2014/5/26開催 2014年5月年金資産運用基礎講座第2回・セミナーレポート

HCセミナー



第1部「債券運用の基本」

 株式と債券は資金調達の道具であり、投資の基本です。

 将来の受取金額を現在価値へ引き直すことを割引と呼び、用いる金利を割引率と呼びます。これは年金数理における基本概念でもあります。同じ割引率ならば期間が長いほど、同じ期間なら割引率が高いほど、現在価値は小さくなります。期間20年で5%の割引率の場合、現在価値は37.69%となります。年金の平均的給付期間の20年では、割引率が5%から2%に下がると、現在価値は2倍近く必要となります。

 債券の利回りとは、債券の価格と債券から発生する将来キャッシュフローの現在価値とを一致させる割引率のことをいいます。金利が上昇すると債券価格は下落し、逆に低下すると価格は上昇します。債券価格と利回りの関係をグラフに示すとグラフの形状は下に凸となり、この凸度をコンベクシティ(convexity)と呼び、このふくらみが大きい程よいと考えられます。通常、この数値が大きい債券を選ぶことが債券運用の常道となっています。

 投資回収の平均期間は、利息による回収と元本の回収について、各々の回収期間に現在価値の加重(weight)をかけた平均期間で、この加重平均期間のことをデュレーション(duration)と呼びます。金利が動くと「加重」も動き、平均回収期間も変わってきます。一方、1%の金利変動に対する価格変動率は、デュレーションを(1+割引率)で除した値に近似します。この値を修正デュレーション(modified duration)と呼びます。金利低下によりデュレーションが伸び、金利感応度が高くなりますが、その度合いはコンベクシティの大きさによります。

 PE型ファンドで10年の期間(term)というのは10年かけて回収するのではなく、例えば3年程度で早く回収することによって、リターンは高くなります。一方、早く回収すれば、その分、再投資リスクが大きくなることには注意が必要です。

 イールドカーブは一般に右肩上がりとなりますが、直線とはならず、上に凸になる傾向があります。これは合理的に予測可能な期間は5年程で、その先は予測が効かないため、金利が横ばいとなる傾向がみられるためです。イールドカーブ上では、傾斜のきついところが相対的に魅力的で、時間経過により残存期間が短くなり、利回りが低下(価格は上昇)するロールダウン効果は、傾斜のきついところほど大きくなります。

 債券の表面利率は、信用リスクすなわちデフォルト確率と回収率を加味した損失可能性を補償するだけ高くならねばならず、損失確率を調整した後では、信用リスクの差にかかわらず、どの債券も同じ期待収益率にならなければなりません。ところが実際には、信用リスクの高い債券ほど、一般に総合収益の期待値(デフォルト調整後の利回り)も高くなる傾向があります。その追加収益の源泉には、市場分断・資本コスト・流動性の三要素が考えられます。わかりやすい例では、格付が低下してハイイールドに分類されてしまうと、需給が一気に悪くなり価格が下落します。これは機関投資家が投資適格債券とハイイールド債券を別枠管理していることによる市場分断のためであり、また資本規制の対象となる金融機関が無リスク資産に分類される自国国債を選好し、資本の積み増しが必要となる低格付債券を回避する資本コストの差によるプレミアム、加えて金融機関等の多くが即時に資金化可能な債券を好み、流動性の劣る債券を避けることによる流動性プレミアム等、価格形成におけるこういった歪みに投資することが、債券投資の本質であると考えられます。

 資産担保証券投資については、原資産の劣化が、支払の優先順位が異なる複数の証券(トランチ)に、どの様に反映するのか分かりにくいことが問題で、特に中間ぐらいのトランチがどうなるのかの判断は難しく、価格は大きく変動します。運用は、人を出し抜くといったことではなく、原担保資産価値を自ら査定し、適正価格を割り出すといった地道な分析を通じて、確信に基づいて行う行為であることを認識すべきです。

 債券運用は金利が唯一の市場ファクターであり、災害債券(CAT bond)のような様々なリスクを付加的に取りに行くことが広く行われていることにも注意が必要です。

第2部「株式運用の基本」

 企業分析の基本は営業利益で、原価や販売管理費といった費用削減の努力は、回りまわって当該企業の売上減となります。そうではない、長期的な視点に立ったサステイナブルな企業価値増大が求められています。

 株式のキャッシュフローは永久無限流列と定義され、3年ぐらいまでは科学的に読めますが、それ以上は予測精度が低くなります。キャッシュフローの予測が難しいため、安定売上・安定収益が高い株価につながります。一方、コストカットしても企業再生にはつながらず、ネットキャッシュフローの安定化が重要となります。

 株式はキャピタルストラクチャの最下位に位置します。つまり株主の権利は債権者や社債保有者の権利に劣後し、残余分の利益を受け取ることになります。

 配当に関しては、配当性向が高いか低いかではなく、内部留保が適切に使われているかが重要となります。構造改革をしない企業は、配当すべきです。

 PBR一倍割れの企業は資産評価が甘いと考えられ、不稼働資産は売却し、不確実性・不透明性を除去することが重要となります。株式運用においては不確実性が最大のマイナスファクターと考えられ、不確実性が大きければ保守的に評価せざるを得なくなります。いい数字を示すことでなく、達成可能なコミットメントや中期経営計画を提示し、その通りに実現させることが確実性を高めることになり、株価評価の改善につながります。

 「レバレッジ」、「回転率」および「利益率」が資本利益率を決定付けますが、すべての企業が成長する訳ではなく、資本を高いレバレッジで高回転させることも重要となります。企業統治の改善やスチュワードシップの推進、JPX日経400の創設等々の政府施策を通じて、投資家と企業のガバナンスを一致させて行くことが求められています。

以上

(文責:柳井知之/佐藤知雄)

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