帯広信用金庫「地域シンクタンク機能の強化と創業支援融資」

第3回 金融最前線コンテンツ「地域と成長」

チーズ工房・十勝野フロマージュ・赤部社長インタビュー

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photographs : 佐藤 亘
有限会社  十勝野フロマージュ 
代表者   赤部セキベ 紀夫
業種    乳製品製造・販売
資本金   300万円
創立    平成12年3月
従業員数  7名
所在地   北海道河西郡中札内村西2条南7丁目2番地
URL    http://www.t-fromages.com

清流日本一の水と、良質な生牛乳、工房の床下には活性炭を敷き詰め、マイナスイオンを発生させる等こだわりの工房により、良質なチーズを製造。ALL JAPANナチュラルチーズコンテスト等受賞多数。2007年のコンテストでは、農水省生産局長を受賞。

(HC)わたしたちは、金融系の情報サイトを運営しているのですが、帯広信金さんが行っている創業支援ってとても素晴らしい制度だと思うのです。赤部社長のような志をお持ちの方にきちんとした金融の支援をつけるのが本当の金融機関の姿であると感じており、この素晴らしい事例について弊社のサイトを通じて多くの方へ紹介できたらと思いまして、この度、お時間を頂戴しました。まず、創業されようと思われた経緯は?

(HC)わたしたちは、金融系の情報サイトを運営しているのですが、帯広信金さんが行っている創業支援ってとても素晴らしい制度だと思うのです。赤部社長のような志をお持ちの方にきちんとした金融の支援をつけるのが本当の金融機関の姿であると感じており、この素晴らしい事例について弊社のサイトを通じて多くの方へ紹介できたらと思いまして、この度、お時間を頂戴しました。まず、創業されようと思われた経緯は?
「元々は、森永乳業に勤めるサラリーマンでした。帯広市内から車で1時間位行った浦幌町というところに森永乳業の十勝工場があったのですが、わたしは、そこで練乳や粉乳、バターなどを作っていました。平成の初め頃、工場がスクラップアンドビルドの対象になり、閉鎖されることになりまして、急遽、地元の第三セクターの会社が、その工場をそのまま借りて操業すると声をあげたので、この新しい会社に移ることになりました。製品は全て森永に買い取ってもらうという素晴らしい条件の会社でした。数年後、その町のお土産を開発するというプロジェクトが立ち上がりまして、何ができるか検討した結果、チーズを作ることになりました。誰に担当してもらうかという話になったとき、わたしは自ら手を挙げたのです。もちろん、その会社では今までチーズなど扱っておりませんでしたし、森永乳業の時もナチュラルチーズは扱ったことがなく、会社にとっても、自分自身にとっても、初めての試みでした。今思えば、『何か新しいものを作ってみたい』という気持ちが強かったのでしょう。そのとき50代半ばでした。そこから勉強を始め、最初は細々とチーズを作り始めていたのですが、2・3年やっているうちにとても面白くなってしまい、こんな面白いことを定年でやめるのは惜しい、定年待たずして自分で独立しようと思ったんです。そのためにはしっかり勉強しなきゃと思って。」

(HC)どのように勉強されたのですか?

(HC)どのように勉強されたのですか?
「当初は国内の研修場に通ったりしていたのですが、独立を考えるようになってから、フランスのノルマンディ(カマンベールチーズの本場)に行って勉強したいという気持ちが強くなりました。十勝でもフランス人の講師を呼んでチーズの講習会を開催したりしていて、その機会には参加をしていたのですが、やはり本場のチーズ作りをこの目で実際に見なければと感じていました。というのは、逆にフランスで日本の味噌や醤油を作ってみたいということが仮にあったとして、日本の技術者がフランスに行って説明したところで、どれだけ分かるかピンとこないでしょ?やはり日本に来てみて工場の中に実際入って得ることが大きいと思うんですよ。それで、講習会の参加者にチーズ講習会のフランス人講師を頼って、『みんなでフランスに行こうじゃないか』と声を掛けたら、『いいね!』ということになって10人前後で行くことになりました。全部で6回行きましたね。当時はサラリーマンでしたが、独立しようという気持ちがあったから、年休を全部消化して自費で行きました。ノルマンディをあちこち回って、チーズ作りにとってはとてもいい経験ができた。」

(HC)それから、独立の準備を着々とはじめていったわけですね。

(HC)それから、独立の準備を着々とはじめていったわけですね。
(赤部社長) 
「結局、定年8カ月前にリタイアをし、起業することになりました。チーズは作れるようになったけど、当時はサラリーマンでしたから、資金をどう工面するかに頭を悩ませましたね。まず、地元にあった家や土地を売って開業資金にまわすところからスタートです。その後、北海道の起業化促進奨励事業という、要は、道内のものを利用してものづくりをする人に助成金を出しましょう、という制度なのですが、その中高年齢者部門で、2回目の応募にして15倍の難関を通過し、優秀奨励計画に選定され、助成金を獲得することができました。そして、地元の帯広信金さんにも創業者を支援する制度があるということで、融資をお願いしました。帯広信金さんから2000万円、北海道の助成金から1000万円、自己資金1000万円の計4000万円ではじめました。」

(HC)意外と大規模なんですね。今年の4月にちょうど10年目をむかえ、工場を増設したとか。

(HC)意外と大規模なんですね。今年の4月にちょうど10年目をむかえ、工場を増設したとか。
(赤部社長) 
「昨年は少し苦戦しましたが、今までは少しずつ利益もあって順調にやってきました。小さな工房からスタートしたものですから、キャパが一杯になり、他のタイプのチーズもつくってみたいというのもあって、次第に工場を大きくしたいと考えるようになりました。ちょうどその時、ある地元の和菓子の製造会社さんから、十勝の乳製品をつかって洋菓子を作りたいので、チーズとバターを提供してほしいという話があり、それをきっかけに、工場の増設をはかり、売店の規模も大きくし、平成22年4月29日にオープンしました。当初、帯広信金さんからお借りした資金は7年間で返済を終了していたのですが、今回の増設でまた資金を提供して頂きました。」

(HC)ますます、これからですね。次の展開は?

(HC)ますます、これからですね。次の展開は?
「まずは、今の規模で軌道にのせることです。また、今まで熟成の短いソフトタイプのチーズ(代表例:カマンベール / ブリー)をメインにやっていました。今は非熟成のフレッシュタイプ(代表例:クリームチーズ / モッツアレラ)も始めていて、今度は熟成期間が最低でも3~4カ月必要なセミハードタイプのチーズ(代表例:ゴーダ / ラクレット)もやろうとしています。そのことを帯広信金の理事長さんに伝えた憶えは無いんですが、とても面白いことを言ってくれまして。ヨーロッパにはチーズの熟成専門業者というのがいます。つまり、チーズを作って何ヶ月も熟成して保存しなければならないとすると、その期間資金が寝ることになるでしょう?作ったチーズは1週間か10日経ったら熟成業者が買い取ってくれて、業者が2~3年熟成・保存し、美味しく仕上げて市場に出すんです。まさに、理事長がそれをやろうということで、セミハードタイプを熟成する工房にチーズを担保にとって融資すると。なかなか先見の明があるというか、われわれにとっては大変ありがたい話で・・。」

(HC)実はまさに、そういうようなものを金融として拡大させるということに興味があったんです。チーズは最長で何年寝るんですか?

(HC)実はまさに、そういうようなものを金融として拡大させるということに興味があったんです。チーズは最長で何年寝るんですか?
チーズ・バンク構想
(赤部社長)
「やり方によりますね。普通なら3-4カ月で市場に出せるのですが、1年とか1年半とかおけば、もっと美味しくなって高く売れるというチーズですから。」

(HC)
熟成期間は特別な冷蔵庫のようなもので保存するのですか?

(赤部社長)
「熟成庫に入れます。それで前に使っていた古い工房を熟成庫に改造中なんです。」

(HC)
熟成庫に入れたらそのあとの手間は?

(赤部社長)
「反転しながら塩水でチーズの表面を拭きます。フランスではこの作業をロボットがやっていますが、小さい工房では手で行います。」

(HC)
なるほど。フランスでは別の会社がそれをやるんですよね?

(赤部社長)
「ええ。熟成業者が行います。」

(HC)
ということは、こちらでも2つの会社に分けて、融資の方法を双方違うものにできるということですよね?

【それが、まさに理事長のいうチーズ・バンク構想です。】(同席していた帯広信金さんより)

どの会社さんも在庫負担が重くなるから、分けたいというニーズはありますよね。分ければ信金さんも融資しやすくなるだろうし。今、事業としてそういうモデルに注目しているんですよ。

(赤部社長)
「われわれ、製造サイドからは是非そうしていただくとありがたい。」

(HC)
先程の、チーズを拭くロボットのようなものを導入するとなると、設備投資が増えますよね。それを仕組みを変えずにやると、億単位の融資になっちゃう。しかし、それって熟成庫の建屋そのものに融資をつけるから、十勝野フロマージュさんだけじゃなくて、周辺のチーズ会社さんと共同に出来るので、ロットが出てますます融資がしやすくなりますね。●●熟成株式会社とか作って熟成代行すればいいんだ!

(赤部社長)
「そうそう。特にそれは北海道だからいいんですよ。十勝はチーズ工房が集積しているから。」

(HC)
素晴らしい仕組みですね。理論上、北海道全域から集めてくるのも可能ですね。本州から持ってくるのもありでしょうね。

(赤部社長)
「今は交通手段が発達していますからね。」

(HC)パリにチーズを輸出するとかは?

(HC)パリにチーズを輸出するとかは?
「最近、十勝出身の画家でパリ在住の矢柳剛さんから電話を頂きました。こんな美味しいチーズはフランスにもないと言ってくれて。それで、矢柳さんがデザイナーのコシノジュンコさんとパーティをやるのに、うちのチーズを出したいから送ってほしいと。フランスに長くいた人に美味しいと言ってもらえるのは大変嬉しいことです。しかし、チーズの輸出となると、フランスは何百年という伝統があり、日本はたかだか50年ですからね。」

(HC)
むこうは、伝統に縛られているから工程を変えにくいというか、冒険できないじゃないですか?だから、メイドインジャパンのチーズの面白さみたいなのが受け入れられる可能性もあるかもしれない。東京で売れるものがパリで売れるとは限らないですが、パリで売れるものは必ず東京で売れますから。しかし、ロマンがあっていいですね。社長は年齢的にはおいくつになられるんですか?

(赤部社長)
「70歳を過ぎました。1年に1回か2回はフランスに行きたいし、フランスだけじゃなくスイスやイタリアも見て歩きたいのですが、仕事がハードで休みが取れないことがネックですね。」

(帯広信金)
【十勝には、赤部社長のように年齢に関わりなく、常に前向きで新しいことをやっていこうと柔軟な発想をお持ちの年配の経営者が何人かいらっしゃるのですが、中でも赤部社長は十勝の経済を引っ張っておられ、われわれ信金としては、これからも応援したいと思っているんです。】

(HC)帯広信金さんも2000万は思い切りましたね。新しい会社だから勇気がいったでしょう?

(HC)帯広信金さんも2000万は思い切りましたね。新しい会社だから勇気がいったでしょう?
(帯広信金)
【創業支援融資に取り組んだのは全国の信用金庫の
中でも極めて早いほうです。そういう中で、きちん
とリスクをとって、今日これだけ立派な会社になる
ような企業を目利き力で選定して応援してきたのは本当に良かったことだと思っています。】

(赤部社長)
「本当にみなさんのおかげです。」

(HC)
帯広信金さんも、社長にそう言って頂くと嬉しいですよね。地域金融機関さんと地元企業の社長さんとの関係であるべき姿ですね。今日、そういう美しい関係は稀ですね。
地域の循環
「話は変わりますが、チーズ作りをする際、副産物としてホエイ(乳清)が出るのですが、この処理が大変なんですね。下水にも畑にも流すことが出来ない。そこで、良い処理方法はないかと考えたとき、イタリアではパルメザンチーズを作ったホエイを豚に与えてハムを作っていることを思い出したんです。フランスの工房をまわったときもホエイを豚に与える光景を目にしていましたし。それをこの地域の畜産業者に説明し、頼みにいったのですが、最初はことごとくNGを出されました。いくら豚にとって良いものだと説明しても当時は日本で誰もやったことが無いことだったので、心配だったんでしょう。その中で、1軒の業者をなんとか説得し、応じてもらうことができ、ホエイを与えはじめることが出来たのです。最初の1週間・10日は心配で豚の様子を丹念に見張っておられましたが、その後、豚の体にとって良いものだと納得していただきました。結果として、豚が病気をしなくなったり、ケガの治りが早くなったそうです。また、そのため、抗生物質を与える回数がどんどん減少し、今では、ほとんどゼロに近いそうです。その豚肉を扱うレストランがあるのですが、そこでも肉質の変化を認めて頂いておりますし。」

(帯広信金)
【赤部さんが凄いのは、生産者との関係を常に頭に入れていて、農商工連携を実践しておられると同時に、循環型農業に取り組まれているところです。この2つは地域が目指していくべき大きな方向であり、これを先駆的にやられているということで非常に注目されています。】

(HC)
まさに、循環するうちに付加価値が上がるから、域内に付加価値がおちますね。理論的には、付加価値が上がってから、域外に出せば地域は潤いますね。

(帯広信金)
【例えば、レストランのシェフから『肉質が変わったね』と言われるだけでなく、こういう肉だから高く取引してよ、っていう話だと思うんです。ホエイがいいというのが評価されたのがまだ最近のことなので、今は廃棄コストをかけずに有効利用させるということで循環させているというステージですが、ホエイ豚として、きちんとそれなりの価格で取引されるところまでが理想ですね。】

(HC)
それで、ハムまで熟成させちゃうと面白いですね。


(十勝野フロマージュ 社長 赤部紀夫氏インタビュー以上)