2013/6/24開催 2013年6月年金資産運用講座 第2回・セミナーレポート

HCセミナー


第1部 債券運用の基本

(1) 債券の基本
 債券は保有していれば固定的な利息収入を生み、満期には元本で償還され、これを前提に運用することが債券運用の王道です。換言すれば、債券運用の基本は、その経済価値を理解することです。
 例えば、住宅ローンを同じ期間で、同じ人物に組むのであれば、変動金利であろうと固定金利であろうと、期間1年で2回組もうと期間2年で1回組もうと、その将来キャッシュフローは同じ期待値であることが保証されていなければなりません。投資戦略としての債券運用は、後払い利息と元本償還による将来キャシュフローの高い蓋然性、価値予見性があるためです。これを金利で現在価値に割り引いたものが債券の価格となるのです。債券の現時点の価格と、債券から発生する将来キャッシュフローの現在価値が一致する(同じ経済的価値になる)ということが根本です。

(2) 債券の基本概念
 債券に投資した際の回収期間は、各受取額を受け取るまでの期間の現在価値の加重をかけた平均期間の(マコーレーの)デュレーションで表されます。債券の満期は単に最後の回収時点でしかなく、投資額の平均的な回収期間を意味しません。価格変動率は修正デュレーション、修正デュレーションの利回り変化による感応度をコンベクシティと言います。これが大きいと金利低下局面での価格上昇の幅が大きくなります。年金運用の場合、キャッシュフローのばらつきが一定であり、コンベクシティが大きくなる傾向があるため金利低下局面では年金債務が膨れ上がる傾向にあります。一方で、米国の住宅ローンを使った資産担保証券のようにコールオプションを内包した債券の場合、期限前弁済を伴うためネガティブ・コンベクシティとなり、金利低下局面での価格上昇幅は限定的となります。
 債券の利回り(Yield Curve)には、金利が上がる/下がるという市場参加者の期待値が金利秩序に織り込まれています。冒頭の住宅ローンの話と被りますが、2年物債券と1年物債券を2年連続して投資するのとでは、同じ収益率になることが期待され、1年物と2年物の債券価格はそれを反映して決定するはずです。債券運用のようにキャッシュフローに着目したインカム戦略は投資環境に左右されず、安定的な運用を目的としており、年金運用上こうした仕組みを作るべきだと思います。

(3) 債券運用での追加的収益源泉
 債券の利回りは、信用リスク(デフォルト確率と回収率を加味した上で損失可能性)を利回りの高さで保証するよう決定されます。経済的価値の等価性の観点から考えると信用リスクをとる事の意義はなく、信用リスク運用は意味がないのではないかと考えられます。ところが実際には、信用リスクの高い債券ほどトータルリターンの期待値も高くなる傾向があるので、追加的な収益源泉となり得るのです。これには3つの観点から説明ができます。
 ①市場分断による収益、 ②資本コストの収益、 ③流動性の収益
 債券運用は領域が広く、目標の収益率に到達するために特殊なリスクもその仕組みの中に取り入れることができます。この仕組みを科学的に、且つ、広範な収益源源泉として見なすことが、債券運用の基本だといえるでしょう。 

第2部 株式運用の基本

(1) 株式の基本
 株式投資の基本は、長期的に増え続ける配当額を安定的に受け取る事であり、その投資対象となる企業については、「ブランド力の確立」と「コーポレートガバナンス」、がキーワードとなります。
 企業の資本構成は、企業の売上を優先順位に従って、順次、利害関係者に分配する仕組みとなっており、株式は最下位に位置します。つまり株主の権利は、債権者や社債保有者の権利に劣後します。にもかかわらず、損失は優先的に株式が被るため、価値の予見性が低いと一般的に言われています。
 これだけを聞くと、インカム戦略で100%債券運用した方が望ましい気がしますが、実はそうではなく、科学的につきつめ合理性が見い出せれば株式運用も選択肢に入ります。
 株主に帰属する利益は配当され、この配当が株式投資の本質的収益源泉となります。この将来キャッシュフローを現在価値に引き直す点は債券と同義ですが、①満期がないこと、②将来のキャッシュフロー金額が不確定、③適用される割引率、④キャッシュフローの発生タイミング、が債券とは異なります。株式投資では、一般的に何らかのモデルに当てはめて株式の理論価格を算出し、売買を決定するのが基本です。

(2) 企業の本源的価値
 企業の本源的価値は、企業活動が生み出す将来の事業キャッシュフローの現在価値です。
 この価値ですが、ブランド力が確立できてれば、基盤となる将来キャッシュフローの確信度が増します。例えばマセラティやフェラーリのように固定的なファンがいて、固定的な販売が実現できれば景気動向にそれほど左右されないでしょう。こうした安定需要があれば製造原価の上昇を価格に転化しやすく、安定的な事業収益を挙げられます。
 かつては企業が公募増資をすれば、資金調達によってさらなる成長期待から株価は上昇しましたが、今や投機的な空売りや希薄化懸念から株価が下落するケースが目立ちます。理由は、企業の本源的価値の上昇を伴うべき、事業キャッシュフローの「創出→分配→創出」の仕組みが、資本構成上の株主権利の劣後を補って余りあるだけの魅力を生み出していないからです。トヨタ自動車はかつて駆け出しの自動車会社でしたが、厳格な経営方針の下、在庫を持たずに、事業キャッシュフロー創出に必要な資産のみを保有することにより経営効率を高める手法を用いて成長を遂げ、ブランド価値を確立させました。株式投資の王道は、ブランド化し自発的な経営改革が実行できる企業をいかに見い出して投資をするかであり、これが出来るか否かにより、成果が大きく左右されます。

以上

(文責:西山・白木)

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