の重点課題としてとらえ、事業の選択と集中を加速する流れに加えて、事業承継に絡むM&A案件も増加し、日本でのプライベート・エクイティによる投資は一層活発化しています。プライベート・エクイティはレバレッジを積極的に活用しますので、結果的にプライベート・クレジットの融資機会も増大します。加えて、銀行は大型のM&A案件によりフォーカスする傾向にあるので、特に中堅企業を対象とするLBOローン案件におけるプライベート・クレジットの融資機会は、メザニンのみならずシニア・ローンでも増加してくると考えています。
三つ目の領域は、不動産ファイナンスです。金利が上昇局面にある中、不動産市況の動向については注視する必要がありますが、相対的に金利が依然として低いことやインバウンド需要などの要因を背景に、日本における不動産売買は活発です。銀行が保守的なLTVをベースに融資を行うため借り手が必要とする必要額に至らないケースや、融資判断までのスピードが追い付かないケースなどにおいて、貸し手と借り手のギャップを埋める手段としてプライベート・クレジットのファイナンスが増えています。
また欧米では既に注目されていますが、分散された金銭債権プールを裏付けとする証券化案件のメザニン投資や、今後は銀行の貸出資産の証券化案件などに対するプライベート・クレジットの投資機会も今後日本でも出てくるのではないかと考えています。
Q5. お客様の資産保全のためにどのような点に留意されているのか、お聞かせいただけますでしょうか。

それでも将来の元本回収の不確実性を完全に排除できることは不可能ですので、回収の蓋然性を可能な限り高めるべく貸出期間中のモニタリング強化を徹底しています。即ち、債務者の営業状況を随時把握すべく、少なくとも月に1回以上、経営者との面談を設定し、資金繰り・損益の状況等を確認します。また、事業・資産等の毀損を最小限にとどめるべく、貸付契約書上の手当てとしてコベナンツ等を予め設定し、コベナンツ事項と実績との差異を把握することにより、有事において早期に回収活動を開始できる体制を整えています。
但し、担保権行使による債権回収については、まずメイン銀行等の意向を確認して慎重に判断し、金融機関が企業を支援する姿勢を有しているにも関わらず、経済合理性だけで弊社の判断で権利行使をすることは想定していません。
Q6. 現在と10年前とでは、経営者の考え方や投資環境にどのような変化があったとお考えでしょうか。

しかしながらコロナ禍、ウクライナ戦争などを経て、グローバルなインフレ圧力、それに対応する中央銀行による利上げにより金融市場の環境は10年前と大きく変わったことも事実です。国内においても日銀の金融政策変更によっていよいよ「金利がある世界」に入り、投資家が債券運用に回帰していく動きも出てきています。
今後は弊社としては、こうした金融環境の中だからこそ、プライベート・アセット投資がポートフォリオ資産運用戦略の中で投資家にとって一層重要になること、その中でも『なぜプライベート・クレジットなのか?』ということを、丁寧に訴求していくことが必要であると考えています。
運用面においては、今後は企業のキャッシュフローや資産価格にストレスがかかってくるので、融資判断におけるより徹底した審査が重要になってくると注意しています。
Q7. 日本企業の事業価値向上のために、企業が取り組むべきことや、金融業界としてどのような支援ができるとお考えでしょうか。
弊社はプライベート・エクイティや事業再生ファンドとはことなり、ハンズオンで対象企業の事業価値・企業価値向上をお手伝いすることはないのですが、プライベート・クレジットはデット・ガバナンスを通じて対象企業の成長や再生を支援することが可能だと考えています。特に日本の中堅・中小企業の場合には、地域の問題や業界構造の要因で、経営権をコントロールすることで事業を変革し企業価値をあげることは容易ではないケースがあり、むしろ、経営権は現経営陣に引き続きもってもらい、貸し手はリスクをとって融資を行い、経営者は約束を守って元本を返済するという双方の緊張感があるコミットに基づくエンゲージメントによって会社を強くすることができると思います。
Q8. 投資に関するおすすめの書籍を1冊ご紹介いただけますでしょうか。書籍の概要・感想・評価についてもご教示いただけますと幸いです。

特にブラックストーンが投資家の運用ニーズと投資サイドのマーケット環境変化を機動的にとらえ、プライベート・エクイティにとどまらず不動産、クレジットなどへ事業の対象領域を拡大していくダイナミズムは、日本のこれからのプライベート・アセット資産運用事業を考えるうえで、今でも時々読み返して参考になっています。
インタビューは以上になります。
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