2018年9月18日(火)開催 HC資産運用セミナーvol.129『株式投資の哲学と戦略』セミナーレポート

HCセミナー
■動画ダイジェスト



聖人君子のガバナンス論は不毛
 ある株式に投資をした後、その株式の発行体たる企業のガバナンスに対して問題を指摘してしまうならば、最初からその株式に投資するべきではない。というのも、もともと欠陥のあることを認識し、それを認容したうえで株式投資を行っているのだから、それはその株式を買った投資家の責任だと考えられるからである。特に、アメリカでは、この考え方が徹底されていて、ガバナンスリスクの大きい企業の株式は株価が低く、代替的投資手法がない限り投資家は投資することを控える傾向にある。
 では、株主としてスチュワードシップを推進し、株式の発行体たる企業へガバナンスの改善を求めるにはいかなる方法があるか。それは、株式の銘柄選択である。企業は、株式の評価を高めることで株式を購入してもらい、有利な資金調達を実現したいという動機があるので、株式の評価を高めること、すなわちガバナンス改善の方向に力が働く。株式市場が有効に機能していれば、ガバナンスが行き届いている会社の株式のみが取引対象となる。このように、ガバナンスの改革を促すような経済インセンティブがないとガバナンスは効かない。ガバナンスを効かせられるような構造に設計するのが、本当のファイナンシャルエンジニアリングである。契約責任のないところにスチュワードシップはあまり意味がない。
 また、株式は、内在的にはよくならず、株式市場の周辺の資金調達市場が発達し、ガバナンスを効かせられる対象があると、そのガバナンス改善によって株式自体の評価もよくなっていくことになる。
 ガバナンスは、「経営者は聖人君子たれ」というような道徳の問題ではなく、株式市場の原理によって達成されるものなので、株式市場を機能させることが重要であり、この点を十分認識するべきである。

事業価値と資本構成
 企業の事業価値と資本構成は無関係であり、貸借対照表上のアセットサイドで事業価値を計算できる。言い換えると、事業価値は資本構成と独立に規定される。ただし、資本構成によって株式の価値は変動する。
 また、事業を分析し、その結果洗い出したリスク(リスクストラクチャー)に応じて最適な資本構成を考える、それが最適資本構成理論である。この最適資本構成を考えるのがCFOの仕事である。
 では、「株式」の分析という概念は成り立つのか。貸借対照表上の負債の部を分析することは絶対ありえない。企業分析は資産勘定だけあればできるのだから、それをもとに事業価値を分析し、その企業への投資をするか否かを決定するべきである。その決定材料としては、「事業性の有無」が唯一のものであり、事業性がないならばどのような手法であれ投資できない。事業性があれば、融資もできるし、株式・社債も買える。このような事業性評価を基礎とする投資判断の下では、「株は買えないが社債なら買える」という考えはありえないと言わざるを得ない。

株式運用
 株式運用に限らず、資産運用では、あれこれのリスクを取らずにクリーンに管理するのが王道の手法である。すなわち、これと決めたリスク(事業キャッシュフローの源泉)のみをテイクし、それ以外のリスクは管理するということを意味する。バリュー投資の場合、リスクテイクの対象となるリスクは、「割安さ」である。
 また、リスクテイクというフレーズでの「リスク」の意味と、リスク管理というフレーズの「リスク」の意味は全く違い、両者は無関係なので、この違いをしっかり認識する必要がある。この違いを踏まえると、事業キャッシュフローの源泉を取りに行くことを「リスクテイク」と言わず、「チャンステイク」と言う方がよい。
 チャンステイクする対象がない場合、一般的には資産運用は止めた方がいい。商売として金融をおこなう際、チャンステイクの対象がない場合でも必ず運用をしなければいけなくなるのが大きな問題といえる。必ず運用しなければならないのであれば、説明のできる運用が求められる。
説明ができる運用以外で、付加価値を求めるのはそれなりの高いハードルが課される。
 株式はキャッシュフロー分配の最下位に位置するので、投資手法としては難しい手段である。株式市場の状況に応じて代替的手法も検討・採用し、代替的手法が機能することで株価が上がる。代替的手段の開発は、株式に対する期待の範囲を確定させ、必然的に株式のチャンステイクの対象も定まる。これが株式運用である。



以上

(文責:宮里、大山)

当日配布資料をPDFでダウンロードすることが可能です。






■セミナーで実施したアンケートの集計結果


Q1. 株式投資は企業の成長が前提ですが、企業が持続的に成長するための必要な要素として、最も需要だと思われるものを一つだけお選びください。

1. 技術、ノウハウ、専門性等
2. 人材マネジメント
3. ガバナンス
4. 顧客志向性
5. 社会性(環境配慮、ダイバーシティ等)
6. その他

Q2. 投資家の視点に立ち、また株式全体の組み入れを維持するという前提のとき、内外株式の配分について、どのようにお考えでしょうか。一番近いと思われるものを、一つだけお選びください。

1. 日本株式を減らして外国株式を増やす方向で、調整を行う。
2. 日本と外国という区分を廃止して、グローバル株式へ一本化する。結果として、日本株式の実質的組み入れが変動するのは当然。
3. 相対的に割安な日本株式を増やし、外国株式を減らす方向で、調整を行う。
4. エマージング市場の株式を増やし、他を減らす方向で、調整を行う。
5. その他

Q3. 投資家の視点に立ち、また日本と外国の株式全体の組み入れを維持するという前提のとき、アクティブ運用とインデクス運用の配分について、どのようにお考えでしょうか。一番近いと思われるものを、一つだけお選びください。

1. 全てインデクス運用。
2. インデクス運用を増やし、アクティブ運用を減らす。
3. アクティブ運用を増やし、インデクス運用を減らす。
4. 全てアクティブ運用。

Q4. 株式運用において、「バリュー」と「グロース」というような伝統的なスタイルの区分をすることについて、どのように、お考えになりますか。仮に、運用会社を選ぶ立場(投資家やコンサルタント)に立ったとして、一番近いと思われるものを、一つだけお選びください。


<クリックで拡大>
1. そもそも、一定の既成概念で運用の手法を分類することは、不可能。全てインデクス運用。
2. 一定の運用手法の分類は、技術的にあり得ても、適当でない。運用会社に形式的なスタイルの枠に拘泥した運用を強制させる弊害があるのみで、有害。
3. 全く自由な運用というのも、問題がある。合理的な分類方法に基づいて運用会社を選択する必要がある以上、不可欠。ただし、本当にリスク分散等の視点で有益かどうかは、わからない。
4. 運用会社の選択にとっても不可欠だし、リスク分散等の視点でも有益。アクティブ運用を増やし、インデクス運用を減らす。
5. その他


アンケート結果をPDFでダウンロードすることが可能です。