2017年4月18日(火)開催 HC資産運用セミナーvol.112『社会常識でわかる投資の基本』セミナーレポート

HCセミナー

■動画ダイジェスト


 金融界で常識といわれていることは、必ずしも世の常識ではない。
 森金融庁長官は、4月7日に証券アナリスト協会の国際セミナーでおこなった講演のなかで、年金基金に「顧客本位の業務運営に関する原則(フィデューシャリー・デューティー)」の適用があることを明確に言い切った。このことには2つの意味がある。
 一つは、フィデューシャリー・デューティーは強制力を持たないソフトローなので、自分が「金融事業者」であると思わない限り、適用はないということである。ところが、金融庁は、金融事業者の定義は金融庁として明確にしない方がよいと言っており、皆さんは自分の判断で自分のことを金融事業者だと思いなさい、ということになっている。明確な定義がないため、自分が金融事業者だと思う人は入るし、入らないと思う人は入らない。社会常識上、年金基金が入るかどうかは明らかである。
 一方で、長官は「見える化」ということをいっている。自分が金融事業者だと思う人は、手を挙げて、顧客本位の業務運営に関する原則に従いますということを宣言することになる。ある年金基金が宣言した一方で、他の年金基金が宣言をしなかった場合、宣言しなかったことが見えてしまう。受け入れ宣言をすると、金融庁が作成するベンチマークによって、宣言の履行状況を自己点検する作用が働く。専ら顧客の利益のためにと謳いながら、顧客の利益になっていない場合には、金融庁としては適切な対応を取らざるをえなくなる。宣言しない責任は重いが、宣言する責任はもちろん重い。宣言の中身を見ても、「します・しません」という言い切りなのか、「努めます」という言い方なのかで見える化してしまう。

 融資には、「お金を借りる」という行為と「お金を貸す」という行為の、2つの行為があるわけではなく、1つの融資契約の中に、借りる人と貸す人がいるという側面があるにすぎない。企業から見れば資金調達であり、我々から見れば資産の運用である。このことは常識的にわかるはずであるが、金融界では当の昔に忘れ去られている。我が投資運用業界で社債の取得をするということは投資という行為以外のなにものでもなく、裏側にある資金調達という側面は見られていない。このような状況の改善のために打ち出されたのが、スチュワードシップ・コードである。スチュワードシップ・コードは、1つの行為の中の2人の当事者の対話行為が今まで無かったことがおかしい、ということを言っており、金融を大きく常識化させると思う。
 
 企業の資本調達は合理的でなければならない。合理的でない資金調達は、今日的には、コーポレートガバナンス・コードに反している、といわれる。コーポレートガバナンス・コードに則った資金調達をおこなっているならば、最適な自己資本の比率というものが存在しているはずであり、現在の自己資本の適切性を合理的に説明できることは絶対要件である。
 
 スチュワードシップ・コード、コーポレートガバナンス・コード、顧客本位の業務運営に関する原則(フィデューシャリー・デューティー)の3つの原則のもとで、投資家と資金調達をおこなう企業が出会う。そこでの緊張関係が資本市場の活性化をもたらし、一方で資産運用の高度化が図られれば、反対勘定として資金調達の高度化が図られる。これが、アベノミクスにおける資本市場改革の最終形であり、今日までに確実な歩みをもって進捗してきた。施策の完成が出発点であるというのがアベノミクスであり、完成したところから日本の金融は、やっと、高度化へ向けて歩み始める。実質的な改革はこれからである。30年資産運用をおこなってこられたのは、このようになるという確信があったからである。実際にこういう日が来てみると、感慨深い。
 
 昔から、資産運用は酪農に例えられている。酪農では牛そのもの(元本)は潰さず、牛乳(利息配当)を取る。牛の価格は将来のネットキャッシュフロー総額(= 将来に渡る総売上額 ‐ 総費用)の現在価値として評価されるはずであり、この価格付けの仕組みは、株式や債券、不動産その他すべての金融商品と同じである。いま、酪農を興したいとする。このとき、牛乳の値段の下落は大した問題ではない。牛乳それ自体を投資対象として認識していないからである。しかし、牛乳の価格の下落や、飼料代の上昇がリスクの主要因として主役に躍り出てしまっているのが現在の金融である。これらの価格が上がるとか下がるとかは2次的、3次的な要因でしかないはずであり、乳量(キャッシュフロー)の増大を目指した行為こそが価格の変動の主たる要因となるはずである。このようにリスク概念を整理することをリスクテイク戦略(リスクアペタイトフレームワーク)という。誰も牛乳を飲まなくなる(需要そのものがなくなる)という、究極の、避けようがないリスクを頂点とし、それ以外のリスクを管理対象としてコントロールすることがリスクテイク戦略の狙いである。リスクテイク戦略などというと金融的に難しそうに見えるが、牛乳を飲む量そのものが減ってしまうという避けようのないリスクと、酪農の中身の高度化に伴うリスクは別のものである、というだけのことである。資金融資で考えると、融資先のキャッシュフローの動態そのものがリスクテイク対象であり、そこがひっくり返れば利息は一切払ってもらえない。その代わり、ひっくり返らないようにありとあらゆるエンゲージメントをおこなう。ひっくり返れば利息が払われないことを覚悟した上で、絶対に回収するという意思表明(コミットメント)がエンゲージメント活動を進化させる。この頂点のリスクは、日本では、常に動いているのだと思う。
 リスクテイク戦略を貫徹させるためには、頂点のリスクに付随する邪魔なリスクを最小化すべきである。この邪魔なリスクの最小化をリスク管理という。これまでの金融は、リスク管理の名のもとに、頂点のリスクに介入しているのが現状である。
 
 森長官は、金融のテクニカルな用語を金融行政方針から削除し、リスク管理に関する言及をほとんど無くし、リスクテイク戦略の重要性に置き換え、常識へ訴えかける顧客本位概念を強く打ち出した。それは、金融機関の人以上に、国民がそれを読み、国民に常識的な視点で金融機関を選択してほしい、ということである。金融サービスの利用者の視点に立った金融がおこなわれるようになれば、金融は社会常識に立脚したものとなり、常識的な視点を欠くテクニカルな説明や根源的な誤謬はなくなるのではないだろうか。



以上

(文責:和田・大山)

当日配布資料をPDFでダウンロードすることが可能です。






■セミナーで実施したアンケートの集計結果

Q1. スチュワードシップ・コード、コーポレート・ガバナンス・コードに加え、顧客本位の業務運営(フィデューシャリー・デューティー)に関わる原則の登場によって、資産運用に関わるほとんどの企業がガバナンス改革を迫られることになりました。これらの取り組みについて最も近い考えのものを、一つだけお選びください。

1.積極的に参画していきたい、または、すでに積極的に動いている
2.積極的に参画していきたいが、具体的な良い方法がわからない
3.うまくいかないと思う、もしくは、(あまり)乗り気にはなれない
4.諸々の事情により、しばらくは様子を見ていたい
5.これらのガバナンス改革の射程に入っていないので、コメントは控えたい

Q2. 「株・債券・オルタナティブなどの投資対象と配分比率を初めに決定してから銘柄を選択するのではなく、キャッシュフローの読みやすさ(利益の安定度)から今の自分に合う投資対象を決定するべきである」という投資の意思決定について、今の考えに最も近いものを、一つだけお選びください。

1.そのように投資をおこなっていく方が良いと思う、または、そのように投資をおこなっていきたい
2.理屈は納得できるが、組織の説得など様々な制約を考えると、そのように意思決定をおこなうのは難しい
3.(あまり)納得はしていない

Q3. 高度な資産運用をおこなうための実践的な手法「リスクアペタイトフレームワーク」について、今の考えに最も近いものを、一つだけお選びください。


<クリックで拡大>
1.以前からこのような考え方をしていた
2.すでに導入している
3.活用していきたい
4.活用していきたいが、具体的な取り組み方がわからない
5.労力を考えると導入は難しい
6.(あまり)良い方法だとは思わない

アンケート結果をPDFでダウンロードすることが可能です。

過去のセミナーレポート

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