2015/12/07開催「第3回産業金融フォーラム」レポート(1)第1部・基調講演

HCセミナー


小野 尚 氏  金融庁 総括審議官

 資金供給の円滑化・高度化を促すために、質の高い直接・間接金融仲介機能の発揮に向けて、金融庁が今どのように考え、どのように取り組んでいるか概括的に話したい。



1. 金融行政の目的


 金融庁は、平成27年9月「金融行政方針」を発表した。これまで「金融モニタリング基本方針」などの形で、監督や検査の考え方を示してきたが、今回、全体として金融行政が何を目指すか、また、その実現に向け、いかなる方針で金融行政を行っていくかについて、金融庁の考え方・目標・方法を明確にした。
 金融行政方針では、金融行政の究極の目的について、質の高い金融仲介機能が発揮されることにより、企業・経済の持続的成長と安定的な資産形成を図り、国民の厚生の拡大・増大をもたらすことと明示した。但し、その前提としては、金融機関・金融システムの健全性の維持、市場の公正性・透明性の確保を図ることが必要となる。

2. 経済の持続的な成長に資する、より良い資金の流れの実現

 活力ある資本市場と安定的な資産形成の実現、市場の公正性・透明性の確保について、主に直接金融に関わる重点施策に関して説明する。
 セクター毎に現状を分析すると、それぞれに課題がみられる。たとえば、家計金融資産の過半は現預金が占め、運用リターンが低い。機関投資家・運用業者は、運用管理・リスク管理の高度化が道半ばである。金融商品・サービスを提供する販売会社は、真に顧客のためになる質の高い金融商品・サービスを提供しているか大きな疑問符がつく。市場・経済全体として、リスクマネーの供給がまだまだ十分でない。
 データでみると明らかで、この20年間の家計の金融資産の増え方は、米国の半分に過ぎない。日本は中長期的な分散投資が進んでいないことが、大きな問題と考えている。国内非金融部門の資金調達をみても、間接金融が8割である。また、金融仲介機関の資産構成の内訳を日・米・欧で比較すると、日本が貸出に偏っており、預金取扱機関以外の金融仲介機関(保険・年金基金、証券投資信託等)による、株式・出資金・投資信託といった資産保有は欧米の4分の1程度となっている。
 これらの問題点に対する、具体的な重点施策について説明する。
(1) NISAの更なる普及と制度の発展を目指す。
 NISAについては、順調に拡大しているが、対象を若年層にも広げるべく、ジュニアNISAを始める。非課税の上限額も引き上げる。引き続きNISAの利用状況・課題を検証し更なる拡大を図る。
(2) 企業統治改革を実質の充実へと次元を高める。
 先般金融庁と東京証券取引所が事務局となって策定した、「コーポレートガバナンス・コード」、「スチュワードシップ・コード」を、形式から実質の充実へと次元を高め、企業の価値を向上させる。
 「コーポレートガバナンス・コード」と「スチュワードシップ・コード」は車の両輪である。機関投資家は中長期のリターン向上をしっかり企業に働きかける、また、上場企業は中長期的な企業価値の向上を図るということで、経済全体の成長を促していく。
(3) フィデューシャリー・デューティーの徹底と資産運用の高度化。
 金融商品の開発・販売・運用・資産管理それぞれに携わる金融機関の行動が、本当にお客様のためになっているか検証するため。フィデューシャリー・デューティーについては、投資商品の解りにくさや、運用業者が投資家利益の最大化を図っているか、運用能力の高い専門的人材を有しているか、課題が多いのでしっかりと取り組んでいく。
(4) 成長資金の供給の促進等を図る。
 今回のフォーラムの主要テーマであるが、資金供給の高度化・多様化を図っていく。
特に企業の様々なライフステージに応じた多様な成長マネーの供給を図っていくことが重要と考えている。

 日米比較では、上場会社数は遜色ないが、ベンチャーキャピタルやグリーンシート銘柄では市場の厚さが大きく異なる。その為、特に創業段階では、研究開発段階から更に事業化するまでの間に、上手く資金が調達できず失敗する「死の谷」問題がある。クラウドファンディング、ベンチャーキャピタル、地域活性化ファンド等が普及し発達していくことで、様々な段階にある企業への資金供給が図られ、経済の発展につながることが期待される。
 官民共同で設立した地域経済活性化支援機構(REVIC)は、経営ノウハウの提供や専門家の派遣も行い、既に32の地域活性化・事業再生ファンドが活動しており、また、金商法改正により、投資型クラウドファンディングが可能になった。更に、株主コミュニティ制度やインフラファンド・ヘルスケアリート等需要に応じた資金供給の多様化に取り組んでいる。
 また、今年(平成27年)から地域の「成長マネー供給フォーラム」を開催し、各地域の資本市場の現状や課題・成功例を共有し、地域への成長マネーの供給促進を図っていく。
 こういった様々な手段を用いて資金供給の高度化を図ることが必要である。


3. 金融仲介機能の十分な発揮と健全な金融システムの確保

 
 これは、間接金融に関わることである。要すれば、我が国の産業・企業のグローバルな「稼ぐ力」を金融面から支援するとともに、金融機関の担保・保証に依存する融資姿勢を改め、事業に対する目利き力を高めることによって地方創生に貢献してもらう。その際のキーワードが「事業性評価に基づく融資」である。
 2年前から、金融検査でも、従来の資産査定中心の健全性評価から、基本的に資産査定は金融機関の判断を尊重し、「事業性評価に基づく融資の促進」の観点からの検査に舵を切っているところであるが、融資先の企業に直接ヒアリングして融資先企業からみた課題・問題点を把握することも行っていく。
 また、今年は、金融機関のガバナンスを重点的に検証するとともに、客観的に金融機関の金融仲介機能の発揮状況を評価できるベンチマークを検討していく。
 また、検討を行っていく上で、金融庁だけでなく外部有識者の意見も取り入れ、担保・保証依存の融資姿勢からの転換、産業・企業の生産性向上を支援するための、金融機関の取組み等について議論したい。
 行政としても、環境整備を図っている。一つはREVICである。REVICは、ファンドを組成・運営するという機能の他、地域の中核的企業を重点的に再生支援する、金融機関や地域のファンドに専門家を派遣してノウハウの向上を図る、個人保証付の債権を買取って経営者の再チャレンジ支援を行う等、様々な機能がある。更に、経営者をサポートする専門人材、課題を解決し、右腕となるような人材を見つけてきてマッチングする日本人材機構をREVICの子会社として設立した。
 また、「経営者保証に関するガイドライン」を策定し、経営者保証に関するルールを整備した。
 このような環境整備・ツールにより、直接金融・間接金融ともに、金融仲介機能が十分に果たされ、資金供給の円滑化、更に高度化が図られていくことを強く期待する。

以上

(文責:HCアセットマネジメント株式会社)


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