2013/2/13開催 HC資産運用セミナーvol.062「クレジット投資の魅力」セミナーレポート

HCセミナー

 自民党・安倍政権になり、「金融」と「雇用」をテーマとして、まっとうな政策議論がなされるようになってきました。特に、金融規制ではなく、厚生年金基金制度が発足した66年当時と同じ成長資本の議論(長期産業資金の供給)であることは画期的であり、転機が訪れているのではないでしょうか。

 現在、官民ファンドを「呼び水」として、民間資本循環の誘発が試みられていますが、金融のメカニズムが働かないと成長は困難です。例えば東京電力は時価発行増資による資金調達が不可能なため、第三者割当増資を行いましたが、そもそも事業会社は自己資本の厚みがなければ市場での調達はおろか銀行融資も受けられません。高速道路や造船、海運などの基幹産業も同様ですが、次のような代替的与信方法(構造化融資)を活用することで、クレジット投資の機会が生まれ、資本の循環を促すことができます。

・資産を売却して有利子負債を削減する、「アセットファイナンス」
・株式と債務双方の性格を有する「メザニン」の発行(優先出資証券、劣後ローン等)
・資本規制により融資できない銀行の機能代替である、銀行等以外からの直接貸付「ダイレクトレンディング」


 再生可能エネルギー法で見られるように、電気の固定価格買い上げによる事業リスク低減で資金調達を容易にすることは、結果として産業成長資金の供給につながります。原子力リスクが内包される電力会社への一般貸付は困難ですが、プロジェクトファイナンスのように、子会社方式による事業限定(例えばLNG発電事業のみ)が可能となれば、リスク低減につながり円滑な資金調達も見込めます。また、規制緩和により成長した航空業界ですが、競争激化の結果、航空会社個社の破綻確率上昇から資金調達は困難となりました。一方で銀行は個社への融資という資金供給ではなく、リース子会社を通じて業界全体へ航空機をリースするようになり、航空リース市場は拡大、航空業界を支えています。規制緩和はイノベーションを生みますが、金融との協業がなければ資金は循環せず、失敗に終わります。

 クレジット投資にはパブリックなものとプライベートなものがあります。一般的にはパブリックの方がより情報開示されており安全性が高いと受け取られることも多いですが、本当でしょうか。パブリックな社債購入は簡素化された手続きですが、プライベートである融資における手続きは審査を含めて非常に慎重に進められることを踏まえると、プライベートな方がより情報対称的で、安全性が高いと言えるのではないでしょうか。また情報の非対称性という点ではリーマンショックがあげられます。信用供与機能であるリファイナンスには幾つかのスキームがあり、技法的にはリーマンショック時に見られたものと同じです。異なる点はモラルハザードです。本来モラルハザードとは情報の非対称性を意味し、保険契約などにおいて統計的に管理できないものを回避するために用いられていますが、統計的に管理できないサブプライムローンを統計的に対応しようとしたことや、情報対称性補完として格付けによる巧妙な仕掛け(偽装)などがリーマンショックの問題と言えるでしょう。

 クレジット投資の投資機会ですが、信用リスク、認知度および流動性により、理論的な金利と実勢値が乖離するので、工夫をすればこの歪みを収益として獲得できます。新発10年債と、20年前に発行された残存10年の債券では流動性の違いにより後者が安く値付けされるという歪みが生じ、投資機会になり得ます。

 また、表面金利と破綻確率である信用リスクは比例関係にあります。表面金利1年5%の債券で、破綻確率がゼロの場合の金利は5%と仮定すると、破綻確率が5%に上昇すれば、金利は5%+5%の10%となります。それは流動性の効果(例えばAA格付から格下げとなった債券は即時売却が必要な投資家への流動性プレミアム)、資本コストの効果(会計原則上、5%分の引当てが必要となるプレミアム)や市場分断効果(格付けによる市場分断のプレミアム)で構成されます。上記の即時売却のような制約がかからない年金資金にとっては、非常に魅力的な投資機会となります。

 科学的なリサーチが機能するのがクレジット投資です。投資に付加価値を求めるのであれば、このような仕組みを理解した上で、投資を実行することが大切です。

  
 (文責:峯岸奈央、白木智雄)

  当日配布資料をPDFでダウンロードすることが可能です。

  詳細レポートをご希望の方は、下記アドレスまでお気軽にお申し付けください。
  HCアセットマネジメント運用部:research@hcax.com




■セミナーで実施したアンケートの集計結果

Q1 日本の国債の「信用リスク」について、どのように、お考えでしょうか。一番近いものを、ひとつだけ、お選びください。

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1.そもそも、国債について信用リスクを論じることに、実益はない。
2.理論的には、一定の信用リスクはあるが、実務上は、ないものと看做さざるを得ない。
3.信用リスクがあるにしても、それは、利回りに合理的に反映しているはずだ。
4.潜在的な信用リスクは、利回りに反映しておらず、投資対象として魅力がない。
5.その他



Q2 サブプライムローンから作られる資産担保証券の最上位格付(AAA)のトランチの価値について、どのように、お考えでしょうか。一番近いものを、ひとつだけ、お選びください。


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1.価値のないものからは価値のあるものは生まれ得ず、格付は欺瞞であり、投資できない。
2.サブプライムも全く価値がないわけではなく、その価値のある部分だけを切り出して作られた証券なのだから、 格付を信じて投資してよい。
3.格付を客観的に検証する方法がないのだから、そもそも、投資対象として検討し得ない。
4.現債権に遡って精査し実質的価値を検証するのが運用会社の仕事であるので、そのような仕事ができる限りにおいて、 投資可能。
5.その他



Q3 安倍政権の経済対策の柱のひとつである「官民ファンド」について、どのように、お考えでしょうか。一番近いものを、ひとつだけ、お選びください。


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1.原理的に反対:官による「リスクマネー供給」は金融規律を乱す。
2.原理的に反対:官による「リスクマネー供給」は資本主義体制の仕組み上、あるまじきこと。
3.戦術的に賛成:本来的には不適切だが、困難な経済の局面打開には、非常手段として必要。
4.戦術的にも反対:非常手段としては、大胆な規制緩和や投資減税等を行うべき。
5.その他







セミナーレポートは以上になります。