2014/6/20開催 2014年6月年金資産運用基礎講座第3回・セミナーレポート

HCセミナー




第1部「オルタナティブとは何か」

 今回のアベノミクスによる一連の施策は、ここ30年間で最も本質的な改革と言えます。金融・資本市場活性化有識者会合では、投資運用業者に対して受託者(Fiduciary)と言う言葉が初めて使われ、運用者と年金基金は、同じ側にいて共同で責任を負う形であることが明示されました。ここで言う受託者責任は信託法上の受託者ではなく、日本国憲法上の「信託」と言う概念と同様に法律上の概念ではなく、相互信頼に基づく一般的な概念であると考えられます。

 米国ERISA法の下では、受託者責任は重く、ヘッジファンドや不動産に投資してよかったかが常に問われ続けることになります。受託者責任を果たす上で最大のルールは「分散投資原則」ですが、多通貨分散をしても金利リスクの分散は図れませんし、分散の範囲についても、何に投資してもよい訳ではありません。オルタナティブ運用は、重い責任のもとで、やるにしてもやらないにしても理由が必要で、人がやっているから自分も投資するでは通りませんし、分からないものに投資することは許されません。逆に、深い専門知識と判断力のある人には、投資対象が拡がってくることになります。

 オルタナティブとしての不動産について考えてみますと、開発特化型と収益物件型に分けられます。開発型は開発リスクを取り、高いリターンが見込まれますが、開発過程ではキャッシュフローを生み出しません。これに対して収益物件型は目に見えるキャッシュフローを生み出している物件です。収益物件であることを投資の要件とすることで、不動産ではなくキャッシュフローに投資することが明確となります。
 オルタナティブ投資において、不動産は最大分野と言えますが、信用の収縮を背景とするアセットファイナンス、メザニン、ダイレクトレンディング等の代替的与信は、次の類型となります。新たな投資が必要な時に、銀行が追加融資に応じられないことが問題で、ここに、規制を受けない投資家にとって、投資機会が生まれてきます。

 また企業再編等において、企業が時間を買う形になるプライベートエクイティ(非公開株式)投資は、キャッシュフローを生み出しているものに割安に投資することで価値ある投資となります。企業にとっても、売却によって得た資金を速やかにコアビジネスに再投資することで、充分取り戻すことができます。一方、日本のベンチャーキャピタル投資では、投資価値のあるベンチャー企業が少なく、魅力あるベンチャー企業を育成していかなければなりません。

 その他のオルタナティブ投資ついて見てみますと、ディストレスト(破綻証券)投資は本当に優良なものは供給量が少なく、従来からの固定顧客ですぐに埋まってしまいます。ロングショートはオルタナティブ投資として非常に多くのファンドがありますが、安直に設立したと思われるものも多く、本当に投資収益を生み出せそうな投資はそれほどないように見受けられます。逆に、科学的に一物一価で裁定される合併裁定取引や転換社債裁定取引等は案件供給が少なく、資金量の増大に追いつかず、裁定から逸脱することで運用を悪化させる運用者が後を絶ちません。

 投資対象を拡げようとすると、リスクの高い案件に手を出すことになりがちですが、金融の理論で説明できるものに投資価値があることを再認識すべきでしょう。



第2部「流動性管理の視点」

 買わなければいけないということはなくても、売らなければならないと言う事態は生じます。銀行の自己資本比率について考えてみますと、自己資本の増減だけでなく、資産の属性の変化、時価の増減によって大きく変化することになります。自己資本の調達か資産の売却かという選択を迫られた場合に、資本の調達には時間が掛かるため、資産売却を急がざる得ないことになります。そうしますと資産の時価が一斉に下がり、さらに資産売却を余儀なくされるというようなことになってしまいます。金融機関が売れると言う前提でリスク管理を行うことが、結果として売れない状況を作ってしまっています。考え方の異なる投資家が買い手に回ることが重要で、流動性が必要な金融機関に流動性を供給することが、年金の社会的役割なのではないのでしょうか?

 年金資産の場合は基本的に元本の払出しを想定しておらず、給付原資については運用収益3割、掛金7割といった配分が想定されていますので、論理的、必然的に年金には流動性は必要ないと言うことができます。
 本質的に長期運用である年金においては、非流動性資産への投資を、その時々で一番有利なものに傾斜配分し、既存ポートフォリオを補完する形で分散を考慮し、時間軸上で展開させて行くことが重要です。10年間の予定に基づくプログラム運用の下で、10年タームの案件に継続的に毎年コミットメントを積み上げて行けば、10年後にはポートフォリオが完成し、その後は償還資金で給付原資を賄うことができます。

 このような投資プログラムを実践している投資家は、日本では金融機関を含めても数えるほどです。このような投資を年金が行うことにより、繰り返しの需要が見込めるプライベートエクイティ業界も発展することになり、日本市場の投資環境整備にもつながるものと考えられます。プログラム運用の採用、担当者の継続性等に係る企業年金の取組みに期待したいと思います。

以上

(文責:大橋理瑛/佐藤知雄)

当日配布資料をPDFでダウンロードすることが可能です。