2011/9/14開催 HC資産運用セミナーvol.045 セミナーレポート

HCセミナー
当日配布資料をPDFでダウンロードすることが可能です。

今回のセミナーには、総勢68名の方々にご参加頂き、誠にありがとうございました。

前提の崩壊
長期国債(10年債)の利回りの歴史的平均が6%を超えている時代環境を前提にしてこそ、5.5%の投資収益の「予定」は正当化されていました。しかし、事実としては、最近20年間の平均は、5.5%をはるかに下回る水準にとどまっています。一方、株式市場の長期低迷と、円高の進行のもとで、その収益の不足を、株式投資や外国証券投資では、十分にまかない切れてきませんでした。

信託銀行と生命保険会社の独占
企業年金の資産運用は、1990年3月31日まで、法律上、信託銀行と生命保険会社とによって、独占されていました。歴史的に、長期産業資金の確保や、企業年金制度の普及という政策課題が優先されたためだと考えられます。一方、変化の兆しは、1985年の外銀信託の認可、1986年投資顧問業法(金融商品取引法に統合)の施行に表れはじめていました。

1990年4月1日法律改正
1990年4月1日に、改正厚生年金保険法が施行され、厚生年金基金の資産運用について、初めて規制の緩和が行われました。具体的には、極めて限定的ながら、投資顧問会社との投資一任契約が認められたのです。以後、漸次、規制が緩和されるにつれて、投資顧問会社への委託額も増えていきますが、信託銀行と生命保険会社の優位は、大きくは変わりませんでした。

1997-1998年の金融危機
1997年4月日産生命に対する業務停止命令、同年11月には、三洋証券、北海道拓殖銀行、山一證券と、大型の破綻が続きました。以後、1998年10月には日本長期信用銀行、同年11月には日本債券信用銀行が、特別公的管理に移行するまで、深刻な金融危機に見舞われました。金融制度を揺るがす地殻変動は、企業年金の運用にも大きな影響を与えました。自己責任原則ということがいわれ、運用規制の完全撤廃が行われました。以後、この危機の中、投資顧問会社の利用が一般的となり、現在の年金運用の基本となる形が一気に普及していきます。

2000年に始まる平成の大不況の破壊的影響
1997年以降の大きな変化の中で、企業年金の内外株式への資産配分は、大きく引き上げられます。当時の米国の企業年金の平均とされた、60-70%株式/30-40%債券、という形に近い資産配分が一般化していきます。株式のうち、少なくとも半分は国内株式だったと思われ、2000年から2003年初めにかけての国内株式の大幅な下落が、年金財政に深刻な影響を与えることになります。この時期に退職給付会計、時価評価など重要な改革が行われたこともあり、企業年金という制度そのものの持続可能性にすら疑問が呈せられる状況が生まれます。その中、確定拠出企業年金法、確定給付企業年金法が、相次いで制定され、資産運用の改革よりも、代行返上、給付減額、確定拠出への移行、キャッシュ・バランス・プランへの移行、解散など、制度自体の見直しが進行します。

2003年以降の危機からの回復と、運用の保守化、オルタナティブの普及
2003年以降、急速に投資環境は好転し、制度変更も一段落してきます。しかし、退職給付会計の下でのリスク管理が一般化するにつれて、資産運用の期待収益率は、低下していきます。結果として、資産配分の基本形も、概ね30%株式/70%債券を中心にした形に移行していきます。低金利状況が変わらない中、債券部分が拡大する仮定で、いわゆる「債券代替」としてのオルタナティブ投資が急速に普及していきます。

リーマン・ブラザーズの衝撃と世界的金融危機
2007年初より、サブプライムの危機が始まります。2008年9月には、リーマン・ブラザーズが破綻しました。大きな、しかも世界的な金融危機の発生です。この期間、企業年金の運用収益は、相当程度、保守化が進んできた割には、予想外に大きな損失を計上しました。「予想外」ということが問題です。従来のリスク管理では、測定され得ないリスクの顕在化です。自由化以来、20年の日本の企業年金の資産運用の歴史の間に、世界の資本市場の構造は劇的に変貌を遂げていたのです。20年で確立した日本の企業年金の運用の姿が、実は、環境変化に対応できていなかった可能性があるのです。

2010年ソブリンの危機
サブプライムの危機は、稀有な金融の危機といわれましたが、それからわずか三年後、先進経済圏は深刻なソブリンの危機に見舞われています。一方、エマージングは、もはや、中国に見られるように、先進国以上の存在感です。投資の環境は、大きく、変わってしまいました。

原点への回帰
オルタナティブは、もはや、「その他」というような中途半端なものではあり得ません。伝統資産とオルタナティブ、先進国とエマージング、というような区別自体が、意味を失っています。いまこそ、資産運用の原点に帰って、基本に忠実な(ありきたりの理論に忠実な、ではなく)資産運用のあり方を考えるべきです。


次回、2011年 第10回HC資産運用セミナーは『キャッシュフローの創出力を高める努力としての資産運用~伝統的な資産管理方法の根本的な刷新~』です。
是非とも皆様のご参加をお待ちしております。

なお、本セミナーで実施致しました「セミナーテーマに関するアンケート」の結果に関しましては、
HCセミナー・アンケートレポート」にて公表予定です。