バルザック「人間喜劇」セレクション 第7巻

バルザック「人間喜劇」セレクション 第7巻

著者 バルザック
出版社 藤原書店
発行日 1999/11/1
原題:Balzac: Les Chaefs-d'oeuvre de La Comedie Bumaine
 バルザックはフランスの有名な小説家の一人で、小説に描いているのは19世紀の前半です。当時、貴族は力を失ってきており、実権を持ち始めていたのは、商人や企業、いわゆるブルジョアでした。産業革命が進み、金融資本ができ、銀行が力をつけていった時代です。バルザックは膨大な作品を残していますが、本書は特に傑作と思われる「金銭」や「商売」をめぐるドラマ4話が収められています。
 バルザックの作品は、人物再登場の手法で相互に関係づけられ、同じ登場人物を別の作品の中に見つけて他の作品との繋がりも楽しむことができます。

 『ゴプセック』は洞察力に富み、人間観察力の鋭い強欲な高利貸しという古いタイプの金融業者の話で、金や宝石等の実物資産に執着し、壮絶で孤独な最期を迎えます。『ニュシンゲン銀行』は銀行家という新しいタイプの金融業者が直接お金に手を触れず、証券や株券で利益を上げる金融資産に注目して大きな財産を作り上げる話。『名うてのゴディサール』は騙すつもりが騙される保険外交員の滑稽な話。『骨董室』は家柄、血筋に固執し続けた地方の名門貴族の没落の話が書かれています。

 当時のフランスの貴族社会、彼らの金銭感覚は想像を遥かに超えていました。特に印象深かったのは『ゴプセック』です。瀕死のなかで「自分の財産はどこへいくのだろう、誰にも渡さない。」と譫言のように言い続け、最期まで自分の財産を数え上げ続ける凄まじい描写は、人間の欲と孤独、寂しさを訴えているようです。現代にも共通している「人間の心を狂わすお金の力」に恐ろしさを感じました。

 フランス近世へタイムスリップしただけではなく、難しいからと尻込みしていた「金融の仕組み」のほんの一部を、ドラマを通して学ぶことができたと思います。

 壮大なドラマの展開に引きずり込まれ、一気に読み進んだのですが、19世紀の換算レートや「手形」だけではなく、フランスの裁判制度についても頭に入れてから読めば、理解が深まり、より面白く読めただろうと思います。改めて読み直したいシリーズです。
 金融に直接携わっていない方でも、興味がかき立てられ、どなたでも、ドラマを通して当時のフランス社会の金融の仕組みを現代の金融と比較しながら、面白く読んでいただけるのではないでしょうか。

この本を紹介した人

宇野 このみ

HCアセットマネジメント株式会社

2009年にHCアセットマネジメント株式会社に入社。以降、広報を中心に従事。