2013年10・11月年金資産運用基礎講座 第3回・セミナーレポート





第1部 オルタナティブとは何か

(1) オルタナティブの再構築
 伝統的な投資手法の代替であるオルタナティブが投資対象足り得るか否かを考えるにあたっては、社会的に意義があるのかどうかが問題となります。例えば、「米先物」について考えてみますと、① コメの安定供給に弊害となると言う考え方と、② 先物により価格の安定性に寄与すると言う考え方の両方が存在します。農作物については、技術の進歩にも関わらず、価格、数量、品質が不安定で、作る前に(先物で)売っておくと言うことには経済的な合理性があります。実需と投機がぶつかる中で生じる不均衡は、オルタナティブの投資機会と考えられます。
 また、正常な経営環境における資金需要やキャッシュフローを背景とする産業金融は所謂「伝統的資産」と言えますが、特殊な状況における資金需要や市場の非効率・機能不全から生じる産業金融は、金融リスクだけでなく法律リスク等へも投資の幅を拡張した社会的意義の高い「オルタナティブ」と区分できます。代替的な資金調達手段としてのオルタナティブは「アセットファイナンス」、「ダイレクトレンディング」、「メザニン」の3類型が代表格です。とりわけ、資本規制を受けないファンドによる、銀行融資の代替である「ダイレクトレンディング」や不良債権処理に関わる非金融的リスク投資である「ディストレスト」には、優位な投資機会があると評価しています。産業界の資金調達の在り方の改革が日本産業の再生のために必要不可欠であり、それを成し遂げるために魅力的な投資機会を提供するのがオルタナティブなのです。

(2) オルタナティブの意義
 企業の資金調達には、① 資産の売却、② 債務の負担、③ 資本の調達 の3つの手法しかありません。
 ②と③の所謂、債券や株式は一般認識としてオルタナティブではありませんが、不動産の売却のような①はオルタナティブであると認識されています。しかし、本来は資産売却が資金調達の本流であるはずです。
 オルタナティブな資金調達が主流とならない限り、日本の株式市場の再生はありません。通常、不動産ディベロッパーの事業を継続するのに不動産は必要ありません。なぜなら不動産会社は、開発後の不動産は売却して利潤を実現すればよく、保有する理由は一切ないからです。しかし、日本では、開発を行った不動産会社が、そのまま不動産を保有するという投資会社と同等の行為が正当化されています。企業統治からみれば、投資会社として安定収益を前提として開発を行うため緩慢な統治体制になりやすく、投資家からみれば開発に特化すればROEは断然高い水準となるため、結果、企業評価は低下することになります。換言すれば、オルタナティブな資金調達手法が普及すれば、株式市場は再生の一途を辿るはずです。
 投資における損失の大半は投機によって生じますので、オルタナティブへ投資をするにあたっては、如何に投機を排除するかが投資の妥当性を決定します。伝統的であるかオルタナティブであるかは関係なく、科学的、且つ、金融の本質であるかという要件さえ満たしていれば投資対象となり得るという事です。



第2部 オルタナティブの意義

(1) 流動性の定義
 法制度の変更や外部環境の変化によって流動性は動態的に変動します。それでも、資産を売却できないという事はありえません。資産の流動性とは「売却可能性」ではなく、「本源的価値に近い価格で売却できるかどうか」です。つまり、小さなコストで瞬時に取引できるかであり、流動性は金融システムの先進性の重要な指標です。全ての投資対象が適正価格で取引可能な市場が理想的な市場であり、著しく乖離した価格でしか取引ができないことは市場の後進性の象徴です。
 市場参加者の道徳的水準が高く、適正価格で取引がなされる効率的市場において、リーマンショック等の外部要因が発生すると、小さなコストで瞬時に取引できるという市場機能は一時的に機能しなくなります。ただ、そこからいかに早く回復するかが市場の先進性を証左します。市場機能が回復するまでの期間は、資本市場の整備状況の差に依存し、流動性供給にはオルタナティブが大きな役割を担っています。

(2) 資産運用における流動性
 資産は保有するのが資産運用の大原則です。資産とは科学的にキャッシュフローを創出する仕組みであり、投資はこの資産の現金創出能力に着目した行為です。ともすれば流動性を前提とした資産運用は、「売りたくない資産を見つけ、磨き、長く保有する」という投資の本質から外れたものになりがちです。即ち、これまでの日本の資産運用は、この投資の大原則から逸脱していたと言っても過言ではありません。
 リスク管理の観点から投資行動を区分すると、市場型とプライベート型があります。パブリックな投資対象は、投資家と発行体双方における情報が対称性を有する様、市場に対する充分な情報開示が必要ですが、現実には証券の発行体と投資家の間で、情報の完全な対称性が成り立たない場合が多々見られます。一方、プライベートな投資では、プライベートな関係に立脚した投資対象への積極的関与(相対取引)によって、情報の対称性が実現します。このため、経営の自由度が上がり、コストも低くなります。融資のように売れないことを前提にしたリスク管理、つまり非市場型のリスク管理によるプライベートな関係性を通じたオルタナティブのようなプライベート型投資の魅力が高いと言えます。

(3) 構造化された投資の方法
 元本からの収益が予定されている年金の資産運用では、元本の取り崩し(年金資産売却による給付)は想定されておらず、流動性は厳密には不要です。「格付け」や「流動性」に縛られた銀行に対して、そういった基準に左右されない年金を含めた投資家が、流動性の観点から適正価格よりも割安となっている資産へ投資すること等を通じて、産業界の資金調達方法の多様化を図ることができます。市場へ流動性を供給する社会的意義の高いオルタナティブの役割を、この社会的意義を前提に、創造的に考えるべきでしょう。
 加えて、すぐに売れない資産でも保有できるように予測可能なキャッシュフローを組み立てる事が重要です。10年先を見越して、非流動性資産を積み上げて行くことにより、安定したインカムならびに流動性が確保できる様、長期の視点で安定的なキャッシュフローを獲得する仕組みを構造化することが、長期運用を見据えた科学的なポートフォリオ管理です。これこそが、日本における資産運用のあるべき姿ではないでしょうか。
 

以上

(文責: 西山和宏、佐藤知雄)

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