2015/12/7開催「第3回産業金融フォーラム」レポート(3)第2部・基調講演

HCセミナー

保坂 伸 氏  経済産業省 大臣官房審議官(経済産業政策局担当)

 IoT、ビッグデータ、人工知能といった新たな技術の出現で、経済・社会に「第4次産業革命」と呼ぶべき劇的な変化が訪れている。それが何か、企業価値も激変してゆくとの認識から産業構造審議会で議論を始めているが、そこでの資料を使って説明したい。



 今起きていることだが、2011年に人工知能の技術革新が起き、一気にブレークスルーが始まった。今後これまでのゲームを一変させるインパクトを持っている。Fintechを含めて金融機関も激変に晒される可能性がある。少子高齢化に伴う人口減少の中で1000兆円の負債を抱える日本は、今後潜在成長率を上げていかなければならないが、この技術革新により効率性の向上や、革新的な新たなサービス・製品による市場拡大を実現してゆく必要がある。

 企業の戦略には1.サービスを起点にするもの(ネット)と2.ものづくりを起点とするもの(リアル)の2通りあり、従来は住み分けがなされていた。ところが近年では、急激に資金力を増したGoogle が自動車の自動走行技術の開発を始めているように、ネットの強みをリアルに活かして事業分野を拡大する動きが出てきている。一方では、製造工程を押さえる日本、ドイツなどでリアルからネットへ進出する企業もでてくるだろう。そして将来的に両者間の激突が始まると考えられる。このような企業の事業分野の拡張の流れで、企業は同業他社だけでなく、他の分野からの予期せぬ新規参入にも備えなければならなくなり、何を押さえればいいのか、競争への対応は難しくなってくる。
 
 新たな競争においてはGoogleやAmazonなどプラットフォームを持つ者が絶対的優位に立つことができる。例えば、消費に近いところの情報はそれらに押さえられており、その情報を利用する企業は、代替となりうる企業が他にないために、ルール改訂や情報価格の引き上げ等の要求がなされた場合、聞かざるを得ないという事態が起きている。
 
 分野別のインパクトとして、金融についてはビッグデータを使った個別企業、個人への与信が可能となることで、高度化が進むことが予想される。

 各企業に何が起きるかを考えると、ひとつは供給構造の効率性向上である。IoTで消費者情報を得て日次で製品工程に反映するといったことが可能になる。個別にカスタマイズされた新たなサービス・製品を創出することも可能になり、企業はこの競争に勝っていかなければならない。これらを通して競争優位を維持・強化した企業が収益を最大化することができる。

 結果としてバリューチェーンの上流と下流に付加価値が集中することによって、バリューチェーンのスマイルカーブが急速に拡大している。現在起きつつある変化としては、製品売り切りから、アフターサービスを含めたサービス産業化への流れだ。マスカスタマイゼーションという形で個人の好みに応じた革新的なサービス、新製品の提供が可能となる。部品供給等の中間プロセスでは、この中でどのように勝負するか考えていかなければならない。
 
 現時点でのAIはデータから傾向を分析することはできても、問題設定はできず、人間が介在する必要がある。人工知能技術をどのように使いこなして、マーケティングの高度化、物流サービスの変革を行うかが課題となる。
 
 この動きに対しては官民を挙げて対応しなければならない。第4次産業革命においては、従来日本の強みであったことが弱みになっている面がある。その1つが部門間、業種間などにある重層的な壁。新しいものを創出するためにはこれらの壁は弊害となり、横断的な構造へと変えることが望まれる。横断的に考えられる人材や部門、経営者の横断的な考え方などが必要だ。また、アイデアを実行する意思決定スピードも早めていかなければならない。第4次産業革命においては一度プラットフォームを取られてしまうと挽回が難しいため、経営者の迅速な意思決定が必要だ。

 競争領域と協調領域を明確化することも重要。ビッグデータを持つ者が優位に立てるいま、国内の同業者がそれぞれ情報を抱えていては、日本の産業としてグローバルな戦いに勝つことはできない。例えば自動車のナビゲーションシステムなどはどうか。実際にドイツはインダストリー4.0にて企業間で情報の共有を取り決めている。また、医療・介護のレセプト情報活用なども具体的な課題だ。
 
 最後に、ネットからリアルへの動きには、インターネット企業を中心とした資金力の増大が、企業買収を促進していることが背景にある。また、国の戦略として企業買収を活発に行っているところもある。新しいアイデアというのは、その意思決定の速さやロットの小ささから、ベンチャー企業から現れるのが基本だが、それが種になった段階でこれらに買収されてしまう。日本企業はリスクを嫌う傾向にあるが、このような観点から、ある程度のリスクを取りに行くことは必要だと考えている。日本の現金の力を活用して第4次産業革命を乗り切るために産業界と金融が協力していかれることをお願いしたい。

以上

(文責:HCアセットマネジメント株式会社)


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