鹿児島銀行「アグリクラスター構想」 Part 2

第2回 金融最前線コンテンツ「農業金融」

-地域経済へのコミットメントを誠実に追求する、地域金融機関の真の姿-

企業:株式会社鹿児島銀行
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photographs : 佐藤 亘

【牛の戸籍】

【牛の戸籍】
耳標を付けた牛/photo:佐藤 亘
 和牛に戸籍があることをご存知だろうか。牛には「鼻紋(びもん)」といって、1頭1頭オリジナルな鼻の模様がある。人間でいうところの指紋にあたり、個体判別の手掛かりとなる。この鼻紋を登録したものを「子牛登記証明書」といい、全国和牛登録協会が発行・管理を行っている。「子牛登記証明書」には、名前・両親、祖父母、曽祖父母から続く血統・生産地・誕生日等の情報が記載されており、その証明書があれば「どこで・いつ生まれた・どんな牛か」がすぐわかるようになっている。(独)家畜改良センターの「個体識別情報検索サービス」というサイトにアクセスし、問い合わせ番号を入力すれば、いつでも・どこでも・誰でもが、オンライン上で、特定の和牛の“生い立ち”を確認することができる。いつでも個体データをオンライン上で確認できる仕組みが計数管理の容易化と徹底化に一役買うこととなった。
「子牛登記証明書」の実物/photo:佐藤 亘

【実体験にもとづく修正】

【実体験にもとづく修正】
“担保設定牛”と書かれた牛舎の柱<br />/photo:佐藤 亘
 過去に一度、担保にしている動産で事故が起きた。以来、有事の際をシミュレーションし、高度な修正を重ねている。具体的には、いかに早く現物を押さえるにはどうしたらよいか、その際のトラックのチャーター方法・搬送費、売却までのエサ代のコストはどこによせるか、また、担保の牛を一旦隔離して育てておける農場をいかに確保するか、などである。
 諏訪田室長は「完璧なリスク回避は難しいかもしれないが、そもそも実例があるからこそ、このような発想が可能になります。本来、実例に即して問題を積み上げ、1つずつクリアしていかなければいけません。方向性も示さずにABLを推進するような動きには違和感を覚えます。」と語る。このようにABLに関しては徹底的な現場主義を貫徹しているのだ。

【目線は海外へ】

【目線は海外へ】
鹿児島銀行・営業支援部・<br/>アグリクラスター推進室長・諏訪田敏郎氏photo:佐藤 亘
 アグリクラスター構想は、農業を基幹産業とし、一連の商流に関わる産業群の活性化・拡大を支援するというミッションの元、資金供給のみにとどまらず、ビジネスマッチング・情報提供・販路拡大などの支援にも大いに力を注いでいる。特にアジアの成長経済の取り込みについては、我が国農産物の需要増を受け、地域からダイレクトに海外へブランド展開を行うべく取組がなされている。
 この点について、諏訪田室長は以下のように語る。「今まで、農業産出額・都道府県上位の茨城県や千葉県と比較し、立地条件において、関東の大消費地をゴールとすれば、われわれは非常に不利であると感じていました。しかしある時、ゴールは後ろにあると気づいたのです。東アジアの展開を考えたら、われわれ南九州が優位であると。特に世界が狙っている中国に対しては、立地的に一番優位性が高いのは九州なのです。現状、海外への輸出については障壁が多く、物流量は少ないですが、シンガポールへの食肉輸出・台湾でのビジネスマッチングなど、アジア貿易推進室が中心となって積極的に取り組んでいます。台湾での物産展は頻繁に行っており、予め開催前に現地のバイヤーを鹿児島に呼び、予選会の段階で買い取り方式で品定めをしていただき、その品を用いて台湾で物産展を行っていただいています。海外で実績をつくろうと思えば現状は未だ厳しく、国内の販売量と比較すると海外の輸出量はその数%の割合にしか満たない状況ですが、将来的には国内と海外が50%の比率になればと考えています。そのためには、海外で勝負できる経営体をつくる必要があり、経営レベルをいかに上げるかということを我々はいつも課題として考えています。」

【経営サポートツールシステム化への取り組み】

【経営サポートツールシステム化への取り組み】
photo:佐藤 亘
 農業法人の経営レベルをいかに上げるかという点については、鹿児島銀行が積極的に取り組んでいるIT戦略と密接に関わっている。
 最初は、肥育牛のABLの管理を全てExcelで行っていたが、先数が50先を越え、融資額が100億円を越えた頃、常にモニタリングができる体制の整備を目標に、SARS型のシステムの開発を開始した。よりスピーディに危険兆候の発見や事業再生の協議を行うことを可能にするためだ。
 また、現在、鹿児島大学と「農業経営管理システム開発事業」に関する協定を締結し、産学官金連携で、耕種農業のための農業経営管理システムを構築している。従来のシステムでは、事業収支資金管理など会計だけが単体で利用出来るのみで、栽培・出荷管理など工程管理が一体化したシステムは存在しなかった。今回はこの部分を改良し、一体化させる。いかに現場に即したものを融資事務のサイクルに落とし込むことができるか。飽くなき挑戦は多様な分野で続いている。

【アライアンス体制の強化と買い手の確保】

【アライアンス体制の強化と買い手の確保】
photo:佐藤 亘
 これまで、“現場主義”をキーワードに、地域のもつポテンシャルの実現と経済追求へ向けた様々な取り組みを紹介してきた。ここで、「銀行本体の出来ることとして、どこで線引きを行うか」という問題に迫ってみる。
 諏訪田室長はこの点についてこう述べる。「融資の対象となる業種については、銀行員としてその業種の深堀をどこまでするかという問題があります。そこで、われわれが考えたのはアライアンス体制の強化です。将来的にどのような業務協定を結ぶかは別として、現状、何か分からないことがあれば電話1本で教えてくれるような連携体制があり、アグリビジネスを推進していく中、少しずつ業界の中で人間関係を作っていきました。」
 業界での戦略的な人脈形成は他方面にも及んでいる。畜産融資の場合、中間管理と同等に債権回収をどう考えるかというのが非常に難しい課題であった。一般的に畜産施設を新規で建設する場合には、産業廃棄物や悪臭の問題について周辺住民と協議し、理解を得なければならない。そのため、新規建設には、莫大な時間と手間を要する。とすれば、最初に買い手側の大規模農家をこちらで押さえておけば、債権回収の問題はM&Aで何とかうまくいかないかと考えた。そこで、長期信用として資金を供与できるレベルの大規模農家を回り、いかに鹿児島銀行のメイン先として押さえていくかということを課題に頂上戦略を進めていった。

Part3は7/20に公開予定です。