2011/3/9開催 HC資産運用セミナーvol.039 セミナーレポート

HCセミナー
当日配布資料をPDFでダウンロードすることが可能です。

今回のセミナーには、総勢53名の方々にご参加頂き、誠にありがとうございました。

《 セミナーのまとめ 》

与信リスクの二つの管理方法
与信リスク管理には二つの方法があります。入口管理と出口管理です。入口とは、与信実行時の審査に重点を置くもので、出口とは、回収に重点を置くものです。社債投資では、発行体の信用リスクの変化に対して、売却という出口で対応しますが、融資では、原則として売却しない前提ですので、入口の審査を厳格に行うことで対応します。

融資の変容
融資では、原則として売却しない前提でリスク管理する、というのがこれまでの常識です。しかし、近年、急激に融資は変質してきました。即ち、融資の実行(オリジネーション)と、融資にかかわる信用のリスクをとることとが、分離されてきます。いまでは、融資を実行したものが、融資を売却すること、あるいはデリバティブを使って与信リスクをヘッジすること、などが普通になっています。

融資を使った資産担保証券
証券化スキームに融資を売却することは、今日、普通のことです。譲渡された融資を担保として、いわゆる資産担保証券(アセットバックトセキュリティーズ ABS)が発行されています。もともと、住宅ローンに代表される融資を使ったABSは歴史が長く、債券市場の重要な一角を形成しているのですが、現在では、利用される融資の範囲が広がっています。

モラルハザードの可能性
融資実行者が、売却を前提にして融資を実行するようなると、信用リスク管理の基本である審査に厳格を欠くようになる可能性を否定できません。融資は債権者と債務者の私的取引であり、融資実行者は債務者にかかわる情報を私的関係性の中で得ています。しかし、その融資の流動化によって作られる証券の投資家は、そのような情報を得ていません。ここに情報の非対称性があり、モラルハザードの可能性があります。

格付とサブプライムの問題
証券化された融資を証券として投資する投資家は、一般的には、格付等を基準として購入し、格下等の事由による売却によって、信用リスク管理をしています。情報の非対称性の上に、もしも、融資実行者が乱脈な融資をし、一定の格付要件をクリアするように巧妙に流動化して証券を創出すると、そのような証券への投資家は、極めて危険な立場におかれます。これが、サブプライム問題の核心です。

流動化し得る融資の限界
融資の証券化とは、債権管理者を失うことでもあります。故に、定型化された住宅ローンや、クレジットカード債権、自動車ローン、一定要件を備えた不動産向けローンなど、統計的に債権管理できる融資以外は、証券化に不適切だと思われます。その節度を越えた例が、サブプライムでありましょう。

銀行の資本規制がつくる投資機会
理論的には、いかに信用リスクに格差があっても、予想損失が金利で補償されるように、金利水準が定められている限り、統計的総合収益は、同じです。ところが、予想損失を事前に引き当てる銀行の資本規制の下では、信用リスクが高くなると、資本コストがかかる分だけ、金利を引き上げざるを得ません。この金利の上昇分、資本規制を受けない投資家にとって、有利な投資機会が得られます。

流動性のコスト
銀行等の金融機関は、保有証券については、売却による市場型リスク管理を行わざるを得ず、保有資産の売却可能性を高く維持する必要があります。一般に、格付の高い証券ほど、流動性は高いものです。信用格付けの高い証券ほど選好されて割高になりやすい一方、低格付証券は割安になりがちです。ここに、投資の機会があります。

銀行機能の補完としての投資機会
様々な理由で、銀行が融資を抑制せざるを得ない領域では、銀行に替わる代替金融機能が強く求められます。そこに投資の機会があります。現在では、不動産関連、エネルギー関連、中小企業などが、世界的に代替金融機能を強く必要とする分野なのでしょう。

多様な投資機会の創出
信用供給のメカニズムが変われば、様々な代替的資金調達の方法が工夫されてきます。劣後の仕組みや株式転換権を組み合わせる、いわゆるメザニンが代表例です。ほかにもまだ、銀行に替わる融資(ダイレクトレンディング)、資産売却を通じた資金調達(アセットファイアンス)から生まれる不動産などの実物資産など、色々な方法があります。投資の立場からいえば、新しい投資対象が、どんどん生まれているということです。

キャピタルストラクチャの多様化と投資の機会
融資にしても社債にしても、債権一般についての特色は、一つの企業が優先順位の先後関係を持った複数の債務を負担しているという点です。通常の金利秩序の下では、劣後しているものが高金利になります。しかし、高度に複雑な優先劣後関係の下で、常時、理論的金利秩序が保たれるわけではありませんし、常に、何らかの非効率が存在します。そこが投資の機会です。

資産担保証券のキャピタルストラクチャ
資産担保証券は、スキームを多数のキャピタルストラクチャに分けて発行されます。いわゆるトランチング(フランス語の一切れという意味のトランシュに由来します)です。原資産価値の変動は、この複雑なキャピタルストラクチャを通じて証券価値に反映してくるのですが、その経路を分析することは必ずしも容易ではなく、価格の大きな非効率の原因になります。

時価評価のわな
社債でも融資でも信用関連の金融商品は、全て業者間の相対取引です。現在のように需給バランスが崩れ、しかも取引業者である証券会社の在庫を持つ力が大きく低下している局面では、気配としての時価の妥当性に大きな疑念が生じています。必ずしも実態を反映しない時価で評価することによる見かけ上の損失が、ロスカットなどの売りを誘発し、さらに需給が崩れるというプロシクリカリティの異常な状況可能性が、常に存在していますが続いています。


次回、2011年 第4回HC資産運用セミナーは『事業価値とキャピタルストラクチャ』です。

なお、本セミナーで実施致しました「セミナーテーマに関するアンケート」の結果に関しましては、
「HCセミナー・アンケートレポート」にて公表予定です。