2014/10/29開催「第2回産業金融フォーラム」レポート(3)第2部・基調講演

HCセミナー


西田 直樹 氏 金融庁 総務企画局審議官(監督局担当)

 政府はデフレ脱却と経済の持続的な成長の実現に向けたアベノミクス第三の矢として、日本再興戦略改訂2014を今年6月に閣議決定した。そのなかで、金融、とりわけ地域金融が地方創生、地域経済の活性化に向けた役割を発揮すべきことが強く盛り込まれており、期待されているところである。




 今年9月に発表された「平成26事務年度金融モニタリング基本方針」の具体的な施策として、事業性を評価する融資の促進が掲げられているが、金融機関が保証や担保等に必要以上に依存することなく、企業の事業性を重視した融資や融資先の経営改善・体質強化支援等に十分に取り組んで頂くよう促すために、監督方針、モニタリング基本方針の適切な運用を図っていく。また、経営者保証に関するガイドラインの活用が強く謳われている通り、保証に依存しない融資を促進しつつ、ガイドラインに沿って経営者の再チャレンジを支援するといった課題が盛り込まれている。加えて地域金融機関による地域経済活性化のため、地域経済活性化支援機構(REVIC)が地域企業経営の専門人材の派遣や資金供給を行うファンドの設立・運営等を支援するという骨太の方針が示された。

 
 「金融モニタリング方針」というのは、これらを具体的に推進するための監督検査の方針として策定しているという一面があり、総論として「デフレ脱却と好循環の実現」と、「それを支えるための金融システム・金融機関の健全性の維持」を2本柱として掲げている。“好循環”とは、金融機関が真に顧客のための金融サービスを提供するという仲介機能を適切に発揮することで、持続的な産業の成長と国民の資産形成を積極的にサポートし、それを通じて金融機関が成長の果実を享受して安定的な収益を確保するということである。

 
 基本方針のなかでは重点施策を9項列挙しているが、本日のテーマ「産業界の革新に対する金融の触媒としての機能」に照らし合わせて、関連する以下の項目についてご説明する。

■顧客ニーズに応える経営
金融機関が顧客を第一に、真に顧客のニーズに応えるサービス提供をしているかを検証・確認していかなければならないと考えている。供給側である金融機関とそれを受ける側である顧客との間には情報量の格差があるが、金融庁としては、格差を背景として金融機関の短期的な収益確保のために顧客利益やニーズにそぐわないサービスが提供されていないかという問題意識を持って課題に取り組んで参りたい。

■事業性評価に基づく融資
企業の活動が国際的になる中、グローバルに事業を展開している企業が国際競争力を維持・強化していくことも大事である。他方、地域経済圏を中心に活動している所謂ローカル企業が自らの生産性の向上を図ることで雇用や賃金の改善につなげていくことも重要な課題である。金融機関の役割としては、財務データや担保・保証に必要以上に依存することなく、事業の内容・成長可能性を適切に評価して融資や助言を行う取組みが必要だ。金融機関における融資審査のプロセスや決裁権限のルール、リスク・収益管理手法、尚且つ人材育成あるいはノウハウ蓄積、職員の業績評価の体系にどういう工夫を凝らしているのか、まずは総合的に実態把握を行い、それをベースに双方向で議論を深めていきたいと考えている。企業に付加価値をもたらさない単純な金利競争ではなく、企業にとって有益かつ効果的な融資活動を行って、金融機関自らの経営の持続的な安定、地域経済の発展の両立を図っていくことが、地域創生の観点からも肝要である。

■資産運用の高度化
まずは金融機関自らが資産運用能力を向上させ、資金の性格や顧客ニーズに即した適切な運用を行い、国民の安定的な資産形成に貢献をすることで投資への流れを促進し、運用市場の発展に繋げるという経済の「好循環」を目指す。そのためには商品開発・販売・運用、それぞれに携わる金融機関の方々が自らの役割・責任を果たしていくことが期待されている。金融機関の経営姿勢、提供されている商品・サービス、業績評価、合わせて金融機関自身による運用についても、リスク管理体制が整備され実際に有効に機能しているのか等、意見交換やヒアリングのなかで確認させて頂く。

■統合的リスク管理
私共のこれまでの金融機関の健全性についての検証・検査については、個別の資産査定中心に行われてきた。一方で金融機関全体の健全性を持続的に確保していくには、それぞれの金融機関にとって、何が重大なリスクで脆弱性を与えるかといった分析も重要であると評価していたので、今後はよりその点に軸足を置いて取り組みたいと考えている。具体的には、金利リスクや与信集中リスク管理体制、あるいはストレステストの活用を通じた様々な検証を金融機関と議論して中身を深めていき、健全性に影響を及ぼす大口与信以外は原則として、銀行の判断を尊重するという対応を推進していきたい。金融機関においては顧客企業との継続的な対話、事業性の評価というものがより不可欠となってくるであろうが、顧客企業の側からも、自らの事業の現状課題や悩み、事業の成長性について金融機関に積極的に説明・アピールすることで、所謂Win-Winの関係を深めていくことがより重要になっていくのではないか。
 以上の重点政策をどのようにモニタリングするのかということだが、より優れた業務運営やベストプラクティスの答えはひとつではないと思うので、我々としては金融機関との建設的な対話や双方向の議論を通じ、自主的な創意工夫やより良いサービスへの改善に向けた健全な競争を促進してきたいと考えているところである。
 更に、地域金融機関における課題を簡潔に申すと、地域の経済・産業活動を支えながら、地域とともに自らも成長・発展していくという「好循環」の実現に向けた取組みの強化が求められている。地域金融の柱のひとつ、金融仲介機能の発揮のための施策・着眼点として、取引先企業の適切な状況把握と分析、解決策の提案及び実行支援を挙げている。企業のライフステージには創業・起業、成長、成熟、成長鈍化、衰退と様々な段階/ステージがある。各企業のステージを見極めた上で、創業段階での支援、成長鈍化の過程であれば、できるだけ早い経営改善・生産性向上・体質強化の支援、衰退の局面であれば、より抜本的な事業再生に向けた支援をしっかりする、もしくは早めの円滑な退出の支援を行い、その際に経営者保証のガイドラインを上手く活用するなど、企業の事業内容と将来性を適切に評価し、多角的な解決策を提案して頂きたい。様々なメニューを持つ金融機関であっても、入口のところの事業性の評価が不十分であれば持っているソリューションを有効に活用できない。そうした取組みの際に、(企業再生支援機構が改組・拡充された)REVICの機能として専門家を派遣し、企業の事業性の分析やそれを踏まえた支援・解決策の助言サポートをすることも有効なツールのひとつであるので、是非ご活用頂きたい。

以上

(文責:HCアセットマネジメント株式会社)


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