2020/7/7(火)開催 HC資産運用セミナーvol.150『債券投資のニッチ戦略の魅力』セミナーレポート

HCセミナー
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 10年前に発行された20年国債と、最近発行された10年国債では何が異なるだろうか。両者を比較すると、まず第一に、価格が安いのは10年経過した20年債の方である。この現象は世界的によく知られた現象で、イェール大学の最高投資責任者デイビッド・スウェンセン氏が著したエンダウメント・モデルの教科書”Pioneering Portfolio Management”にも同様の現象が記されている。ではなぜ後発の10年債の方が、より価格が高いのか。教科書の答えは、「流動性が高いから」である。

 この「流動性」というものについては、誤った理解をされていることが多い。流動性が高い(低い)というのは、売買コストが低い(高い)ということである。流動性がある(ない)という理解は誤りで、プライベートエクイティのような非流動といわれる資産でも売ろうと思えば売ることはできる。ただし、価値が100のものであっても、せいぜい70-80程度でしか売ることができない。一方、公開株式の場合、価値100のものは、よほど大量に売りつけない限り、97-99程度で売却できる。しかし、大量に売却する場合には、価格は低下するので、流動性が低いといえる。上昇相場の場合にはどのようなものであれ流動性が高く、下落相場の場合にはどのようなものであれ流動性は低い。流動性の高さは、資産の種類ではなく状況の変数によって常に変化することに留意しなければならない。

 10年経過した20年債と新発10年債の異なる点としては、ほかにも、クーポン、デュレーションが異なる。クーポン水準については、70-80年代のピーク以降金利は低下しているため、金利は前者の方が高い。金利が高いということは、投資の回収速度が速いということなので、デュレーションは短くなる。そこで、同一のデュレーションで発行時期の異なる国債を探すと、今度はコンベクシティが異なってくる。

 似た債券の、属性の差異に着目する運用会社の数は、ここ10-20年の金利低下とともに激減し、いまや絶滅危惧種となってしまった。もはや実践の場所は無く、おそらく技能も伝承されていないが、債券の技巧的な運用には依然として面白い発想のものが多い。

 ある投資適格の発行体が同一の社債を二つ発行し、一方は格付を取得せず、もう一方は格付を取得して売り出すと、実は、格付がついている方が割高となる。このような現象が、運用の世界では大きな問題となっている。まったく同等の社債であるから、格付は債券の価値に対して全く意味を持たないが、格付が付くと、アマチュアを含む広い投資家層に売られるので流動性も高くなる。無格付の方は相対的に安くなるので、プロであるならばあえて無格付を買うはずで、そうすると無格付債と格付債の価格差はある程度抑制されるはずである。では、いま何が起きているのかというと、バーゼル規制の制約を受ける金融機関の顧客からの要請により、プロの投資家が有格付を選好するということが起きている。発行体からしても、格付は本来全く不要であるはずが、現実にこのようなことが起きているために格付を付けざるをえず、悪循環となっている。バーゼル委員会が正面から外部格付手法を認めてしまっており、小さな金融機関で内部格付けをせよ、というのは難しいかもしれないが、このような規制上の非効率は問題である。

 ニッチな投資を行うためには、顧客もプロになる必要がある。ニッチは、そもそも、プロとアマチュアの格差が作り出す投資機会なので、プロがどれだけ努力しようと、顧客がついてこないと運用ができない。実際にこの手の格差が消えることはほとんどないと考えられるので、こういう顧客と運用会社のギャップが世界に存在し続ける限り、ニッチな投資機会というのは消えないという確信が持てるのである。



以上

(文責:和田、大山)

当日配布資料をPDFでダウンロードすることが可能です。




■セミナーで実施したアンケートの集計結果

Q1. 債務を前提とした資産運用に当たって、リスク管理上、重要だと考えられる点は次のどれでしょうか。最も重要だと思われるものを一つだけお選びください。

1. 資産と債務の時価変動をできるだけ一致させること。
2. 資産側のキャッシュフロー収入と債務側の支払キャッシュフロー額をできるだけ一致させること。
3. 債務構造の変化に対応するべく、環境の変化に合わせて柔軟に資産構成を見直すこと。
4. その他(具体的に:                 )

Q2. 債務を上回る付加価値を実現するためには、どのような資産構成を目指すべきだと思われますか。最も重要だと思われるものを一つだけお選びください。

1. 債券(債権含む)を中心とした運用の中で、金利リスク(期限前償還等のオプション含む)の多様化を図ること。
2. 債券(債権含む)を中心とした運用の中で、金利リスク以外のリスク(信用リスクや保険等の特殊リスク含む)の多様化を図ること。
3. 株式など、債券(債権含む)以外の投資対象を組み入れること。
4. その他(具体的に:                 )

Q3. 債券投資のニッチ戦略について、一番近いものを、一つだけ、お選びください。


<クリックで拡大>
1. 債券投資のニッチ戦略の重要性は認識しており、現在、積極的に投資を行っている。
2. 現在、投資は行っていないが、このような魅力的な戦略があるならば、今後、検討したい。
3. ニッチであるが故に、市場の広がりや深さなどの観点から、現在、投資は行っておらず、また、今後も検討する予定はない。
4. その他(具体的に:                 )


アンケート結果をPDFでダウンロードすることが可能です。