2013/5/23開催 2013年5月第一回年金資産運用基礎講座・セミナーレポート

HCセミナー


第一部 「片仮名を使わない投資入門」

「企業の一般常識の中で運用は完結するはずだ」
運用には難しい片仮名や専門用語は使わなくていいのではないか? 普段から、片仮名は使わないようにしています。特に「リスク」という言葉、日本語として、意味していることがわからなくなりやすいです。

「リスク」とは何か?
一般的に「リスク」は「損する危険性」と言い換えられます。まかり間違っても「リスク」=「標準偏差」とはなり難いです。収益を上げるためにリスクをとる、という概念は昔は納得しない人が多かったです。これは技巧的な思考から生まれてきた概念だからです。「リスク」という言葉に対する適切な日本語を当ててあげなければならないのです。そうでなければ、親切ではありません。また、収益を上げるということは、ブレが大きくなってしまう、ということです。ただ、それは上振れでなく、下振れについてだけ言っています。

「リターン」とは何か?
もっとも近い日本語は「回収」という言葉でしょう。また投資ということは資を投げると書きます。資を投げて大きくなって返ってきます。返ってこないと投資ではありません。よって、回収することが投資の本質なのです。昔の資産運用は現金を回収してこそ、「資産運用」と呼びました。会計認識されているものなら現金を移動させるメリットはありません。面倒です。また「トータルリターン」の考え方は、時価が上昇していれば、資産も上昇しているはずだ、という考え方です。

「ハイリスク・ハイリターン」とは?
損失の可能性が大きいほど回収の可能性が高まる? この考えは合っていますか? リスクとは第一に、下振れだけを問題として、第二に、損失の可能性と収益回収の機会のことを指しています。価格変動が大きくなるということは、たくさんの機会が投資家に提供されるということです。安く買えるチャンスと高く売れるチャンスがあるということです。この二つの機会を利用しないのなら、価格変動は意味を持ちません。ハイリスク・ハイリターンの理念は、標準偏差が高いものは割安でなければならない、ということでしょう。

トータルリターン=総合収益とは?
この概念は3つに分割されます。将来の利息配当変動は、不動産で言えば、賃料が2倍になれば、価値も2倍になるということです。リスクをボラティリティとして考えると、価格変動は二つに分かれます。一つは、本質的なインカムの変動か、もう一つは、価格だけの変動か、ということです。債券を例にとると、価格が下がって何が変わったか、ということです。償還されれば、期中の価格の変動は関係がありません。価格の変動を見れば、タイミングが問題というだけです。また、この価格の変動は投資の機会を与えられるだけで、債券の本質の価値の問題ではありません。債券投資が好まれるのは、本質的に商品の価値が変わらないからです。株は、価格も価値も半分になることがあります。これは、ビジネスモデルそのものの毀損が原因であることと、価格の単なる下落であることの二つに分けられます。

「リターン」という一つの言葉で話していることが、運用の本質の議論を通り過ごしてしまっています。単なる価格の変動は問題ではありません。この変動が何によるものなのか、と考えることが本質です。運用ではそこだけが知りたいのです。加えて、価格の変動が説明できない事態であれば、経営的には「保守主義」の原則に従い、運用をやめるべきです。
どうも、経営側と、年金側の説明にはギャップが生じており、何が変動要因か説明できなくてはなりません。

弊社では、価値の毀損を避ける運用をしています。つまり、リスクはとらないということです。ボラティリティは排除できない、仕方のないことです。これは単なる価格の下落と説明します。通常、運用は経営者の立場に立って、説明されなければなりません。「リスク管理」とは、危険の可能性を先につぶす、ということです。方法として、一つ目は、実損にしてしまい、将来追加的に減るリスクをなくす方法、二つ目に増資などの経営行動をぶつけ、決算をクリアする方法などが考えられます。

このように、リスク管理ということは何を管理しているかというこが、片仮名の使用によってわけがわからなくなっています。価格変動は損失ではありません。売却をして、損を確定してこそ、初めて、損失として認識されます。また、価格の変動は誰も責任をとることができません。本来のリスク管理とは、価値の毀損があるかないか、ということを管理することで、それが運用責任者の役割です。

「オルタナティブ」とは何か?
「オルタナティブ」という言葉は使わないほうがいいです。何十個の日本語が必要になります。歴史的には、不動産からオルタナティブという投資種類が生まれました。言葉を抽象化することで、本質がどこかに行ってしまうのが、問題です。
つまり、正しく日本語で説明できるものだけを運用すべきです。説明できないものは運用として手をだすべきでありません。これが「責任」です。リーマンショックの時、株価がどう動いたかを説明するのではありません。経営者としては、これからどうするのか、どうなるのか、を知りたいのです。
このように、片仮名は使わないことが大切です。日本語に一つずつ置き換えることで、「反省」がでてきて、 本質の議論が可能になります。



第2部 「社会常識の中での投資の知恵」

投資は、金融の仕組みです。資金調達と運用は表と裏の関係です。株式も債券も発行側から見れば、資金調達の道具であり、それを取得する投資家の立場から見れば投資対象です。よって、年金基金は企業の財務行動の反対側にあるのですから、資産運用を理解できない経営者はいません。

たとえば、古本は価値が高いものの方が簡単に購入することができます。価値があるからこそ、市場があり、流通されています。一方、 美術骨董品になると流動性が落ちます。この際の流動性は、売買価格のスプレッドの差を指します。スプレッドが広いから、売買価格に差が開き、ゆえに流動性がないといえます。
このような流動性が低いものが値上がりする条件として、4つあります。

1) 金持ちが欲しがるもの
2) 一般の認識
3) 必需性のあるもの
4) 近代性のあるもの


企業経営もこの4つを充足している企業は株価が高いです。これがブランドマネジメントであり、全世界の企業が取り組んでいます。そして、ブランド認識が高まり、価値が上がり、モノが売れるようになります。次の段階の議論として、その企業を今買うのではなく、明日、そうなる企業を買うというのが資産運用です。
価値があるものは高く買っても、価格はもとに戻りやすいですが、価値がないものは価格は上がりません。ただし、企業はいいモノを売りたがりません。本来、コーポレートガバナンスの観点から見ても、企業は小さな資本から良いものを作らなければなりません。そして、高く売れるいいものが企業利潤を上げていくのです。これが産業です。産業は新しい商売を作ることが仕事であり、古いものを持ち続けることではない、と強く言いたいです。

また、本来、運用担当者はガバナンスを管理することが本業であり、実務は専門家に委任しています。つまり、運用担当者は専門家が陥りやすいことを常識人としての目でチェックするのが仕事です。専門家の生半可な知識をつけて、専門家を真似てはいけません。また、理屈で説明してはいけません。常識で説明しなければいけません。たとえば、「日立はどうしてこんな株価か?」と考えてはいけません。「日立はこの株価だから、投資するかしないか」ということを考えるべきです。理屈を離れて本質を追求してください。

戦略的発想
過去の数値の統計からは、投資戦略も資産配分も出てきません。過去の数値を使った検証ができるにすぎません。検証に先立って、検証されるべき投資戦略があるのです。投資戦略は、企業経営の延長としての戦略的発想からしか生まれません。そのことに、資産運用の高度な専門性は不要です。むしろ、企業経営の常識が必要なのです。
経営は予想可能を前提にしており、現在ある事業キャッシュの中で計画を立て、運営しています。確実な事業キャッシュの中で、不確実な事業キャッシュを吸収できるようにしなければいけません。そのためにシミュレーションがあり、これは、当該事業を実行したときに問題が起きないか、チェックすることが必要なのです。これは年金基金にも当てはまります。

中期計画と短期の評価
時は後ろしかふりかえられないのではないでしょうか? 企業経営においては3年という中期が、具体的計画を立てるときの一番長い期間です。もっと長い計画はヴィジョンと呼ばれています。そのヴィジョンのもとで中期計画があり、さらに三か月、単年度という短い期間での評価と調整がなされています。

年金基金も同様です。積立て不足があり、埋めなければいけないのなら、3年後、5年後の目標を細かく設定すること、収益予測可能性の角度を上げていくことが必要です。

そして、3年というベンチマークに対して、今、を評価するのです。年金基金も経営と同じように説明できるはずです。 またそれにより、企業の持続可能性が高まっていくのです。

そのためには、まず、理屈を離れて、一般常識で考えてみてください。

以上

  
(文責: 大橋理瑛、白木智雄)

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