2012/8/8開催 HC資産運用セミナーvol.056「キャッシュフロー創出力を高める努力としての資産運用」セミナーレポート

HCセミナー
「投資と融資は基本的に同じ概念であり、融資できるものは投資できます。逆もまたしかりで、融資できないものには投資もできません」

「ノウハウは問題ではないんです。金融の原点に忠実であれば適正な利潤を生みだします。原点を少し外れれば10倍もの利潤を手にする可能性はありますが、それでも金融の原点に忠実であることを続けること。実はこれが一番難しいことなのです」





≪セミナー内容≫


企業へ供給された資金は、事業への投資を通じてキャッシュフローを生み出します。酪農を例にとり、キャッシュフロー創出力向上のポイントを述べます。第一に良い乳牛を買うこと。これはキャッシュフローの源泉であり、投資で言えば銘柄・融資先選択に該当します。第二に飼育技術の改善(飼料や飼育環境の工夫)。酪農家での個体差が生じますが、牛乳の質・量・コスト低下を図ることで商品競争力・ブランド力を高め(バリューアップ)、ネットキャッシュを拡大させることです。第三に資金調達の方法を工夫することで、逆の立場からは乳牛投資であり、資産配分の問題と言えます。通常、第一の論点ができる酪農家は、第二の論点もできる場合が多く、このような酪農家への資金供給がベストとなります。

実例として、JALの国際線へチーズを提供するまでにブランド価値を向上させた十勝野フロマージュという会社があります。この企業では、チーズ生成過程での副産物(産業廃棄物)であるホエイ(乳清)を、他業種である養豚場へ商品として売却するという工夫により、廃棄費用というマイナスのキャッシュフローをプラスへと転換させました。まさに循環型農業という複数産業の協業による付加価値が生み出されたのです。このようなプロセスを踏み、手間をかけることでリターンは創出されるのです。帯広信金により、チーズを担保にして十勝野フロマージュへの創業支援融資が行われましたが、これこそが産業金融の王道と考えられます。

※参考リンク帯広信用金庫「地域シンクタンク機能の強化と創業支援融資」

しかしながら、現在の投資における考え方はおかしい。例えば、最初に株式へ投資する(第三の論点)と決めてから、第一、第二の論点を辿るプロセスは異常です。まず第一の論点 → 第二の論点を考察した上で、最後に第三の論点へと帰着するのが正常であり、元々の金融のあるべき姿ではないでしょうか。

また、投資と融資は基本的に同じ概念であり、(投資制約がある場合を除き)融資出来るものは投資できます。逆もしかりで、融資できないものは投資もできません。よって投資判断も融資判断も、産業金融としては同じです。前提として四つの基本的論点があります。一つ目は本源的価値であり、将来キャッシュフローの現在価値です。二つ目は損失の可能性で、一般的にリスクと呼ばれるもののです。重要なのは科学的にコントロールすることです。三つ目は価格変動(ボラティリティ)です。需給等による市場価格の変動などです。価値に変動がない場合には看過できます。四つ目は保守主義です。大切なお客様の資金を預かる観点から、リスク管理の徹底が必要です。

では資産配分の留意点は何か。株式は資本構成上最下位に位置し、事業からのキャッシュフローのうち優先部分の残余のみが分配されます。キャッシュフローの分配を考えると、インフレ期には資本下位の株式の投資割合を増やし、デフレ期にはその割合を引き下げることが望ましいと考えられます。また、高い自己資本比率などの投資条件を、徹底的に保守的に検討することが必要です。債券(債権)投資では、特定の社債(電気やガス)は融資より優先されるため、優先劣後関係の正確な把握と、適切な地位の選択が重要です。更に債権者保護のコベナンツ設計への留意が必要です。融資は条件変更が可能であるため、より望ましい投資対象と考えられます。実物資産への投資に関しては、レバレッジが無いフルエクイティの場合、キャッシュフローそのものへの投資となります。よって債権者保護のコベナンツの設計は、エクイティにとっては極めて危険となります。

ノウハウは問題ではありません。きちんとしたプロセスを踏み、手間をかけて考え、金融の原点に忠実であれば適正な利潤を生みだします。原点を外れて高いリターンを出そうとしても、必ずしも成功する訳ではありません。金融の原点に忠実であることが大切で、実はこれが最も難しいことなのです。

投資に対する考え方として、何が重要なのか、どのようなプロセスで考えるべきなのか、ぜひみなさまも考えてみてください。

(文責:白木智雄)

  当日配布資料をPDFでダウンロードすることが可能です。

  詳細レポートをご希望の方は、下記アドレスまでお気軽にお申し付けください。
  HCアセットマネジメント運用部:research@hcax.com




■セミナーで実施したアンケートの集計結果

不動産という一つの投資の機会をとらえたとき、その機会への参画の方法には、色々と多様な形態を考えることができます。 例えば、思いつくままに挙げても、少なくとも、以下の5つがあります。

1. 不動産事業を営む企業の株式への投資 
2. 個別の不動産そのものの所有
3. 不動産ファンドのエクイティへの投資
4. 不動産ファンド向け融資(不動産担保融資)
5. 不動産担保融資を証券化した債券(CMBS)への投資



Q1 個人的な好みの問題として、以上の5つのうちで、好きな投資方法は、どれでしょうか。一番趣味に合うものを、一つだけお選びください。


<クリックして拡大>
1. 不動産事業を営む企業の株式への投資……3人
2. 個別の不動産そのものの所有……10人
3. 不動産ファンドのエクイティへの投資……5人
4. 不動産ファンド向け融資(不動産担保融資)……9人
5. 不動産担保融資を証券化した債券(CMBS)への投資……6人



Q2 年金基金の資産運用方法の問題として、以上の5つのうちで、資金特性に最も適しているとお考えになるのは、どれでしょうか。一番近いものを、一つだけお選びください。


<クリックして拡大>
1. 不動産事業を営む企業の株式への投資……1人
2. 個別の不動産そのものの所有……3人
3. 不動産ファンドのエクイティへの投資……9人
4. 不動産ファンド向け融資(不動産担保融資)……8人
5. 不動産担保融資を証券化した債券(CMBS)への投資……12人



Q3 現在の日本の不動産市場の状況に照らして、以上の5つのうちで、最も魅力的な方法とお考えになるのは、どれでしょうか。一番近いものを、一つだけお選びください。


<クリックして拡大>
1. 不動産事業を営む企業の株式への投資……1人
2. 個別の不動産そのものの所有……1人
3. 不動産ファンドのエクイティへの投資……9人
4. 不動産ファンド向け融資(不動産担保融資)……13人
5. 不動産担保融資を証券化した債券(CMBS)への投資……8人
無回答……1人