2015/12/7開催 「第3回産業金融フォーラム」レポート(2)―第1部パネルディスカッション―

HCセミナー


■パネラー(写真右から)
森本 紀行 :HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
富井 聡 氏 :株式会社日本政策投資銀行取締役 常務執行役員 投資本部長
小林 真 氏 :株式会社三菱東京UFJ銀行 常務執行役員
<コーディネーター> 坂本 忠弘 氏 :地域共創ネットワーク株式会社 代表取締役



<第1ラウンド>

(坂本氏)
今回で3回目の産業金融フォーラムとなるが、第1回は産業と金融のオープンイノベーション、第2回は構造改革と金融の役割にフォーカスをあて、いかにして産業界と金融界相互の垣根を越えて、イノベーションを生み出していくのかをテーマに行った。ハードルが段々高くなっているが、チャレンジしていきたい。小野総括審議官の話のなかで、私なりに2つ、間接金融から直接金融へ色々な役割・手法を広げていくという点と、「事業性評価」が大事であるが、事業を第三者的に評価するだけでなく、一緒に企業価値を創っていくところまで踏み込むべきとあらためて感じた。第1部のテーマは「産業の革新を支援する資金供給の高度化」ということで、産業界の創造的革新に対して、金融界はイノベーションを支援・加速させるような適切な方法で資金供給していかなくてはならないが、そこでは何が課題かというのがテーマとなっている。新しい金融行政方針の中で、金融機関にも創意工夫と切磋琢磨が求められている。フォーラムのこれまで2回のディスカッションの中では例えば、キーワードとして、「バンカブルな領域の開発と拡大」、「企業価値やガバナンスの向上への貢献」「オープンイノベーションへの参画と実践」が出てきた。小野総括審議官の日本の変革への提起を踏まえて、金融の現状と今後について、それぞれの金融との関わりからの所感を伺いたい。

(小林氏)
小野総括審議官の話にもあった通り、本当に多くの色々な課題がある。金融機関の役割としては、持続的な成長のために資金を供給し続けることだが、産業の血流として、環境を整えていくことが大事と考えている。ただ、個人的には日本の金融の現状と今後について、あまり心配はしていない。グローバル競争の観点から言えば、邦銀はリーグテーブル、ノウハウ・サービス提供、人材確保いずれも良いポジションにあるというのが実感である。ただ、国内については、資金需要はまだまだでプライスの競争がかなり激化しているが、今後の方向としては、サービスの質の向上・質の高い仲介機能の提供に舵を切っているところである。金融機関に創意工夫と切磋琢磨が求められているということであったが、私自身入行以来、この30年間みて、まだまだと思うところも多々あるが、格段に改善していると思う。コマーシャルバンクからインベストメントバンクという間接金融から直接金融への流れは日本でも根付いてきていると思う。MUFGグループでは、総合的な金融サービスを提供するということを標榜しているが、日本独自の部分もあり、グローバルスタンダードに照らすと、まだまだな部分もない訳ではない。小野総括審議官も指摘したように、新規成長企業へのリスクマネーの供給などである。私自身リスクシェアリングという考え方が好きで、関係当事者間で一緒に考えながらリスクをシェアするという、最適な金融機能の提供を標榜している。現状の日本の金融界の現状には悲観していないが、さらなる進化が求められる取り組みがいのあるステージにあると考えている。

(富井氏)
20年近く前、当時商業銀行は、潰れて債権をカットしたような会社に、もう一度ファイナンスをつけることなどありえなかった。その会社に今新しくファイナンスをつけたらどうか、と考えるような合理的な判断は出来なかった。現在は明らかに変わって良い方向になっているだろう。金融の役割ということだが、まず、日本の課題は大きく3点あると思う。1点目は日本の産業界の競争力をどう高めるか。2点目は地域創生・地域再生に金融に何が出来るか。3点目は日本の最大の問題だと思うが、高齢化の問題である。さらに国際的に見れば、地球温暖化、格差問題等。1点目については、情報精査・ビジネスマッチング・エクイティやメザニンといったリスクマネーの提供という取り組みがあるだろう。2点目の地域創生には、地域再生ファンドの設立、3点目の高齢化や、事業承継にどう取り組むかについては、日本政策投資銀行では、社会保障問題対策として健康格付を通じた企業による社員の健康増進に向けた取り組みの促進、また、環境問題対策として、環境格付や省エネ対策等やっている。事業承継の問題については、金融機関がすでにもっている機能をうまく使い、解決策を見いだすことができるのではないかと思う。ただ、留意点として、金融機関は投資家として、事業投資家ほどリスクが取れない、あるいは取り方が違うので、その範囲でどう行動していくのかを考える。

(森本)
新しい「金融行政方針」の冒頭に、金融行政の目的というものが初めて置かれて、その内容は「国民の経済的厚生の増大」となっているのは画期的なことで、従来は重点施策から始まっていた。重点施策の前にこれが来ていること、更に、重点施策の後ろに金融庁自身のガバナンス改革がついている。これは、重大な政策の転換を意味している。国民の経済的厚生の増大というのは、要は経済成長と思うが、言うまでもなく、構造改革、規制改革によってしか実現されないだろう。構造改革や規制改革は金融的には非常に難しいと思う。規制改革により、従来規制に守られていた事業者が、今後は普通に赤字になるということなので、金融の取組みとしては全然違う新しいものになってしまう。構造改革によっては、資産の価値がゼロになるケースも避けられない。それに金融が張り付いているので、金融的には負担が大きくなる。故に金融としてのイノベーションが必要であると思う。投資運用業界というのは、私がこの業務に携わって30年来、少しずつ変わってはいるが、フィデューシャリー・デューティという言葉が「金融行政方針」に入るとは思わなかった。構造改革・イノベーションというのは、資金の供給源が銀行融資一つでは対応出来ないのは自明であり、投資運用業界が担う分野であり、この機能強化が求められる。これは、金融庁が問題意識を持ち資金運用の高度化を掲げているが、資金量の問題、即ち、圧倒的に銀行に資金が偏在していること、これをどうするか。それから質の問題、米国で行われているような資金運用の高度化は日本では道のりが遠い。量と質の問題から言えば質が前に来る。すぐれた運用技能を発揮することによって、投資家の信頼を高め、資金が銀行から投資運用業界へ流れてくる。それによって、資本構成の下部構造がしっかりしてくれば、新たな融資もその上に生まれてくるという好循環が行政の課題だと思う。これは金融規制、指導によって出来るのではなく、投資運用業者として技能の向上、社会的信頼の確立に努めていかなくてはならないと思っている。

<第2ラウンド>

(坂本氏)
確かに、質の高い直接・間接金融ということが、あらためて大きなテーマだということを感じた。小林さん、富井さんの話を伺って、金融機関としての資金供給のやり方も、多様な手法が生まれてきたし、生み出してきた。金融という狭い枠組みを超えた役割・機能も果たしつつある、ということだと思う。続けて、「事業・産業の企業価値やマネジメントの向上に資する金融のあり方」について、具体的な資金供給の手法を含め、話を進めていきたい。「コーポレートファイナンスからの進化」、「オブジェクトファイナンス」というキーワードがある。産業の創意工夫を支援する資金供給の高度化に、金融機関として出来ること、すべきことについて考えを伺いたい。

(森本)
一つは既発の有価証券の売買では産業界には1円もお金が流れないので、産業金融とは言えないということ。もう一つは、資金調達するにも拘らず、目的のないファイナンスをする企業があるのは大問題だということ。目的は一般的には物の取得、目的と物、英語では同じ単語を使ってオブジェクトという関係上、金融目的そのものを遡及していく。企業活動を細かく分けて、様々な企業活動の中で資金調達ニーズが生まれる訳だが、それ一つ一つに金融をつけていくというのは、非効率なのか、別のメリットがあるのか。公募増資により調達した資金の使途決定は、CFOの仕事で、適切な内部資本コストを付加して事業部に振り分けられていく。CFO機能が高度化していれば、コーポレートファイナンスは良いと思うが、故に「コーポレートガバナンスコード」ということを言って、調達資金の適正な管理がなされることが求められている。しかし目的毎に調達したら、平均調達コストは上昇すると思う。コーポレートファイナンスは、事業リスクの平均値で調達しているので、平均によるリスクの減少がある。それに対して、オブジェクト毎に調達したら、リスク分散しようがないので、平均資本コストは上昇する。どちらが良いかといえば、片方で良い訳はなくバランスが求められる。どういう場合に、調達コストが上昇してもオブジェクトファイナンスをするかということになるが、例えば、電力が電源構成毎に調達コストが違ったら、電気料金はどうなるかという面倒な話になる。だから今までは一本調達。発電所開発案件毎に調達したら、調達コストは上昇するが、ガバナンスは効く。但し、計画に狂いが生じると金融にも狂いが生じる。お互いに良くない話である。だから恐らく、海外の事例のように、一つ一つ厳格に事業毎にファイナンスをつけたら、調達の合理化が図れるという可能性はある。やはり、「コーポレートガバナンスコード」のもとで、CFO機能の強化はなかなか難しい。ガバナンスは様々な手法を通じて金融面からも企業のガバナンスが良くなるような資金供給がありうるのではないかと思う。それから、後半産業革新機構の勝又さんの話があるが、事業再編すれば子会社売却があった方が良いかもしれない。我が国の場合、ある会社の事業を他社の事業と合弁を作って統合するという事例は多い。ガバナンスの問題はそれで良いのか、そうでなくて、プライベートエクイティに売却して産業革新機構がやるような手法の方がガバナンス的に良いのではないか、こういうことが金融の高度化だと思う。残念ながら、日本には産業革新機構以外に、巨大企業の巨大事業を買えるファンドがない。産業界においてはプライベートエクイティの機能をご理解頂き、投資運用業界は多様な運用能力を磨き、それにより、我々の業界に資金が集まり、産業革新機構が無くなっても、民・民で成り立つような金融を作っていく必要がある。

(坂本氏)
オブジェクト、目的にフォーカスを当てたファイナンスのあり方についてもっと考えることが、産業界と金融界のよい緊張関係をもたらすことになるのではとの提起と考える。

(小林氏)
20年ほどが、いわゆるオブジェクトファイナンスに私のキャリアは集中していたので色々思うところがある。オブジェクトファイナンス特にプロジェクトファイナンスは、日本では導入が進まないジレンマをずっと感じていた。では、コーポレートファイナンスかプロジェクトファイナンスしかないのか、というとそうでもない。オブジェクトファイナンスというのは良い言葉で、使い分け、もしくはMixtureをしっかりしていくのが、進むべき一つの方向性だろうと思う。完全にプロジェクトファイナンスというと、キャッシュフローベースで契約を担保に取る等ガチガチである。我々はコマーシャルバンクなので、リレーションシップ中心にプロジェクトファイナンスをやっていく。従って、あまりガチガチにやり過ぎるというのは、欧米の完全な契約社会でやるのと違い難しい。ただ、オブジェクトファイナンス・プロジェクトファイナンス・アセットファイナンスといったものを、より一層導入することが必要だと思っているので、昨年の内閣府の「成長資金の供給促進に関する検討会」で申し上げた。完全にノンリコースという親会社に全く関係ないというファイナンスはない、少しはベースになる訳で、リミテッドリコースが大事。考えをもう少し緩くしてコーポレートファイナンスに適用できないか、単純にいうとコーポレートファイナンスにちょっとストラクチャリングをつけることによって、先程リスクシェアリングという言葉を申し上げたが、一部こういうリスクは取ってください、例えばコベナンツ・財務制限条項をつけさせてもらって、一定のリミットを設けるような発想を入れていくことによって、より緩やかなオブジェクトファイナンス的発想をコーポレートファイナンスに入れるということを、常に考えている。昨年検討会でもテイラーメイド型のファイナンスということを披露したが、こういうことが、資金供給の高度化につながっていくだろう。リスクマネーまさにエクイティ性の資金を金融機関はもっと出すべきという話もあるが、そこに関しては色々な官民ファンド・プライベートエクイティファンド・インフラファンド等あり、デットかエクイティしかないのか、この間で何通りも作れるはず。これを作ることによって、多種多様にわたる資金供給の高度化につながる。先程テイラーメイド型のファイナンスに注力していると言ったが、大企業に対してだけではなく、中堅中小企業に対しても、新しい事業を始める時資金調達に苦労するといったケースで、こういうストラクチャーをからめた資金供給をすることで、好評も得ている。こういった、色々組み合せるなどハイブリッドなファイナンスを考えていくのは一つの方向だろう。

(坂本氏)
こういう創意工夫が、付加価値に応じた金利収入を含めた金融機関としてのリターン収入、質の高い金融には収益の質も問われると思うので、そういうものが生まれてくるだろうという話だった。次は富井さんに伺いたいが、会場には銀行員も多い。日本政策投資銀行は銀行と名前がついているが、銀行法上の銀行ではないということで、資金供給のあり方というものを、銀行とも連携しながら、色々やってきたと思うのでその辺を伺いたい。

(富井氏)
森本さんの話では、ガバナンスを効かせるツールとして、プレミアムを払うべきだというのは新鮮な視点だ。小林さんの話はほとんど同感。また、コーポレートでいくらでも低利で調達できる企業が、敢えてプレミアムを払ってでも別の形でファイナンスをし、結果として、社会全体としてはプラスになるというのはその通りだと思う。一方で、そもそもコーポレートでお金を調達しにくい企業・プロジェクトをどうするかという別の世界もある。小林さんの論点、リスクマネーを金融機関がもっと出せといわれても、そんなリスクはとれないというのも良く分かる。それをどう切り分けるか、ここまでリスクを取るのは良いが、対価はきっちり払ってくださいという世界だが、これも難しいところがある。まず、プロジェクトファイナンスでも、潜在的なリスクが実際のリスクとして顕在化した場合どのようにリスク負担をするのか、銀行・事業会社どちらがリスクを取るのか、これは難しい問題。リスクをあらかじめ切り分けていないと、ハイブリッドなものも上手くいかない。契約もそれなりに、精緻に作る必要がある。コーポレート調達出来ないものを銀行でどうファイナンスをつけるか、銀行も大きなリスクを取れないので、折り合いをどうつけるかがもう一つの課題。最近多いのは海外M&Aに関するファイナンス、小さい会社でも結構やっており、これにどうファイナンスをつけるかという問題である。航空機開発に関するファイナンスについては、相手は大企業だが、投資期間が何十年もあって、リスクがいつ起こるか分からない。期間が非常に長いのとキャッシュフローがいつ入ってくるか分からないのが問題。金額が巨額なので、相手が大企業であっても、一緒にやろうということになる。まだ研究中のテーマだが、ある程度大きくなったベンチャー企業に対するファイナンスの問題もある。新興市場は質の良い株主があまりいないので、東証一部まで行く前に、企業そのものの成長も止まってしまうという問題である。ベンチャーキャピタルでは出せないLater Stageにあるベンチャー企業は、結構大きい資金が必要だが、日本では、米国のようにヘッジファンドが入ってこない。コーポレートファイナンスに馴染まないものであっても、色々なやり方があるのではないか、それが金融の課題だと思う。

<第3ラウンド>

(坂本氏)
小林さんのお話、エクイティとデットの間には色々なやり方があるし、それに対する企業ニーズ・資金ニーズを埋めていかなくてはいけないところがある。富井さんから、例えばということで、いくつか話をもらった。その按配をどうするか、どのリスクをどのように執行と責任というところを役割分担していくかという点も指摘された。そのようななかで、創意工夫がきっと生まれてくるだろうと思う。もう一つは、金融業界の中では、なかなか将来を見据えた成長や付加価値が生まれてこないという話を聞くことが少なからずある。小林さんからリスクシェアリングという言葉が出たが、バンカブルな領域を拡大していくというのは、一定程度安定的にきちっとキャッシュフローが見えるところでない上流にバンカブルな領域を広げ、シニアローンにどう繋げていくかということだろう。
de-risking、リスクを小さくする、上手くいくように一緒に産業と金融が、知恵を出しながら事業への関わり、金融のあり方を積み重ねて、バンカブルな領域を広げていく。それは、リスク管理というよりも、リスクを小さくしていく、成長を上手くしていくようde-riskingしていくかが重要。小野統括審議官の話で「産業界と金融界の建設的対話」というキーワードがあったが、そこから先にもう一歩リスクシェアリングして、de-riskingをしていくことがすごく大事だと感じた。続けて、産業界と金融界の相互の創意工夫というような観点、資金供給の高度化あるいは、企業の資金調達の高度化に向けて、企業のCFOの方との連携についての考えを伺いたい。

(森本)
金融とガバナンスの関係について、人は高利なお金から先に返すだろう、高利から免れるにはde-riskするに決まっている。開発プロジェクトは頭からハイリスクだが、開発が進捗するにつれて、de-riskしていく。開発が終われば、キャッシュを生まないアセットから生むアセットをとなるので急速にde-riskしていくはず。金融機関は、頭のリスクをベースにしてストラクチャーを組んでいく。それなりに高利だと思うが、開発が計画通り進行し、ここまで来れば著しくde-riskするはずで、シニアローンにより、リファイナンスがかかるはずである。これは、金融の本質だと思う。事業者は、開発をオンスケジュールでやる必要があって、開発をしくじると手痛い目にあう、金融も同じである。これこそ、小林さんが言うリスクシェアだ。アセットファイナンスは多分そういうことではないか。日本の産業界の方が、そういう金融のリスクを分からないわけではないが、社会的にまっとうな金融手法だということを定着させるには努力がいる。プライベートエクイティがそうだ。なぜプライベートエクイティファンドが、企業から事業部門を買取ったらおかしな評価になってしまうのか、経営者が金融機能の合理性について「ファンド」とかそういう言葉でイメージされたものを越えた議論が必要だろう。アセットファイナンスによって施設を買わせて頂くということはそれほど珍しいことではなくなってきているが、売り切られたら資産価値はないだろう。事業者が継続使用する前提で資産価値が形成されているものである。事業資産は事業者が管理して初めて資産価値がある。やはりシェアリング。De-riskというが、金融的にde-riskできない。事業者とともに汗をかいてde-riskしていく。産業と金融はくっついていないといけない。関係性の中で管理されているアセットだから価値がある。ここまでくれば、表層的な市場原理をそのまま輸入するという話ではなく、中間に市場機能によるガバナンスのよさと金融仲介による関係性の良さとハイブリッドした高度金融機能を築くべきだと思う。各金融業界の連携はもっと密になるべき。業態別に切られてあまり関係がないような今の金融、(メガバンクは全部あるが)金融界全体として、各業態毎の適切なる緊張感のもと高度な金融機能を作り上げるのが重要。

(坂本氏)
ある意味、小野総括審議官のキーワードの一つで言えば、実質の充実の中で、今後のビジネス展開のなかで、もっと色々なことを考えていったらどうかという提起だったと思う。産業界・企業の事業のガバナンス、企業価値を高めるには、どうやって金融という手段・手法のなかで実現していくのか、そういう観点でも実質の充実こそ産業界と金融界の中でテーマの一つだと感じた。

(富井氏)
目的に関係なく全部コーポレートファイナンスをするのは良くない。対応関係を見えるようにすれば全体の効率は上がる。私自身、日々の業務で悩んでいるところである。たとえば共同投資は事業者と設計していくのが非常に難しい。リスクと発言権は表裏一体で、お互いリスクは相手が取って欲しいと考えている中でも、発言権をどの程度まで持つのか、どのリスクをとるのか、金融機関と事業者の間で、リスクをどこまでとってリターンをどこまで得るのかという話まではまとまる。ただ、次の段階が問題で、金融が事業に対してチェックする、主導するとなると、事業者側から大きな反発がある。事業でやっているのに困る、金融機関もそれでは困る、という話になる。この点、どう折り合いを付けていくかが難しい。リスクシェアリングに幻想をもつ、期待を高くもつのではなく、泥臭く、分け合っている感覚を持たなければならない。リスク総量は変わらないのに、リスクがどこかに消えていると錯覚してしまう。ここに会計ルールなどの制度の話が加わると、よりややこしくなり、本質的な議論が忘れられてしまう。

(坂本氏)
理想と現実と両方あるなかで、小林さんはグループの中で、オブジェクトファイナンスに関わってきたが、それらを決めるにあたって産業・企業のCFOの方との連携を含め、この課題をどう汲み出して乗り越えていけば良いかということについてグループ内での調整も含め伺いたい。

(小林氏)
CFOは非常に大変であると思う。金融機関も、資金調達の高度化に資する支援をするため、もっとリスクをとりたいとは考え始めている。その際、CFOにお願いしたいのは、これまでのコーポレートファイナンスにハイブリッドな考え方を入れるときに、行事役をまさにやってほしいということである。そうすれば、最適なリスクアロケーションは我々も取るし、取れないところは、社内を説得してもらいたい。CFOの方にはゲートキーパー的な役割も期待する。金融機関は、節目では、財務面だけでなく、オペレーションがどうなっているのかも確認することが大事だが、毎日追いかけることは出来ない。そこはやはり、CFOに判断してもらって、どの部分を金融機関にリスクを取らせるか、この程度が銀行は取れるというところを、社内の方に知らしめて上手くファイナンス手法をきちんとアロケーションしてくれると良い。逆に銀行サイドも、CFOが困っていることがあれば、金融機関はここまでしか出来ないとしっかり話して、セカンドオピニオン的なものをとって頂き、CFOはどこのところだったらもっと金利を払ってでもやるという適切なファイナンスを組んで、こういう事業では、早く返さないといけない、実績がつくともう少し普通のファイナンスが受けられるようになるといった診察をして銀行に意見を求める。こういう切磋琢磨によって、産業と金融の絶妙な緊張関係のもとに両者が発展していけるものと思う。実際海外の企業だと、こんな企業でもこんな高い金利でというケースもある。そういう形でCFOの方に上手く行事役・ジャッジメントをしてもらえると良い。銀行が行ったCFOアンケートの結果が一部ある。銀行に期待することとして、「事業の特性やリスクに応じた最適な調達手法の提案力」など様々であるが、CFOがどういうことを期待しているかを踏まえながら、さらに一歩踏み込んだ提案をしていきたい。

<第4ラウンド>

(坂本氏)
建設的対話というキーワードをどう掘り下げていったらよいか。具体的な取りかかり・関係構築・共同作業いろいろな手がかりの話をいただいたと感じた。前回の産業金融フォーラムの中で、「金融機関自身がイノベーティブに変化していく必要がある」という意見が出た。FinTechなど、非金融機関と従来の金融機関との競争も益々広がっていることもあり、特にこれからの金融機関の組織マネジメントや人材育成についての考えを伺いたい。

(小林氏)
MUFGグループでも業態として色々あるが、部門の枠はどんどん消えている。例えば、オーナー取引、日系企業のグローバルな活躍など、部門の切り分けは難しい。劇的に経営環境が変わる可能性があるなか、よりフレキシブルな組織運営が必要である。外銀の組織は非常にフレキシブルであるが、短期的視点も大事ではあるが、長くやるのが日本の良いところ。今の形態を大きく変える必要はないと思うものの、もう少しフレキシブルな組織運営の必要性はあると思う。人材育成については、銀行員というとジェネラリスト的に色々知っている必要があるというイメージだと思うが、プロダクツの知見を持ったスペシャリストの養成は進んでいる。プロダクツの知見は第一段階で、事業会社では、財務のプロがいる。銀行サイドも、担当者の知見だけでなく、その会社の属する業界、それに連なるチェーンの業界をきちんと把握するといったセクター知見をもった専門家を養成する。つまり、マルチプロダクツが扱える、さらにセクター知見を持ったスーパーマンみたいな銀行員を養成していかなくてはならない。

(富井氏)
貸金だけでなく、企業のニーズも高まっているので、証券・アセットマネジメント等色々なものが必要だが、内部はそれぞれ情報が分かれている。一連の経済行為のはずのものを、情報では、切り分けなければならないというのがある。アセットマネジメントもやる、あるいは証券業務もやる、自分のBSを有効活用する為に投資家に売る、フィーも取れるというもの。情報は良く整理・把握したうえで連携してやっていく必要がある。全部を自分で出来ないので日本政策投資銀行は、どうやって他社と連携していくのか、JVにするか、契約関係でやるかということにより、広い意味で総合力を出せる。年金運用について年金運用担当者と話した際、年金基金にスタープレーヤーを連れてくる、またはどういうアセットアロケーションでやっているか、という話題にはみんなの関心が行くが、大事なのは年金のガバナンスであって、外部の雑音に右往左往されないプロの方が経営層にいることが基金として良いという話があった。

(坂本氏)
金融庁と話す機会があるが、ベストプラクティスを生み出していくには、個別金融機関毎の規制改革・緩和が必要。これがないと個別での創意工夫は生まれない。金融機関それぞれの創意工夫は、金融庁としては大歓迎するとのこと。

(森本)
イノベーションとか創意工夫は顧客の視点でしか起きないし、起こしてはいけない。顧客を頂点とした組織構造ということ。金融庁は単に顧客ニーズと言わず、それも前に「真の」とつけている。顧客ニーズの徹底的な遡求を言っている訳で、これは、金融機関のコストアップにつながるが、そういう活動は、人材育成にもなり、創意工夫が生まれる。先ほど言い忘れたが、資産担保金融やファイナンスリースから、オペレーティングリースに変えたら、金利換算した実効コストは事業者の方にとって著しく上昇する。ただ、残価リスクからは解放される。残価リスクをとっているから金融のリターンはアップする。レンタルにしたら稼働率リスクまで金融が負担するが、事業者のコストはさらにアップする。リスクとリターンの関係で、事業者がとるリスクか金融でとれるリスクか、創意工夫していけばいいということで、金融イノベーションが起こる。このような話を金融庁にすると、レンタルはもはや金融ではないと言われる。言い直されて、金融の境目を決めるのは金融庁の仕事と言われる。使用量に応じたリース料はレンタルのことである。そうでもしないと、高額医療機器はなかなか普及しないのではないか。飛行機にしても規制緩和してレンタルしたらどうかと思う。こういうのがイノベーション。金融庁は、顧客の視点に立っている限り「認める方向で一緒に考え検討する」と言っている。顧客の利便性に立ったあるいはリスク負担を小さくするような提案、それが、金融力の高度化、顧客の利便性向上、人材育成にもつながる。金融庁に資産運用に一番大切なものはと聞かれたので、「情熱とプライド」と答えた。資産運用は面白い仕事なので、情熱をもってやる。もっぱら、顧客のためにというのはプライドだと。「情熱とプライド」が高度化をもたらす。結論として、金融マンのご褒美は何かと言ったら、お客様の夢を実現してさしあげたことの、そのお客様の喜ぶ顔だろう。それが金融の基本だろう。それを守ることが日本の金融を世界最高に押し上げる道なのだと思う。

<第5ラウンド>

(坂本氏)
最後に「産業の成長と金融の創意」のために、明日から何をしていくか、産業金融フォーラムの今後の展開への期待について、一言頂ければと思う。

(小林氏)
小野統括審議官からの話、森本さんの「情熱とプライド」という話、若い人には志が大事だと言っている。100年ビジネスを提唱している。取引先が100年続くことを支援するのが金融の使命であると思う。是非、夢のある、わくわくするフォーラムを今後も続けてほしいと思う。

(富井氏)
これまでやってきたことを続けているだけでは未来は無い。色々新しいことをやらなければいけない。もっと新しいことに挑戦していきたいと思う。

(森本)
金融を楽しい仕事にしなければいけない。日本の金融を「おお!」と言わせたい。絶対にできそうもない、原子力発電所のオブジェクトファイナンス、半導体製造装置のオペレーティングリース、そういう有り得ないことを可能にする究極のイノベーションを実現したいと思う。

(坂本氏)
日本政策投資銀行で2013年にまとめた競争力強化に関する研究会で、イノベーションの課題は構想力とマインドセットだとあった。このパネルで構想力についてはヒントが得られたと思う。大事なのはマインドセットで、ハードルが高くても、色々な構想力を具体的に話すきっかけになればと思う。

以上

(文責:HCアセットマネジメント株式会社)



◎レポート(1)第1部:基調講演「質の高い直接・間接金融仲介機能の発揮に向けて」はこちら    
◎レポート(3)第2部:基調講演「IoT・ビッグデータ・人工知能等による変革を踏まえた新産業構造ビジョンの検討」はこちら